壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

花の上

2010年04月04日 20時58分24秒 | Weblog
        しばらくは花の上なる月夜かな     芭 蕉

 花と月との映発しあった春の夜の情をつかんで的確な作品である。明るすぎるくらい明るい情景をうたって、その中に一抹の水のような寂寥をにじませているのは、「しばらくは」が、月と花との映りあう美しさの中に、移ろうものの姿を言いとめているからであろう。貞享五年吉野の作という。
 「月夜」は秋の季語であるが、ここでは「花」が季語で春。

    「この月は、やがて西へ傾き去るであろうが、しばらくの間は花の上にあって、花と照り映え
     とけあって、まるで夢のような春の夜の景である」


 「お独りで寂しくないですか」と、聞かれることが時たまある。「寂しくない」と言ったらウソになるかもしれないが、独りが当たり前になっているので、返答に困ってしまう。
 友人のS君の学生時代の詩に、こんなのがある。

        待つ時間と
        待った時間とは
        ちがいます。

        独りでいる寂しさと
        独りになった寂しさとが
        ちがうように。

 わたしの場合は、「独りでいる寂しさ」であって、「独りになった寂しさ」ではないので……。

      咲きみちて風をよぶ花 塔伸びる     季 己