老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

ツグミが脳震盪をおこす

2010-03-23 12:23:00 | インポート
昨日、3月22日の春のお彼岸の中日の午後、居間のガラス戸でガタンと大きな音がした。鳥がぶつかったのだと、すぐ分かった。たまに、透明なガラス戸にぶつかる野鳥がいるのだ。
ガラス戸を開けて庭を見ると、果たしてツグミが地面にころがっている。

そそっかしいやつだな、と思いながら目をつぶってぐったりしているツグミを手にとって、気つけに水でも飲ませてやろうと、庭の蛇口のところで水を嘴に垂らしてやったが、気を失なっているので、飲もうとしない。
これはだめだ、そっとしておいて様子をみるしかないと、コンクリートの三和土(たたき)に小さな人工芝のようなものを敷いて植木鉢が置いてある、そのそばに寝かせておいた。
庭の柘植(つげ)の木で、ヒヨドリが二羽、けたたましく鳴いている。これは事件だ、仲間の鳥が人間に捕まったぞ、とでも叫んでいるのであろうか。

驚かせては悪いと思って、ガラス戸を閉め、隠れるようにしてカーテンの陰からじっとツグミの様子を窺っていたが、なかなか意識を回復しない。目をつぶったままぐったりして全く動かない。体が微かに規則的に動いているから、息はしている。このまま息が続けば助かるかも知れないと、しばらく見ていたが、3,40分経っても一向に気がつく様子がない。
家内が、「もうすぐ帰っていく時期だろうにね」と言う。渡りを終えて故郷へ帰る時期を目前にして、ここで命を落としてしまっては可哀想だ、というのであろう。

ふと気がついてみると、ツグミがコンクリートの上に立ち上がって、こちら向きに立っている。ああ、助かった、と思った。
しかし、立ち上がったツグミは、目を力なく開けてはいるようだが、立ち上がった姿勢のまま一向に動こうとしない。時々、首をゆっくり動かしてはいるが、大体はじっとして立ったままである。
そのまま1時間近くが経った。同じ姿勢でじっとしていたのでは、脚が疲れないかと心配になるが、脚を動かす気配も見せない。コンクリートの上では冷たいだろうに、そのままの姿勢でじっとしている。

あたりがうす暗くなってきた。ヒヨドリも、スズメたちも、もう塒(ねぐら)に帰ったであろう。ツグミは、このあとどうするつもりなのだろう。このままじっと明日の朝までここで過ごすつもりなのだろうか。こちらはツグミがそうしてもいいけれど、そうすると、雨戸が閉められなくなってしまうが……。家内は、ここで夜を過ごしたのでは猫にやられてしまうよ、と心配する。小生は、猫は来ないだろう、とのんきに構えている。

と思っていたら、隣の部屋で家内が雨戸を閉める音を聞いて気をとり直したのか、ツグミが向きを変えて、庭のほうに向き直り、三和土の端に立っている。飛ぼうという気力が出てきたのだ。
「おおい、ツグミが飛び立とうとしているぞ」と、大きな声で家内に知らせたが、やがてツグミは庭の柘植の木に飛び移った。やれやれ、助かった。一時はどうなることかと心配したが、それにしても、意識を取り戻して飛び立つまでに、随分時間がかかったものだ。

お腹も空いたであろうが、今日はもう暗くなってきたから、これから餌を食べるわけにはいかないだろう。水でも飲めばいいが。ツグミはどこで寝るのだろう。……などと、しばらくはツグミのことを思いやったことであった。



ホトケノザ、そしてコオニタビラコ

2010-03-01 13:59:00 | インポート

春まだ浅い田んぼの中の農道を、自転車で走っていたら、道の傍らに点々と赤紫の小さな花が咲いている。何だろうと自転車を下りて見てみると、草丈5~6センチの草が、あちらにもこちらにも一斉に花をつけている。
ヒメオドリコ草とでもいう野草かな、と勝手に判断して、二茎ほど手折って持ち帰って図鑑で調べてみたら、なんと、ホトケノザであった。

へえ、これがホトケノザだとは知らなかった。「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草」という歌(?)で名前を覚えている春の七草の、これがホトケノザであったか、とあらためて感心した。
それにしても、葉の感じはごつごつして固そうだし、どこを食べるのだろう、若い芽のときは葉も柔らかいのだろうか、と思ったが、その時はそのままになってしまった。

しばらくして、そういえば食べられる野草の参考書があったな、と思い出し、『楽しい野生食』(木佐森千砂子著、いしずえ・2003年)という本を開いてみたら、残念ながらホトケノザは載っていなかった。しかし、「初春~春」の野草のところを見ていると、コオニタビラコのところに、別名・ホトケノザとあって、「春の七種(くさ)のホトケノザは本種のことをいいます」とあるではないか。おやおや、春の七草のホトケノザとは、ホトケノザのことではなくて、コオニタビラコのことであったか。

そこで、手元にある『原色植物観察図鑑』(堀勝著、保育社・昭和48年)を見てみると、ホトケノザのところに、「上の方につく葉には柄がなく、対生する2枚で茎をだいている。この形が仏の坐る所に似ているからホトケノザといった。春の七草の中にあるホトケノザは、コオニタビラコ(きく科)である」と出ていた。また、コオニタビラコのところには、「昔はホトケノザといって春の七草の一つにかぞえ、若苗を食用とした」と書いてあった。

そこにはまた、「ムラサキ科のタビラコ(キウリグサ)という植物を春の七草の一つだというのはあやまりである」とあるので、ムラサキ科の「キウリグサ」の解説を見てみると、「キウリグサ=一名タビラコといい、(中略)これをもむとキウリのようなにおいがするのでこの名がある。春の七草の一つにタビラコというのはこれでなく、コオニタビラコ(きく科)である」と書かれていた。

春の七草の一つにホトケノザがあることは前々から知っていたが、それがどんな草であるかは、今まで知らなかった。今度、昔のホトケノザであるところの、今のコオニタビラコを見てみよう。そして、できれば食べてみたいものだ、と思った。
   (2010年3月1日)