壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

灌仏の日

2010年04月06日 23時18分09秒 | Weblog
          灌仏の日は、奈良にてここかしこ詣で侍るに、
          鹿の子を産むを見て、此の日においてをかし
          ければ
        灌仏の日に生まれあふ鹿の子かな     芭 蕉

 軽い味であるが、旅の実感を基調にしていることが、この句をいきいきしたものにしている。
 「生まれあふ」というあたりに、芭蕉のあたらしい生命へのあたたかい祝福が出ている。貞享五年(1688)四月八日の作。

 「灌仏(かんぶつ)の日」は四月八日。釈迦の誕生日といわれる陰暦四月八日に、その降誕を祝福して、全国の寺々で行なわれる法会。花祭ともいわれる。花祭と称したのは、もともと浄土宗であったが、後に一般化した。境内に花御堂(はなみどう)という美しい花々で飾った小堂をしつらえ、浴仏盆のなかに誕生仏の像を安置して、参拝者が甘茶をひしゃくで灌(そそ)ぐようになっている。仏生会(ぶっしょうえ)ともいう。
 所によっては、竿躑躅(さおつつじ)とか高花(たかばな)・天道花(てんどうばな)といって、竿の先に花の塔を作り、門口にたてる。
 近年、花祭というのは、子ども中心の祭になって、花時の感じが強いが、花御堂の花は、元来、躑躅・卯の花・石楠花(しゃくなげ)など初夏の花を用いた。

 季語は「灌仏」で夏。この季語が、季感よりも釈迦誕生の仏縁を示すはたらきで置かれている。「鹿の子」も夏の季語。

    「奈良で鹿が子を産むのを見た。折しも灌仏の日にあたっているので、この日に
     生まれた鹿の子は、仏縁があってまことにめでたい、と感じたことである」


      花まつり雀もつともよろこんで     季 己