一人の男が、両脇を獄吏に抱えられるようにして、閻魔大王の前に引き出されて来た。
閻魔大王は、何やら鋭い口調で詰問し始めた。
男は、なんでも、生きていた時に交通法規の作成に関わったことで、その責任を問われているらしい。
交通法規の作成に関わったことで、何が問題にされているのだろうと、しばらく様子を窺っていると、男は次のようなことで責任を問われていたのである。
下界では、横断歩道を青で歩いていた子どもやお年寄りが、右折してきた車や左折してきた車にはねられて、命を落としたり大怪我をしたりしている。
なぜそんな理不尽なことが起こるのかというと、それは、横断歩道が青であっても、車も右左折することが法規上認められているからである。
それが、車を優先した、人命軽視も甚だしい思考の結果だ、というのである。
そういえば、そうだ。青は進め、であり、信号が青である限り、横断歩道は安全に歩行できるはずの場所であるはずだ。
青の信号で歩いているときに、車がそこへ入り込んでくるという仕組みそのものが、事故が起こる原因なのだ。
それではなぜ、横断歩道の信号が青の時に、車がそこへ入り込むような仕組みを考えたのか、というと、それはそうしなければ車が渋滞して、交通マヒが起こるから、というのが、その理由であろう。
つまり、人命を最優先するのでなく、車がスムーズに通行できるように考えた結果の法規だ、ということになるのである。
道路交通法規は、あくまでも人命優先の思想で作られなければならない。その結果、車の通行が渋滞をきたす、というのなら、その渋滞をどう解決するかを考えるべきなのである。車が渋滞するのは、社会的に経済的に問題だから、車のスムーズな運行のためには、危険を伴うけれども、青信号で横断歩道を渡っているときでも、車がそこを横切ってもいいことにしよう、と考えた、そこが問題だ、と閻魔大王は言うのである。また、歩行者が一人もいないときに、横断歩道の信号が青になっている無駄などは、少し考えれば解決する些細な問題だ、とも大王は指摘した。
男は、自分は日本経済の発展のことを考えれば、車の渋滞による時間のロスは、なんとしてでもなくさなければならないと考えて、日本のためを思ってあの法規を作ったのだ、しかも、歩行者が横断している時は車はその歩行を妨げてはならない、と歩行者の安全もきちんと規定してある、と主張したようであるが、そんな理屈は閻魔大王には通らないようで、「人命をなんと考えているのか!」と一喝した閻魔大王が木槌を強く叩いた音で、目が覚めた。
* * * * * * * *
今時、夢の中とはいえ閻魔大王が姿を現すというのも、いささか時代錯誤の感がないでもないが、考えてみれば、この問題はこの男一人だけの責任ではないと思えるし、男がこの件で罪に問われるのは気の毒だとも思えるのであるが、さて、どうすればいいのだろうか。
下界の我々の社会では、今も青の横断歩道を車が自由に横切っているのである。
閻魔大王は、何やら鋭い口調で詰問し始めた。
男は、なんでも、生きていた時に交通法規の作成に関わったことで、その責任を問われているらしい。
交通法規の作成に関わったことで、何が問題にされているのだろうと、しばらく様子を窺っていると、男は次のようなことで責任を問われていたのである。
下界では、横断歩道を青で歩いていた子どもやお年寄りが、右折してきた車や左折してきた車にはねられて、命を落としたり大怪我をしたりしている。
なぜそんな理不尽なことが起こるのかというと、それは、横断歩道が青であっても、車も右左折することが法規上認められているからである。
それが、車を優先した、人命軽視も甚だしい思考の結果だ、というのである。
そういえば、そうだ。青は進め、であり、信号が青である限り、横断歩道は安全に歩行できるはずの場所であるはずだ。
青の信号で歩いているときに、車がそこへ入り込んでくるという仕組みそのものが、事故が起こる原因なのだ。
それではなぜ、横断歩道の信号が青の時に、車がそこへ入り込むような仕組みを考えたのか、というと、それはそうしなければ車が渋滞して、交通マヒが起こるから、というのが、その理由であろう。
つまり、人命を最優先するのでなく、車がスムーズに通行できるように考えた結果の法規だ、ということになるのである。
道路交通法規は、あくまでも人命優先の思想で作られなければならない。その結果、車の通行が渋滞をきたす、というのなら、その渋滞をどう解決するかを考えるべきなのである。車が渋滞するのは、社会的に経済的に問題だから、車のスムーズな運行のためには、危険を伴うけれども、青信号で横断歩道を渡っているときでも、車がそこを横切ってもいいことにしよう、と考えた、そこが問題だ、と閻魔大王は言うのである。また、歩行者が一人もいないときに、横断歩道の信号が青になっている無駄などは、少し考えれば解決する些細な問題だ、とも大王は指摘した。
男は、自分は日本経済の発展のことを考えれば、車の渋滞による時間のロスは、なんとしてでもなくさなければならないと考えて、日本のためを思ってあの法規を作ったのだ、しかも、歩行者が横断している時は車はその歩行を妨げてはならない、と歩行者の安全もきちんと規定してある、と主張したようであるが、そんな理屈は閻魔大王には通らないようで、「人命をなんと考えているのか!」と一喝した閻魔大王が木槌を強く叩いた音で、目が覚めた。
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今時、夢の中とはいえ閻魔大王が姿を現すというのも、いささか時代錯誤の感がないでもないが、考えてみれば、この問題はこの男一人だけの責任ではないと思えるし、男がこの件で罪に問われるのは気の毒だとも思えるのであるが、さて、どうすればいいのだろうか。
下界の我々の社会では、今も青の横断歩道を車が自由に横切っているのである。