Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「小包が運んできた冒険」ジェラルド・ダレル著(小野章訳)評論社

2007-06-14 | 児童書・ヤングアダルト
「小包が運んできた冒険」ジェラルド・ダレル著(小野章訳)評論社を読みました。
空想上の動物たちの国「ミトロジア」でコッカトリスの反乱が起こります。
オウムのパロット、蜘蛛のダルシベルから話を聞いたサイモン、ピーター、ペネロピーの3人の子供たち。
盗まれた魔術書を取り戻そうと、彼らはミトロジアに乗り込み、ユニコーンたちなどさまざまな動物たちとともに対コッカトリス作戦を展開します。

いつも美しい夜明けの風景が見られるミトロジア。
ヘン・ハン氏の奇妙な発明品の数々。(コルクの木、ムーン・キャロット)
不思議な動物たち。(カタツムリと牛が合体したようなムーン・カーフ。泣き虫の竜、名コックの海蛇オズワルド。)
子供のときの夢がいっぱい詰まったファンタジーの世界です。

著者のジェラルド・ダレルさんは実際に絶滅危惧される動物たちを集めた動物園を自費でつくったほどの人物。著者と魔術師ヘン・ハン氏の姿とが重なります。

「ボアズ=ヤキンのライオン」ラッセル・ホーバン著(荒俣宏訳)早川書房

2007-06-11 | 外国の作家
「ボアズ=ヤキンのライオン」ラッセル・ホーバン著(荒俣宏訳)早川書房を読みました。
「おやすみなさい フランシス」などの絵本シリーズの作者としても知られるホーバンが、大人のために描いた幻想小説です。
地図屋をいとなむヤキン=ボアズは何年もかけて息子のボアズ=ヤキンのために魔法の地図を作りました。ところが息子はこの地図を見ると意外なことを言ったのです。
「ライオンがいないよ!」
ライオンはすでに絶滅して久しい幻獣。
しかしヤキン=ボアズは地図をたずさえ、ライオンを探しに旅に出ます。

解説でも荒俣さんが「これはアレゴリー(寓話)だ」と語っていますが、この作品の一番のキモは「ライオンとは何を表しているのか?」ということ。
解説ではキリスト教の象徴としてのライオン、ボアズやヤキンという言葉の意味が補足説明されています。
しかし、キリスト教の知識のない私が読んだ限り、ライオンにはたくさんの意味が重複して隠されていて、一口に「これ」と言えるものが選び出せなかったのが正直なところ。

ヤキンを傷つけ生命をも奪いかねない「死」の象徴としてのライオン。
またヤキンを診察した医師は「罪」の意識はないのかとヤキンに問いかけます。
ヤキンがボアズに渡そうとした地図は「親としての息子への一方的な期待」を連想させるし、そうすると「ライオン」が書かれていない地図は、息子自身の「意志」不在の親の勝手な思惑を表すのかな・・・?とか。
ヤキンが若い頃、科学者になる夢を絶ったことや、自分が欲しかったもの(ふたつの拳銃がついたカウボーイ服)をヤキンがライオンに叫ぶシーンなどから、自分自身の野望や欲望、夢、若々しいエネルギーそのものがライオンなのかとも思うし・・・。
たくさんの考え方ができるので、単なるファンタジーとは違う、哲学的な感じのする本でした。

「はるかな国の兄弟」リンドグレーン著(大塚勇三訳)岩波書店

2007-06-08 | 児童書・ヤングアダルト
「はるかな国の兄弟」リンドグレーン著(大塚勇三訳)岩波書店を読みました。
ヨナタンとクッキーの兄弟は、楽しい生活を期待しながら、はるかな国ナンギヤラにやってきました。
しかし、2人を待ちうけていたのは怪物カトラをあやつり、村人を苦しめている黒の騎士テンギルたちの一隊でした。
彼らを倒そうと2人は戦う決心をします。

ふたりの住む谷はどこもかしこも白いサクラの花が咲き乱れる美しい場所。
しかしサクラ谷の山を越えた隣の野バラ村はテンギルの圧政に苦しみ、その余波はサクラ谷にも及ぼうとしていたのでした・・・。
ヨナタンの「人間はやるべきことをやらなければけちなごみくずになってしまう」という言葉が胸に残ります。
ヨナタンは本当に勇ましい少年ですが、クッキーという守るべき存在があるから強くいられるのだろうとも思いました。
そして怖がりの弟クッキーも一見弱く見えますが、その大きな恐怖心に打ち勝つ過程も頼もしく思えました。
裏切り者を見つけ出す場面、野バラ谷からのふたりの脱出、村人たちの反乱、すべてがドラマチックでどきどきしながら読みました。
ラスト、せつなくてちょっと泣いてしまった・・・。


