老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

陸軍士官学校校歌

2009-06-29 08:44:00 | インポート

陸士を卒業した叔父が亡くなった。告別式が終わり、出棺のとき、かつての戦友たちが4人、陸軍士官学校の校歌を斉唱して叔父を送ってくださった。
一人が、「陸軍士官学校校歌斉唱、始め!」と号令をかけ、「太平洋の波の上……」と斉唱が始まった。

    太平洋の 波の上
    昇る朝日に 照りはえて
    天(あま)そそり立つ 富士が峰(ね)の
    とわに揺るがぬ 大八洲(おおやしま)
    君のみたてと えらばれて
    集まり学ぶ 身の幸(さち)よ

    誉れも高き 楠(くすのき)の
    深き香りを したひつつ
    鋭心(とごころ)磨く 我等には
    見るもいさまし 春ごとに
    赤き心に 咲き出(い)づる
    市ヶ谷台の 若桜

    隙(ひま)ゆく駒の たゆみなく
    文武の道に いそしめば
    土さへ劈(さ)くる 夏の日も
    手(た)にぎる筆に 花開き
    星欄干(らんかん)の 霜の晨(あさ)
    揮(ふる)ふ剣に 龍躍(おど)る

    いざや奮ひて 登らばや
    困苦の岩根 踏みさくみ
    理想の峰に 意気高く
    鍛へ鍛ふる 鉄脚の
    歩ごと聞かずや 誠心を
    国に捧ぐる その響き

    ああ山ゆかば 草蒸すも
    ああ海ゆかば 水漬(みづ)くとも
    など顧みん この屍(かばね)
    われら股肱(ここう)と のたまひて
    いつくしみます 大君の
    深き仁慈(めぐみ)を 仰ぎては

そして、最後は「校歌斉唱、止め!」と、再び号令がかかって歌は終わった。
始める前、「歌えるかなあ」と不安がる一人に、別の一人が、「なに、歌い出せば思い出すから」と励ましていた戦友たちであったが、その歌声はご高齢であるにも拘わらず、力強く矍鑠としたものであった。
終戦で無事生きながらえた叔父は、戦後、一部の旧軍人の就職が制限されていたとかで医学部に入り直し、医師としてその後の人生を送った。
軍歌で送り出された高齢の叔父も、こうしてうかうかとしてはいられないと、棺の中で思わず襟を正したことであろうか。
かつての戦友の皆さんに、叔父の思い出をいろいろお伺いしたかったが、その余裕のなかったのが心残りである。


(注)
1. 陸軍士官学校校歌は、作詞:寺西多美弥、作曲:陸軍戸山学校軍楽隊。なお、歌詞については講談社文庫『日本の唱歌[下]』(学生歌・軍歌・宗教歌篇)を参考にさせていただきました。一部、仮名遣いなど、引用者が歌詞の表記を変えたところがあります。
この本によりますと、歌詞は8番まであるそうです。上記の歌詞は、その1、2、3、7、8番に当たります。

2. YouTubu で「陸軍士官学校校歌」の1,2,3,4,8番の斉唱を聞くことができます。

3. 次に、参考までに校歌の全歌詞を掲げておきます。

      陸軍士官学校校歌

  1.太平洋の 波の上
    昇る朝日に 照りはえて
    天(あま)そそり立つ 富士が峰(ね)の
    とわに揺るがぬ 大八洲(おおやしま)
    君のみたてと えらばれて
    集まり学ぶ 身の幸(さち)よ

  2.誉れも高き 楠(くすのき)の
    深き香りを したひつつ
    鋭心(とごころ)磨く 我等には
    見るもいさまし 春ごとに
    赤き心に 咲き出(い)づる
    市ヶ谷台の 若桜

  3.隙(ひま)ゆく駒の たゆみなく
    文武の道に いそしめば
    土さへ劈(さ)くる 夏の日も
    手(た)にぎる筆に 花開き
    星欄干(らんかん)の 霜の晨(あさ)
    揮(ふる)ふ剣に 龍躍(おど)る

  4.戸山代々木の 野嵐に
    武を練る声も 勇ましく
    露営の夢を 結びては
    身を習志野の 草枕
    水路はるけき 館山に
    抜手(ぬきて)翡翠の あざやかさ

  5.学びの海の 幾千尋(いくちひろ)
    分け入る底は 深くとも
    立てし心の 撓(たわ)みなく
    努め励みて 進みなば
    龍の顎(あぎと)の 玉をさへ
    いかで取り得ぬ ことやある

  6.思へば畏(かしこ) 年ごとに
    行幸(みゆき)ましつる 大君の
    玉歩の跡も 度(たび)しげく
    賤(しづ)に交りて 皇子(すめみこ)の
    学びまししも この庭ぞ
    実(げ)に光栄の 極みかな 

  7.いざや奮ひて 登らばや
    困苦の岩根 踏みさくみ
    理想の峰に 意気高く
    鍛へ鍛ふる 鉄脚の
    歩ごと聞かずや 誠心を
    国に捧ぐる その響き

  8.ああ山ゆかば 草蒸すも
    ああ海ゆかば 水漬(みづ)くとも
    など顧みん この屍(かばね)
    われら股肱(ここう)と のたまひて
    いつくしみます 大君の
    深き仁慈(めぐみ)を 仰ぎては