老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

石鹸の泡と肌

2010-02-02 18:00:00 | インポート
もう随分昔のことになるが、こんなことがあった。

今でもやっているかと思うが、NHKのラジオで健康相談というのをやっていて、その日は皮膚科の相談の日であったのだろう、ある若い人──多分大学生だったと思う──が、こんな相談をしていた。

「石鹸を顔につけてひげを剃っている友人が、剃り終わって顔を洗い拭うときに、石鹸の泡を一部拭い忘れてそのままにしてしまうことがよくある。そんなことをして、大丈夫なんですか? 皮膚に悪くはありませんか?」
というのである。

それに対する答えは、たぶん、「きれいに拭い去ったほうが勿論いいけれども、石鹸の泡が少しぐらい残ったぐらいで、皮膚が炎症を起こすこともないから、そう気にすることはないでしょう」というような回答だったと思う。
係の人も、こういう質問、相談を取り上げるかどうか、迷ったのではないかと思うが、ともかくそういう相談があった。

相談をした人は、おそらく、きちんとした性格の人で、身の回りは清潔整頓の模範といっていい生活をしているのであろう。石鹸で顔を洗うときは、石鹸分が少しも残らないように、丹念に洗い濯ぎ、洗い終わったあとは清潔なタオルで水分を拭い去る。
考えてみると、もしかしたら彼は、そのようなことで随分時間をとられていて、肝腎の勉強時間が少なくなっていたのではないだろうか。──と、そんなことも心配になってくる。

世の中には、はなはだ大雑把な性格の人もいるが、中にはそういう些細なことが気になる人もいるのである。
彼はその後、どういう人生を送ったであろうか、と時々思うことがある。