社会的には死んでも君を! (MF文庫J) | |
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「社会的には死んでも君を!」壱日千次
とある男子高校生・薩摩八平には、ある呪いがかかっている。それはラブコメ現象と呼ばれるもので、転んだ拍子に女の子のスカートの中に頭を突っ込んでしまったり、何の気なしに頭をかこうとした手が女の子の胸にあたってしまうという現象だ。漫画や小説の中ではよくあることだが、現実で起こってしまうと当然リアルに変態扱いされてしまう。そのために八平は努力していた。各種漫画や小説で知識を蓄え、いつ何時強制力が働いても平気なように体を鍛え、運命に抗おうとしていた。中学時代は、力及ばずに変態の烙印をおされはぶられていた。
そんな八平にも味方が一人いる。それは幽霊の香月だ。アイヌの着物のようなものを羽織ったこの美少女幽霊が、幽霊故の視界の広さで八平に危機を教えてくれる。まあもともとが、ラブコメ現象が起きるようになったのは香月が八平にとりついてしまったせいなので、当然の手助けといえばいえるのだが、八平は常に彼女の献身に感謝していた。ぶっちゃけ愛していた。他人からは見えも聞こえもしない存在である彼女と添い遂げようと心に決めてすらいた。たとえ周りからどんな目で見られようと。社会的には死んだとしても。
序盤の無理矢理くさいハーレム展開な出会いシーンの連続と、地の文のくせがひっかかって、ちょっと読むのに手間取った。ストーカー気味の義姉や、思い込みマックスな級友、品行方正文武両道な生徒会長など、直球テンプレートなハーレム要員たちも鼻について、半ばまでは読むのをやめようと思っていた。
後半になって香月の存在を揺るがす事件が起き、そこから一気にイメージが変わった。八平だ。魅力的な女性たちに慕われ好かれ、ふらふらしていた彼が、きちんと香月を愛していることが伝わってきたのが原因。一途にまっすぐに香月を求める彼がかっこよかった。もちろん、香月が受け入れてくれても、2人は愛を口にすることしかできないのだけど。そのもどかしさも含めて良い話だった。
昨今の鈍感ハーレム体質主人公たちの作品群とは一線を画す本作。次巻にも期待です。