「偉大なワンドゥードルさいごの一ぴき」ジュリー・アンドリュース著(岩谷時子訳)TBSブリタニカ

2007-06-06 | 児童書・ヤングアダルト
「偉大なワンドゥードルさいごの一ぴき」ジュリー・アンドリュース著(岩谷時子訳)TBSブリタニカを読みました。
映画「サウンド・オブ・ミュージック」の女優ジュリー・アンドリュースさんが描いた異世界の物語。
主人公はベン、トム、リンディの三兄妹。
三人は動物園で偶然出会った奇妙な男の人にハロウィーンの日に再会。
彼は遺伝学の著名なサバント教授でした。
4人は人間界から消えてしまったワンドゥードルに会うために、空想動物王国ワンドゥードルランドへ旅立つ訓練を始めます。

サバント教授の授業、私も受けてみたいです。
色を、音を、匂いを、五感のすべてを研ぎ澄ませて世界を知覚する訓練。
ワンドゥードルランドはその訓練の成果どおりとてもカラフルな世界。
甘くかぐわしい香りを漂わせる花々、楽しいことを話さないと船出できない愉快号
、歌う川、さまざまな色の毛糸でできた家、虹の橋。
そして面白い容姿の不思議な動物の数々。

アンドリュースさんは「この本には、ただ一枚の挿絵も入っておりません。それは、読者のみなさまに、自由に、想像力を発揮していただきたいからでございます。」と冒頭で語っていますが、その言葉のとおり言葉をつむぐことだけでとても豊かな世界を生み出されています。
天は二物を与えるのですね。

最後の教授の研究はちょっとどうだ・・・と個人的には思いましたが、空想世界のお話ですしハッピエンドだったので良しとします。
ワンドゥードルが人間世界を訪れてみたいと思うくらい楽しい世界にしたいという願いの結びは、私も深くうなずかされるものでした。

「信長の棺」加藤廣(ひろし)著(日本経済新聞社)

2007-06-05 | 日本の作家
「信長の棺」加藤廣(ひろし)著(日本経済新聞社)を読みました。
本能寺の変後、信長はどこへ消えたのか。
光秀謀反にちらつく秀吉の陰謀。阿弥陀寺の僧侶が握る秘密の鍵。そして、主人公の太田牛一が最後につかんだ驚愕の事実とは?
日本史最大の謎に挑んだ本格歴史ミステリーです。

主人公の太田牛一は実在する伝記作家。
信長と秀吉に仕え、「信長公記」「大かうさまくんきのうち」などを著述しました。光秀の謀反の後ろにいた人物とは?秀吉の出自の秘密は?信長のゆくえは?
さまざまな周囲の人物、時代の風俗を絡めて描かれており、読み応えがあって面白かったです。
こういうことが本当にあったのかも・・・と思わせる真実味がありました。


「村田エフェンディ滞土録(たいとろく)」梨木香歩著(角川書店)

2007-06-03 | 日本の作家
「村田エフェンディ滞土録(たいとろく)」梨木香歩著(角川書店)を読みました。
舞台は今から約100年前の1899年、トルコ。
遺跡発掘の留学生村田の下宿には、英国の女主人ディクソン夫人、トルコ人の使用人ムハンマド、ギリシャ人のディミトリス、ドイツ人の若者オットーがいました。
町中に響くエザン(祈り)。軽羅をまとう美しい婦人の群れ。異国の若者たちが囲む食卓での語らい。虚をつく鸚鵡(オウム)の叫び。古代への夢と憧れ。羅馬硝子(ローマガラス)を掘り当てた高ぶり。守り神同士の勢力争い。
スタンブールでの村田の日々は、青春の光そのもの。
しかし時は共に過ごした友の、国と国とが戦いを始める時代へ突入していきます。

宗教や、民族、国家を描いた青春小説。
「エフェンディ」とはムハンマドが村田を含む下宿人たちに対して呼んでいる呼び名のこと。学問を修めた人物に対する一種の敬称です。
ラスト近くには村田と梨木さんの著作『家守奇譚』に登場する人物とのつながりもあかされます。
時代設定(昔の言葉づかい)にこだわったからか、どの人物のせりふもあまり強いキャラクターが感じられなかったのがちょっと残念。
(ドイツ人のオットーも、ギリシャ人のディミトリスも村田と同じような話し方をしています)
ハミエットがつむぐ一連のつながりの糸はちょっとオカルトティックでした。