壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

正風体

2010年04月21日 22時44分21秒 | Weblog
        青柳の泥にしだるる潮干かな     芭 蕉

 実景をそのまま写したものと思う。自然に対した場合の、かろがろとした味わいが感じられる。
 許六は、『俳諧問答』の中で、「不易発句(ふえきほっく)の事」としてこの句を掲出し、「此の句景曲(けいきょく)第一なり」とし、「是正風体(これ しょうふうてい)たるべし」と賞賛している。
 「景曲」は、気色などを眼前に浮かびあがるように、ありのままに詠むこと。
 「正風体」は、安永・天明ごろから芭蕉の一門が自派の俳風すなわち蕉風(しょうふう)を呼んだ称。さび・しおり・細み・軽みを重んじ、幽玄閑寂の境地を主とし、必ずしも古式にしたがわず、貞門・談林に比べて著しい進境を示すものだ。

 『炭俵』に「上巳(じょうし)」の句として掲出。『俳諧問答』・『泊船集』には、「重三(ちょうさん)」と前書きして掲出されている。
 「上巳」・「重三」は、ともに三月三日をさすことば。この日、潮が大いに干るので、江戸時代は潮干狩をする風習があった。
 「青柳」は、「潮干」の点景になっているので、季語としては「潮干」がつよくはたらく。春季。

    「きょうは三月三日の大潮の日なので、いつもは水上に垂れていた青柳の糸も、今日は泥の
     上にしだれていることだ」


      柳垂れ夜の銀座のこぬか雨     季 己