Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「インストール」 綿矢りさ著(河出書房新社)

2006-10-05 | 児童書・ヤングアダルト
「インストール」 綿矢りさ著(河出書房新社)を読みました。
学校生活、受験勉強からドロップアウトすることを決めた高校生の朝子。
彼女は登校拒否を続ける間、ゴミ捨て場で出会った小学生、かずよしに誘われ古いコンピューターでとあるアルバイトを始めます。
この作品は第三八回文藝賞を受賞しました。

チャットやネット用語など、今読むと少し説明がくどく、やや古びている感じは受けますがそれは時代の流れなので仕方ないですね。
朝子が若い女の子であることをうとましく思う気持ち、女子高生という世間がもつ価値感と自分自身との溝、若さや時間、あふれる可能性があると思われながらも何もしたいもの、できるものが見つからない自分へのいらだち、同級生との違和感、変人に見られたいやけっぱちな気持ち・・・など、朝子のいろんな気持ちがよく伝わってきました。
ネットの住人の書き分けなどもよく書かれていて全体的にとても読みやすくて面白かったです。
ネットの住人にも実体がある、と感じ始めたふたり。
そのことと時を同じくして、ふたり自身の母親という生身の存在とぶつかりあうことになる話運びが巧みだなーと思いました。



「淋しいおさかな」別役実著(PHP研究所)

2006-10-05 | 児童書・ヤングアダルト
「淋しいおさかな」別役実著(PHP研究所)を読みました。
今から30年ほど前にNHKの幼児向け番組「おはなしこんにちは」の中で朗読された童話を集めた22編の童話集。今月文庫で復刊されました。
心に風が吹くようなしんみりとした話が多く、大人向けの童話と宣伝では語られていますが、私は小学生のとき読んで、ほかの童話にはない、もの淋しい雰囲気にとても惹かれたので、やっぱり子供向けのお話でもあると思います。
不思議な童話集です。
舞台は国籍も不明な数々の街。乗務員だけで満員の電車。猫貸家の老婆が歩く路地、ふなと話す老人、星を売るセールスマン・・・。
表題作はとりわけ印象的です。
「淋しい」という気持ちがわからない少女が「淋しいおさかな」の夢をみて旅に出るお話です。「はー・・・「おはなし」ってこういうものだな・・・」と腑に落ちます。
寓話的な話も多いのですが、あえて「こういう話」とくくらずに、読んだその時々で感じたものを大事にしたいと思う短編集です。