老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

最も適切(適当)なものは、いくつあるか

2008-09-01 16:41:00 | インポート
大学入試問題がインターネット上に出ている。これを見てみると、選択肢の問題を出題している大学がある。
その中で、「次の中から、最も適切(適当)なものを一つ選べ」という表現をしている大学がいくつか見受けられる。あたかも、最も適切(適当)なものが、場合によっては複数個あるかのような表現である。
しかし、「最も適切(適当)なもの」は、一つに限られているのではないのか。「最も~なもの」という表現が、複数個あるものの中で程度が他のどれよりもまさっているもの一つを指す言い方であるとすれば、この「最も適切(適当)なものを一つ選べ」という表現は、「古(いにしえ)の昔、武士という侍(さむらい)が、馬から落ちて落馬して、……」という言い方と同じ重言の表現になるのではないか。「次の中から、最も適切(適当)なものを選べ」では、なぜいけないのか。現にそう表現している大学も、存在するのである。どうしても「一つ選べ」ということを強調したければ、「次の中から、適切(適当)なものを一つ選べ」と言えば足りるであろう。
ここで個々の大学名を挙げることは遠慮するが、国語の問題においてさえ、この「最も適切(適当)なものを一つ選べ」という表現をしている大学が見受けられるのは、言葉に対する配慮のなさ、言語感覚の鈍さを示すものに他ならないというべきであろう。また、選択肢の中に正解が一つしかないにもかかわらず、「最も適切(適当)なものを一つ選べ」と指示して平然としている出題者もいる。
ついでに言わせてもらえば、「次の各問いに答えよ」という妙な日本語を用いている出題者も多い。「各問い」は、重箱読みであって、一般的には避けるべき言い方とされているものである。なぜ「次の問いに答えよ」ではいけないのか。日本語では、単複を区別しないから、一つの問いを指す場合でも複数の問いを指す場合でも、「問い」と表現するのである。例えばそこに本が数冊あったとして、「本がある」と言うのが本来の日本語であって、「本sがある」とは言わないのである。どうしても「複数の問いに答えよ」ということを示したかったら、「次の各々(おのおの)の問いに答えよ」と言うべきである。
今、平成20年度大学入試センター試験の国語問題を見てみた。なんと、そこには、「最も適当なものを一つ選べ」とあるではないか。大学入試センターの国語問題作成者や試験関係者の国語感覚がこの程度のものであることは、実に嘆かわしい限りである。
入試問題に限らず、試験問題に「最も適切(適当)なものを一つ選べ」と表記している関係者の再考を望みたい。

(参考)
 1.「最も適切(適当)なものを選べ」など、「一つ」を用いずに表現している例。
  最も適当なものを選択肢1~4の中から選び、その記号の記入欄1~4にマークせよ。(早稲田大学 文学部 国語)
  最も適当な語を次の中から選び、その記号を答えなさい。(北海道大学 前期 英語)
  最も関係のうすいものはどれか。その記号を記せ。(東京大学 前期 英語)
 
 2.「一つ」を用いた場合の、「最も」を用いない設問の例。
  適当なものを、次のうちから一つ選び、その番号を記せ。(同志社大学 文系 国語)              
  正しいものを、次の1~4のうちから一つ選べ。(センター試験 世界史B)   
             
注(1): 上記の例にもかかわらず、必ずしもこの言い方で統一されているとは限らず、同じ大学で別の言い方(「最も適切なものを一つ選べ」などの言い方)をしている場合もあることをお断りしておきます。なお、9月14日、「各問い」の部分を加筆しました。

  (2):「最も~なものの中の一つ」という妙な日本語が生まれたのは、明治時代以降、日本人が英語を本格的に学習するようになってからのことであると思われます。
つまり、“one of the most ......”という英語を、「最も~なものの中の一つ」と訳した(誤訳した)ことから始まった誤った日本語であるらしい、ということです。
このことに関して参考になるものとして、京都産業大学の平塚徹教授が「最上級の複数は何を意味するか?」という文章を書いておられますので、ぜひご覧ください。(2008年10月5日補筆)