(先週の説教要旨) 2013年3月17日 主日礼拝宣教 杉野省治牧師
「闇を知る者に救いがくる」 ルカによる福音書8章26-39節
イエスの一行がガリラヤ湖の対岸にあるゲラサ人の地方に行かれた時のこと。そこには、悪霊につかれて長い間着物も着ず、鎖と足かせで墓場につながれては、それを引きちぎって荒れ野に出てしまう一人の男がいた。
この男についた悪霊の名は「レギオン」。レギオンとはローマ軍の6千人軍団のこと。彼らの持つ破壊的な力を前に、一体一人の人間にどんな抵抗が可能だろうか。自分が何か破壊的な力に支配されて、どんなに努力してもそこから自由になれない心の状態。この男を打ちのめしていた絶望感の深さを少しは想像できるだろう。
彼はイエスが近づいた時に、「神の子イエス、かまわないでくれ。苦しめないでくれ」と叫ぶ。この言葉には二つの相反する叫びが込められている。つまり「神ならば何とかしてくれ」という叫びと、「お前なんかに、俺の苦しみが分かってたまるか」という憤り。
この男は、村の通りを歩くたびに「かまわないでくれ」と叫びながら、人々に近づいていったのではないだろうか。ところが通りがかりの人びとはみんな気味悪がって逃げてしまっただろう。しかしイエスは正面からこの男と向かい合われる。彼の叫びを受け止め、「名は何というのか?」と人格的に出会うことを求められた。そしてこの出会いが、彼の心を解放へと導いたのである。
悪霊たちはイエスを見ると「神の子イエス」と叫び、「底知れぬ所」(神が終末に悪霊を永久に閉じ込めるところ)に落ちることを命じないよう懇願し、「豚の中へ入ること」の許しを乞うた。このように悪霊たちの方が、イエスの神からゆだねられた権威を知っているのに対し、パリサイ派や律法学者など自分を「正しい人」と自認する人々は、イエスの権威をかたくなに認めることをしない。聖書は、この対照的な姿を描く。
悪霊は、神の働きを妨げるもの。悪霊が救いをもたらすことはできない。しかし、「闇」の深さを知っている者こそ、本当の「光」がどのようなものかを見出すことができるのであり、単に聖書を学び、戒めを実行していたとしても、自分自身が抱えている「闇」の深さを自覚しないならば、イエスに「救いの光」を見出すことはなかなかできないのである。
癒された男は、イエスにお供をしたいとしきりに願った。彼にしてみれば,二千頭もの豚の損失を与えた男として、これからもこの村で肩身の狭い思いをして暮らすよりも、心機一転イエスと一緒に旅することをどれほど望んだことだろう。しかしイエスは、むしろそのような村の人々の間に残るようにと彼を帰す。「神があなたにどんなに大きなことをしてくださったか、語り聞かせなさい」(39節)。イエスは彼をこの村の人々の間に宣教へ遣わす。自分のことしか考えない、損得でしか行動できない、一人の人の命を喜ぶことがなかなかできない人々の中にこそ、神の言葉が必要だからである。
牧師室だより 2013年3月17日 コンクラーベ
「コンクラーベって、根比べのこと?」と思わず聞いてしまうほど日本ではなじみのない言葉「コンクラーベ」が12日から始まった。コンクラーベとは、ローマ・カトリック教会のローマ法皇の後任を決める秘密選挙のこと。「コンクラーベ」とはラテン語で「鍵がかかった」という意味で、このような密室で行われるシステムは、カトリック教会の歴史の中で何世紀もかけて、他国の干渉を防止し秘密を保持するため練り上げられてきたものである、と言われている。
今回は約600年ぶりの存命中の退位となった前ローマ法皇ベネディクト16世(1927年生、2005年着座)の後任を選ぶこととなる。様々な問題で揺れる巨大組織を担うのは誰か。世界中の注目が集まる。
投票権を持つのは80歳未満の枢機卿で、115人が参加する。場所は、有名なフレスコ画「最後の審判」が描かれているシスティーナ礼拝堂で、3分の2以上の77票以上を得る人が出るまで投票を繰り返す。大抵は3~4回程度の投票で決まるが、7回、8回と決まるまで投票を繰り返す。「根比べ」と言ってもあながち間違いではないかも。投票の結果は毎回礼拝堂の煙突の煙で知らせる。決まらない場合は黒い煙、決まった場合は白い煙。世界の注目を集めるのはこの煙突の煙。
ローマ・カトリック教会ではローマ法皇はキリストの代理人、使徒ペテロの後継者とされ、約11億の信徒の頂点に立つ。ローマの司教であり、バチカン市国の元首でもある。今回選ばれる法皇はペテロから数えて266代目になる。
今回は13日夜に5回目の投票で決まった。新法皇は、アルゼンチン人でブエノスアイレス大司教のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76歳)。法皇名は「フランシスコ1世」。約2千年のカトリックの歴史で、初の米州大陸出身の法皇である。
カトリックも1960年代の第二バチカン公会議以降、大きく変わり、他教派との対話を推進し、エキュメニカル(教会一致)運動も大きく前進した。世界の平和と和解のために新法皇の活躍を期待したい。