広く浅く

秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

試験場見学・完結編

2012-03-28 23:59:59 | 動物・植物
この記事に続いて、静岡のカンキツ類の試験場の一般公開の続きです。

前回紹介した巨大ブンタンの木を過ぎると、道はわずかな間だけ山の中へ入る。
そこもミカン類の木がたくさん植わっており、育種圃場(新品種を作るための畑)になっているようだが、「旧伊藤公爵別荘「独楽荘跡地」」という表示板があった。
大正7年に伊藤博文の養子・伊藤博邦がここに別荘を建て、皇族が静養に訪れたこともあったという。昭和25年に興津町に譲渡、翌年に町と試験場(現在の清水興津中学校の土地)の間で土地の交換が行われてここが試験場のものとなり、建物は職員官舎、他は圃場として使われるようになった。
昭和57年に老朽化のため建物は解体され、現在は跡地のすべてが育種圃場として使われている。
針葉樹があったりする山道
再び視界が開け、今までの東~南東側の海側ではなく、南西~西側が眺められる。

すぐ向かいに別の山(これもみかん山かな)があり、間にわずかな谷が見えるだけ。住所では「興津本町」らしい(試験場側は「興津中町」)
場内の道は下り坂になり、フェンスを隔てて外に細い道路と民家が並ぶ平地に下りた。この記事などで紹介した、以前外から試験場内を覗いた道路だった。
やがて、通用口みたいな門が開いてオレンジジャンパーの職員が立っていて、その細い道路に出た。
あっけなくこれでもう帰れってこと? と思ったら、すぐ先に別の門がありそこにも職員がいて、再び場内へ招き入れてくれた。構造上、いったん場外へ出ないと、正面へ戻れないのだった。
そして最初のプラタナス並木や受付のある建物前へ戻った。そこまで来たら、あとはご自由にということのようだ。

試験場の正面付近にはいくつかの樹木があり、古いものが多い。
大きな木はヤマモモ
ヤマモモは伊豆・房総が北限だそうで、北日本ではなじみがないが、巨木だ。
樹齢300年を超えているらしい。(説明板には平成元年時点で「約300年生と推定」とあった)
この木は、かつては試験場と続きの別の山に生えていて、そこから移植されたのだという。
前の山に生えていた時に落雷を受け、当時は落雷を受けた木が神聖視されており、また大きな木だったので、明治時代の試験場開設時に寄贈されたとのこと。

厳重に囲まれていたカンキツがあった。
「清見(きよみ)」原木
ちょうど今頃が最盛期のようだが、店頭に「清見」とか「清見オレンジ(※下記参照)」という、オレンジのような大きめのミカンのようなカンキツ類が並んでいる。
その清見は、ここ興津の試験場でミカンとオレンジの掛け合わせによって作出されたのだ。

ミカン(tangerine)とオレンジ(orange)を掛け合わせて作られた雑種のカンキツ類を総称して「タンゴール(tangor)」と呼ぶ。
だから、清見も「タンゴール」なので、店頭でたまに見る「清見オレンジ」という表現は正しくないことになるけれど、一般の人に「タンゴール」なんて言っても通じないから仕方ない。

清見は1949年に交配され、1956年にここに植えられ14年後に初めて結実。1979年に興津のお寺や景勝地の名を取って「清見」と命名された。登録番号は「タンゴール農林1号」であり、日本初のタンゴールでもある。
現在は愛媛、和歌山、九州などで生産されているほか、やはり今の時期出回っているタンゴール「せとか」「デコポン(不知火)」の親品種でもあり、米の品種に例えればコシヒカリみたいな重要な存在のようだ。


前後するけれど、建物内を見学した後、見本園に上る間に、屋外にテントを張った「試食コーナー」があった。
5種類ほど、1切れずつ食べさせてもらえた
「たまみ」「はるみ」は、ここ15~10年ほどの間にできたまだあまり流通していない新品種。どちらも清見の血が入っているが、「みかん」として品種登録されているようだ。たまみはβ-クリプトキサンチンの含有量が多いそうだ。どっちがどっちかは忘れたが、濃厚なミカンでちょっとオレンジっぽいような、好きな味だった。もう1つ「レモネード」なるものも(後述)。
あとは、おなじみ
ハッサク
秋田市の昔の学校給食でも、こういう感じにカットしたハッサクやアマナツ、イヨカンなんかが出たものだ。

