壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

当たった

2008年12月11日 21時00分56秒 | Weblog
 当たった!、といっても宝くじではなく、生牡蠣に、である。
 むかし、無理に生牡蠣を食べさせられ、大当たりして苦しんだことがある。それ以来、生牡蠣はもちろん、牡蠣フライ以外は食べないようにしている。その牡蠣フライさえ、食べて、せいぜい1個か2個である。

        牡蠣鍋の葱の切つ先そろひけり     秋櫻子

 寒さが本格的になると、食通の喜ぶ牡蠣料理のシーズンとなる。
 牡蠣の酢の物、牡蠣フライ、グラタンなどはともかく、通には、牡蠣雑炊や牡蠣飯などは、何といっても冬の季節料理として欠かせないだろう。

        牡蠣船にゐて大阪に来てゐたり     たけし

 牡蠣料理といえば、思い出されるのが、水の都大阪の川筋に浮かぶ牡蠣船である。牡蠣船は、牡蠣料理の屋形船のことで、原産地広島に起こり、大阪道頓堀で発達した。
 道頓堀や横堀川、堂島あたりの川筋の、橋のたもとから石段をとんとんと下りた所に、船繋りをした屋形船。名物牡蠣料理のネオンや提燈の火が、三百数十年の歴史を、同じ川面に映して、ちらちらと明滅している。

        牡蠣船にもちこむわかればなしかな     万太郎

 花柳章太郎・水谷八重子の、新派の一シーンを観るようだ。また、「牡蠣船」以外を全て“ひらがな”にしたのも効果的である。

        舟通るたびに牡蠣船ゆれにけり     新 樹

 いくつもに行き廻らせた掘割の水が、汐の差し引きに、ひたひたと舷を打つとき、川筋を上下する舟が残してゆくうねりに乗せられる時、繋ぎっぱなしの屋形船ではあっても、牡蠣料理の座敷に一献かたむける人は、快い船遊びの気分を満喫することであろう。

 近頃では、この牡蠣舟も、季節外れには牡蠣料理以外のメニューも提供しているが、もとは、季節外れには、店を仕舞って、養殖牡蠣の故郷広島へ引き上げていたものだそうだ。
 牡蠣船の趣向そのものは、元来、広島で始められたのであるが、食い倒れの大阪に船を出して、牡蠣船は、大阪の名物となったとのこと。そのために、広島の牡蠣養殖が繁盛する、という相互扶助の関係があったようである。


      ポリープをとり湯豆腐の浮き沈み     季 己