壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

糸桜

2010年04月13日 22時58分46秒 | Weblog
          万乎べっしょ
        年々や桜をこやす花の塵     芭 蕉

 『千載集』の
        「花は根に 鳥は古巣に かへるなり
           春のとまりを 知る人ぞなき   崇徳天皇」
 という歌の「花は根にかへる」という想が、多くの謡曲に生かされているので、それが発想の元になっているのではなかろうか。
 万乎(ばんこ)のべっしょ、つまり、万乎の別荘での属目吟である。背後に万乎の家運隆盛をたたえる挨拶の意があると見るべきであろう。『花のちり』の前書きによれば、糸桜を詠んだものという。
 糸桜は、枝垂桜の別称。各地の山野に自生し、また観賞される江戸彼岸の園芸種で、枝が長く伸びて垂れ下がるものをいう。白色・淡紅色の色があり、八重咲きの種類もある。神社などの境内に植えられることが多く、京都・平安神宮神苑の紅枝垂桜は有名。

 「万乎」は、伊賀上野の門人。通称 大坂屋次良太夫と称した金持ち商人、のち仏門に入った。
 「べっしょ」は別荘のこと。

 季語は「花」が春であるが、「花の塵(ちり)」で、散り落ちた桜の花の屑をさす。「桜」も季語であるが、この句では桜の木をさすので季感はない。

    「桜の花びらが、しきりにその根元に降りしいている。こうして花は年々咲き、年々
     散ってその木を肥やすのであろう」


      あめつちのみち韻きあふいとざくら     季 己