壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

せみの声

2011年08月01日 00時00分17秒 | Weblog
        大仏のあなた宮様せみの声    蕪 村

 「大仏のあなた宮様」の大仏は、京都の方広寺の大仏であろう。現在は木像であるが、蕪村の時代には唐金のものであった。その方広寺の東、阿弥陀峰のふもとに妙法院がある。妙法院は宮御門跡の一つで、妙法院宮ととなえられる。
 この句は、方広寺の大仏を隔てて、妙法院を望んだ地点での作と思われる。

 白く灼ける夏の真昼の「しずかさ」。ことにあまたの蟬の声が一つに鳴き澄んだ際のある種宗教的といってもいい「しずかさ」は、芭蕉の
        閑さや岩にしみ入る蟬の声
 の名吟によって、永久の真実となったのである。
 芭蕉の句は、立石寺という仏域において詠まれたのであるが、蕪村の掲句は、「大仏」とさらにその上へ「宮様のお住まい」とを配することによって、「しずかさ」に「畏(かしこ)さ」を加えているのである。ただ芭蕉の句と比較してその「しずかさ」の沈痛さが希薄なのは、この句がより多く題材そのものに依存しており、リズムの荘重さにおいて劣るからである。

 季語は「せみ(蟬)」で夏。

    「ここには、夏でも冷たく潤った御肌の大きな唐金の仏像が、ずっしりと
     坐して、しずかに目を伏せておられる。かなたには、峰へかけて鬱蒼と
     した茂りで、そこは畏(かしこ)くも宮様のお住まいであり、蟬の声が
     広々とそろって時の歩みのように、つつましやかに奏でている以外に、
     何の物音もない」


      みんみんや古地図を読みに資料館     季 己