壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

梶の葉

2011年08月23日 00時00分03秒 | Weblog
        梶の葉を朗詠集のしほり哉     蕪 村

 古く七夕には、七枚の梶の葉に七夕の歌を書いて織女星を祭るのが、普通であった。その際によく利用されたのが「朗詠集」。正しくは『和漢朗詠集』といい、藤原公任の著で、和漢の詩歌の秀作を集輯(しゅうしゅう)したもの。
 先に、
        夏百日墨もゆがまぬこゝろかな     蕪 村
の句について説明したように(拙ブログ2011.07.08参照)、季語が自然に備えている事情を働かす以上には、特別に配合や技巧をこらさず、しかも季語の美感を十分に醸し出している種類の句である。その点、その句と性質が共通し、より以上に成功している句としては、
        駒迎ことにゆゝしや額白(ひたひじろ)     蕪 村
がある。昔、毎年陰暦八月十六日諸国の牧場から宮中へ良馬を献ずるのを、天皇が親覧せらるる行事を「駒牽(こまひき)」といい、その駒が近江逢坂の関まで着いたとき、宮廷から迎えに行くのを「駒迎(こまむかえ)」といった。この句の意味は――いずれも良馬ばかりだが、その中の一頭が額に真っ白な斑が鮮やかに大きく出ていて、いずれの馬よりも厳めしく勇ましい姿であった、というのである。

 「しほり」は「しをり」と書くのが正しい。

 季語は「梶の葉(七夕)」で秋。

    「梶の葉を栞代わりに挟んだ朗詠集が置いてある。七夕の部分を開いて
     そこにある歌を梶の葉に書き写していた最中、何かの用事が出来て
     そのままに座を立ってしまったのであろう。葉の緑の色が、本の白さに
     映えていかにも美しい」


      裸婦像の重き輝き晩夏かな     季 己