隣のテントでは、地元の農園が来て、カンキツ類の直売をしていた。値段はそれなり。
ちなみに、見本園見学前に購入してはいけません。重い袋を持って坂を上り下りすることになるのだから。見終わってから最後に買いましょう。
あと、興津駅横のJAしみず経営のAコープ「ふれっぴー興津店(以前の記事)」でも、駐車場にテントを張って直売。試験場内のものより、形が不揃いだったり小さかったが、こっちのほうが安かった。さらに店番の農家のおばさんらしき方にオマケしてもらえたし。
ふれっぴーでは、試験場で試食して珍しい味だった「レモネード」を購入。試験場内でも売っていたのだけど、間違って別のものを買ってしまったので…(でもそれもおいしかった)
さっぱりしているけど、さほど酸っぱくないというか、甘いレモンというか、そんな味。
試験場内にもたしか説明はなく、ネットで調べてもあまり情報がなく、静岡などでごく一部でしか栽培されていないらしい。「レモンの枝変わり」という記述も見受けられるが、それはどうかな~?

試験場見学のおかげで(洗脳された?)、今まであまり興味がなかったミカンより後の時期に流通するタンゴール類への関心が強くなった。
ちょうどスーパーへ行ってみれば、まさにそれらが今が旬。秋田でも清見、デコポン、せとかを中心に何種類も、比較的手頃な価格(安いと1個98円くらい)で売られている。(残念ながら静岡産は少ない)
買って食べてみれば、ミカン系の味だし、外の皮はなんとか手で剥けるし、中の袋(じょうのう)はそのまま食べられる。オレンジとは違う、日本人の好みにあったカンキツ類だと思う。
もっと生産・消費を増やせば、日本の農業が元気になるような気がするけど、そう簡単でもないのだろうか。


パネル展示もされていて、興味を持ったものをいくつか。
まず、最近、ウンシュウミカンの「浮皮」が目立っているという。
外側の皮と、中の果肉の間にすき間がある状態。高温で発生しやすく、腐りやすく(浮いた皮に傷がつくから)、薄味になる傾向があるそうだ。
地球温暖化が進むと浮皮がさらに進み、ほかにも着色不良や落果の心配もあるという。

見本園では、さまざまなカンキツ類を見られた。
果実の大きさや色が違うのはもちろん、葉っぱとか果実の付き方も違ったけれど、それには法則があり、それらからどの系統の種なのかだいたい判定できるそうだ。

花(=果実)が1か所に1つ付くか、複数付くかで大別され、さらに葉っぱの形(付け根側の「翼葉」)で分類や分布が分かる。

果実を保存する時は、種類によって適した温度・湿度が違う。
ウンシュウミカンは温度・湿度とも低め
ビニール袋での保存は口を結ぶと湿度が高くなりすぎるので要注意だそうだ。


とても楽しめた試験場見学だった。いつかまた訪れたい。
まさに「みかんの花咲く丘」(写真は「文旦の実る丘」ですが)
興津に試験場ができたのは、1902(明治35)年6月(農商務省農事試験場園芸部)なので、今年で110周年。
ネットで見つけたのだが、実は宮澤賢治がここを訪れている。
盛岡高等農林学校(現岩手大学農学部)在学中、京都方面への修学旅行の途中の1916(大正5)年3月22日に立ち寄って見学したそうだ。
今でさえ、東北人からすればカンキツ類の木が珍しいのだから、賢治たちも興味深く見学したに違いない。そして、プラタナス並木やヤマモモの木、植えられて間もない薄寒桜(興津寒桜)も見たのだろう。

試験場見学の話題はここまで。次回以降、少し残っている静岡の種々の話題を取り上げます。こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする