壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

花の別れ

2010年04月07日 20時31分27秒 | Weblog
          坦堂和尚を悼み奉る
        地に倒れ根により花の別れかな     芭 蕉

 哀悼の意を、「花の別れ」によってあらわしたもの。
 「根により」は、『千載集』の、
          「花は根に 鳥は古巣に かへるなり
             春のとまりを しる人ぞなき (崇徳院)」
 を踏まえたもので、帰り着いた場所として「根」に墳墓を意味させたもの。この歌は、謡曲などにしばしば引かれて、人口に膾炙(かいしゃ)しているもので、この帰るべきところに帰る意を、僧侶の死にとりなしているのであろう。
 「坦堂和尚」は未詳。野球のお好きな方は、今朝、くも膜下出血のため亡くなった、読売巨人軍の木村拓也コーチに置き換えて読んでいただいても結構。すなわち「木村拓也コーチを悼む」と……。

 季語は「花」で春。「花の別れ」は、当時の歳時記には見えていないが、この句では、季語としてはたらいているようである。哀悼の意がこめられているために、どうしても毅然としたものになりきれていないのは、仕方なかろう。

    「古歌に、桜の花びらはその根に帰るというが、坦堂和尚も帰すべきところに帰され、
     この世を去られた。けれども、花の別れを悲しむごとくその永別を悲しんで、自分は
     地に倒れ伏し、塚のもとに寄り添い悼み奉ることだ」


      球場のどこか濡らして散る桜     季 己