牧師室だより 2011年2月27日 二冊の本の紹介 ― 生と死 ―
2月11日は建国記念の日だが、私たちキリスト者にとっては、「信教の自由を守る日」である。この日の午後、私はみぞれまじりの冷たい雨の中、日本基督教団の小田原教会で行われた「2・11集会」に参加した。この日は別の要件も重なり遅れて到着した。講師は写真家の桃井和馬氏である。
桃井氏は牧師の息子で17歳の時洗礼を受けられている。彼はこれまで世界140カ国を取材し、「紛争」「地球環境」などを基軸にしたプロジェクトを通し独自の切り口で「文明論」を展開している気鋭の写真家である。
遅れたので残念ながら講演の中味はわからないが、その後の質疑応答を聞いていて、大変気さくな親しみやすい人柄と感じられた。講演の後、彼の最新の写真集『すべての生命に出会えてよかった』(日本キリスト教団出版局 2010年)を買った。そこに収められているどの写真も「生きる意志とその意味」を私たちにしっかりと訴えかける。人物や生き物だけでなく、川や海や山の風景の写真さえもそれを感じさせるからすごい。
彼はあとがきで「自然の中に身を置く中で、次第に私たち人間が、『生かされている』ことを感じるようになったのです。自然という、複雑で大きなメカニズムの一部として生かされている人間、そうであるなら、……宗教や民族で殺し合うのもあまりに空しい。」と書いている。
「生きること」を問い続ける彼が、同じ2010年の12月に『妻と最期の十日間』(集英社新書)を出版された。これは「死」を見つめる本である。3年前突然、41歳の奥さんが「くも膜下出血」で倒れた。回復の兆しはない。迫りくる妻の「死」を彼自身の精神状態を中心に克明に記録したものである。
世界中で多くの生と死を見続けてきた桃井氏だが、迫りくる妻の「死」には、ただひたすら戸惑い、動揺し、取り乱すばかりだ。「生きる」以上に「死」は私たちに背負いきれない程の重い現実を突き付けてくる。彼は妻の「その瞬間」までを詳細に記録することで、過酷な現実と向き合おうとする。生と死を考える二冊の桃井氏の本。