老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

『フランクリン自伝』の「少年時代」の一節について(1)

2009-09-05 13:49:00 | インポート

もう半世紀ほど前のことになるが、こんなことがあった。
当時は「現代国語」という科目があって、ある会社の教科書に、ベンジャミン・フランクリンの自伝から、「少年時代」という題で、その一部が掲載されていた。そのある個所が、どう考えても理解できなかったのである。今、その部分を掲げてもう一度検討してみたいと思う。

いったい談話の主要な目的は、教えたり教えられたり、人を喜ばせたり説得したりすることにあるのだから、ほとんどきまって人を不快にさせ、反感を引き起こし、ことばというものがわれわれに与えられた目的、つまり知識なり楽しみなりを与えたり受けたりすることを片端からだめにしてしまうような、押しの強い高飛車な言い方をして、せっかくの善をなす力を減らしてしまうことがないよう、私は思慮に富む善意の人々に望みたい。実際、人にものを教えようとするときに、押しの強い独断的な言い方で自分の考えを述べたのでは、人は反対したい気持ちになってすなおには聞いてくれないだろう。また他人の知識から教えを受けて賢くなりたいというのに、しかも現在の考えを固執するようなことを言っては、議論を好まぬ謙遜で思慮ある人なら、おそらくまちがっていてもそのままにしておいて直してはくれないだろう。さらにまたこういうやり方では、聞き手に好感を与えて喜ばせたいと思っても、あるいは相手を説得してその同意を得たいと思っても、まず無理というものであろう。ポープは思慮深くも言う──
  人にものを教えるには、教えているようなふうをしてはならない。
  その人の知らぬことでも、忘れたことのように言いださねばならない。
さらにまた、
  確かなことでも確信なげに話せ。
とも勧めている。ところで、この行を彼は別の行と並べているが、それはあまり適当ではないようで、むしろ次の行と並べた方がよかったのではないかと思う。
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだから。
なぜあまり適当でないかと聞かれれば、ここにもとの二行をあげてみればわかるだろう。
  不遜なことばには弁護の余地がない。
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだから。
だが、不幸にも分別を欠いている人の場合、分別が足りないのは謙遜が足りないことの言いわけに多少はなるのではなかろうか。だから、この二行は次のようにしたほうが妥当なのではあるまいか。
  不遜なことばには弁護の余地がない、
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだという以外には。
この点は、しかし、私よりも賢明な人々の判断に任せることにしよう。


できれば、これを読んで理解できるかどうか、試してみてほしい。問題なく理解できれば、そして何の問題もなければ、以下は読む必要がないことになるからである。

──私が理解できなかったのは、次の部分である。

ポープは思慮深くも言う──
  人にものを教えるには、教えているようなふうをしてはならない。
  その人の知らぬことでも、忘れたことのように言いださねばならない。
さらにまた、
  確かなことでも確信なげに話せ。
とも勧めている。ところで、この行を彼は別の行と並べているが、それはあまり適当ではないようで、むしろ次の行と並べた方がよかったのではないかと思う。
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだから。
なぜあまり適当でないかと聞かれれば、ここにもとの二行をあげてみればわかるだろう。
  不遜なことばには弁護の余地がない。
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだから。
だが、不幸にも分別を欠いている人の場合、分別が足りないのは謙遜が足りないことの言いわけに多少はなるのではなかろうか。だから、この二行は次のようにしたほうが妥当なのではあるまいか。
  不遜なことばには弁護の余地がない、
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだという以外には。


特に、次の部分は、どういう意味であろうか。

さらにまた、
  確かなことでも確信なげに話せ。
とも勧めている。ところで、この行を彼は別の行と並べているが、それはあまり適当ではないようで、むしろ次の行と並べた方がよかったのではないかと思う。
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだから。
なぜあまり適当でないかと聞かれれば、ここにもとの二行をあげてみればわかるだろう。
  不遜なことばには弁護の余地がない。
  謙遜が足りないのは分別が足りないのだから。


ここで、問題点をはっきりさせるために、問題を出しておこう。次回までに考えてみてほしい。

問題:上の文中の「この行」「別の行」「次の行」は、それぞれどの行を指しているか。


 『フランクリン自伝』の「少年時代」の一節について(2)