物皆自得(ものみなじとく)
花に遊ぶ虻な食らひそ友雀 芭 蕉
眼前の小世界に自得する小さな生き物を、静かな眼で見守っているさまが感じられる。このころの芭蕉が、生きているものの根底に、より大いなるものの意志を感じていることの、よくわかる作だ。
「物皆自得」は、『荘子』斉物論郭象註に「物皆自得之耳」の語があり、程(ていこう)の「秋日偶成」に、「万物静観皆自得」とある。物皆その本性に安んじて、守るべきを守っている、という意で、これを前書きとしたものと考えられる。つまり、雀に向かって、虻の自得の安らかさを乱すなよ、と戒めたもの。『荘子』や『戦国策』に、他を脅かして自らの危うきを忘れている寓話が出ているので、それが心にあったものであろう。
「虻(あぶ)な食らひそ」の「な……そ」は禁止の意で、「虻を食うなよ」という意味。
「友雀」は、二羽むつみあっている雀。ここは、虻とも友である意を含んでいよう。
季語は「花」で春。季節の生動する感じは乏しい。
「一切のものは、その天より受けた本性に安んじて、守るべきを守って生きているのである。
無心に花に遊んでいるこの虻も、やはり、そういう自得の姿である。雀どもよ、その虻も友
であるから、食うようなことをするなよ」
「たけくらべ」どこか濡れたる花の闇 季 己
花に遊ぶ虻な食らひそ友雀 芭 蕉
眼前の小世界に自得する小さな生き物を、静かな眼で見守っているさまが感じられる。このころの芭蕉が、生きているものの根底に、より大いなるものの意志を感じていることの、よくわかる作だ。
「物皆自得」は、『荘子』斉物論郭象註に「物皆自得之耳」の語があり、程(ていこう)の「秋日偶成」に、「万物静観皆自得」とある。物皆その本性に安んじて、守るべきを守っている、という意で、これを前書きとしたものと考えられる。つまり、雀に向かって、虻の自得の安らかさを乱すなよ、と戒めたもの。『荘子』や『戦国策』に、他を脅かして自らの危うきを忘れている寓話が出ているので、それが心にあったものであろう。
「虻(あぶ)な食らひそ」の「な……そ」は禁止の意で、「虻を食うなよ」という意味。
「友雀」は、二羽むつみあっている雀。ここは、虻とも友である意を含んでいよう。
季語は「花」で春。季節の生動する感じは乏しい。
「一切のものは、その天より受けた本性に安んじて、守るべきを守って生きているのである。
無心に花に遊んでいるこの虻も、やはり、そういう自得の姿である。雀どもよ、その虻も友
であるから、食うようなことをするなよ」
「たけくらべ」どこか濡れたる花の闇 季 己