老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

「世界人権宣言」の日本語訳の本文について

2010-04-05 14:43:00 | インポート

ある人が、「世界人権宣言」を読んでみよう、とある文章に書いていたので、まだ読んでみたことのないその宣言を読んでみることにした。

手元の平成14(2002)年版の『岩波コンパクト六法』によると、この「世界人権宣言」は、昭和23(1948)年12月10日に、第3回国連総会で採決されたものだ、とある。
『広辞苑』によれば、前文と30ヵ条から成るこの宣言は、「法的拘束力はないが、国際的にすべての人およびすべての国が尊重しなければならない人権の共通の基準を示したものとして重要な意義をもつ」ということである。

昭和23年の訳文であるせいか、「法の支配によつて」のように、促音が大きい文字で表記してある。
一応目を通してから、念のために外務省のホームページに出ている訳文を見てみると、「世界人権宣言(仮訳文)」となっている。この宣言が公布されてから半世紀以上もたつのに、いまだに「仮訳文」というのはどういうことだろう、と思いながら条文を比較してみると、細かいところで、数か所、いや数十か所文言の違いが見られる。

まず、『岩波コンパクト六法』と比べて、促音が小さく表記されている。
それから、漢字を仮名に直したところがある。(最も→もっとも、 専ら→もっぱら、 若しくは→もしくは)
訳語を変えたものがある。(民族的→国民的、 出生→門地、 住居→家庭、 労働→勤労、 加入→参加)
表現を改めたところがある。(における→による、 迫害からの避難を他国に求め→迫害を免れるため、他国に避難することを求め、 これを他国で享有する→避難する、 自由を享有する権利→自由に対する権利、 の実現を求める資格→を実現する権利)
送り仮名が変わっているところがある。(当たって→当って)
入力ミスと思われるところもある。(統治の権力を基礎とならなければならない→統治の権力の基礎とならなければならない)
脱字もある。(法の支配によって人権保護することが肝要であるので→法の支配によって人権を保護することが肝要であるので)

これらの語句の変更が、いつなされたものであるのか、変更した時日が記載されていないので、一向に分からない。したがって、一般に出回っている「世界人権宣言」の日本語訳は、いつ補訂された本文であるのかは、さっぱり分からず、細かいところに違いのあるさまざまな訳文が出回っているというのが実情のようである。

外務省のホームページに掲載されているものが、いまだに「仮訳文」というのだから、日本においては「世界人権宣言」は日陰に置かれた存在というべきであろう。

その証拠に、国連のホームページに載せられている日本語訳には、次のような誤りが見受けられる。

〇いかなる自由による差別(第2条) 「事由」
〇地位に基ずく( 同 ) 「基づく」
〇基本的自由の尊重の教科を目的としなければならない(第26条) 「強化」
〇他人の権利及び事由の正当な承認及び尊重(第29条) 「自由」

また、前文の最後に、「この人権宣言を公布する」とあるのも、「この世界人権宣言を公布する」とあるべきところであろう。
誰がこの訳文を提供したのか、提供者は、自分の提供した訳文が正しく掲載されたかどうかなど、全く関心のほかだったのであろう。

それにしても、こうした間違いの見られる訳文が長い間放置されているというのも、この宣言に関心をもつ人が少ないということの一つの表れなのであろう。かく言う小生も、今頃になって初めてこの宣言を読んだのであるから、あまり大きなことは言えないが。

『岩波コンパクト六法』の2002年版を参照したが、これも、あるいは最近の新しい版を見なければ云々できないのかもしれない。しかし、新しい版でも、これは法律ではないので、多分、いつ改訂されたかについては触れてないのではなかろうか。

さて、「世界人権宣言」の日本語訳を読む場合、できれば日本語の標準訳で読みたいものである。その標準訳を、どこに求めればよいのだろうか。
やはり、六法全書に載っている訳文を標準訳と考えるべきなのであろうか。その場合、何年に発行された六法全書から信頼できる訳文が掲載されていると考えればよいのだろうか。
「世界人権宣言」の日本語訳が、いつ改訂の手が加えられたのかの記録を残していないので、手にした訳文が最新のものとどう違うのかが分からなくなっている。

少なくとも外務省が、信頼できる日本語訳をホームページに公開すべきである。


 ※ お断り:以上の本文は、平成22年(2010年)4月5日現在におけるものです。外務省のホームページの訳文の疑問点については、現在メールで問合せ中です。その結果によって、国連のホームページの担当者に連絡するつもりです。

 ※ 外務省への問い合わせに対する返事が来ないので(全く無視されてしまったのか、うまく連絡がいかなかったのか、それとも沖縄の基地問題であたふたしていて世界人権宣言どころではないのか)、国連のホームページへ訳文の誤りについて連絡するのがあまり遅くなるのもどうかと思って、今朝、国連のホームページを確かめてみたら、少なくとも上にあげた訳文の誤りは、現在は直っているようです。なにはともあれ、よかった! ただし、外務省の訳文(仮訳文)の不備は、まだ直っていないようですが……。
     (2010年7月24日付記)