Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ボアズ=ヤキンのライオン」ラッセル・ホーバン著(荒俣宏訳)早川書房

2007-06-11 | 外国の作家
「ボアズ=ヤキンのライオン」ラッセル・ホーバン著(荒俣宏訳)早川書房を読みました。
「おやすみなさい フランシス」などの絵本シリーズの作者としても知られるホーバンが、大人のために描いた幻想小説です。
地図屋をいとなむヤキン=ボアズは何年もかけて息子のボアズ=ヤキンのために魔法の地図を作りました。ところが息子はこの地図を見ると意外なことを言ったのです。
「ライオンがいないよ!」
ライオンはすでに絶滅して久しい幻獣。
しかしヤキン=ボアズは地図をたずさえ、ライオンを探しに旅に出ます。

解説でも荒俣さんが「これはアレゴリー(寓話)だ」と語っていますが、この作品の一番のキモは「ライオンとは何を表しているのか?」ということ。
解説ではキリスト教の象徴としてのライオン、ボアズやヤキンという言葉の意味が補足説明されています。
しかし、キリスト教の知識のない私が読んだ限り、ライオンにはたくさんの意味が重複して隠されていて、一口に「これ」と言えるものが選び出せなかったのが正直なところ。

ヤキンを傷つけ生命をも奪いかねない「死」の象徴としてのライオン。
またヤキンを診察した医師は「罪」の意識はないのかとヤキンに問いかけます。
ヤキンがボアズに渡そうとした地図は「親としての息子への一方的な期待」を連想させるし、そうすると「ライオン」が書かれていない地図は、息子自身の「意志」不在の親の勝手な思惑を表すのかな・・・?とか。
ヤキンが若い頃、科学者になる夢を絶ったことや、自分が欲しかったもの(ふたつの拳銃がついたカウボーイ服)をヤキンがライオンに叫ぶシーンなどから、自分自身の野望や欲望、夢、若々しいエネルギーそのものがライオンなのかとも思うし・・・。
たくさんの考え方ができるので、単なるファンタジーとは違う、哲学的な感じのする本でした。