壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

一葉舟

2011年08月29日 00時05分24秒 | Weblog
        よるべをいつ一葉に虫の旅寝して     芭 蕉 

 「よるべをいつ」と字余りにしたところに、談林的な発想の声調にあらわれたものが感じられる。
 謡曲「浮舟」の「寄るべ定めぬ浮舟の……よる方わかで漂ふ世に」とか、「この浮舟ぞよるべ知られぬ」などを心に置いて仕立てた作であろう。
 一葉舟にすがる虫を旅寝と取りなしたところが、発想の中心になっている。宗因にも
        秋や来るのうのうそれなる一葉舟
の作がある。

 「よるべをいつ」は「寄る辺は何時」で、いつ寄る所を得ることぞの意。
 「一葉」は「桐一葉」と同じ。『淮南子(えなんじ)』の「一葉落つるを見て、歳のまさに暮れんとするを知る」その他の本文によるもので、秋に先がけて桐の葉が落ちるのを言う。また、その一葉が水に浮かんで舟のように見えるのを「一葉の舟」という。
 『増山井』に、「一葉 ひとはの舟 一葉は桐なり」とある。

 季語は「一葉」で秋。ただし句中では一葉舟の意である。「虫」も秋。

    「水に落ちた桐の一葉にすがって、一匹の虫が旅寝をしている。いつ
     寄る辺の岸を得ることであろうか。まことに頼りないさまである」


      鉦の音の残る思ひの阿波踊     季 己