「黒いチューリップ」アレクサンドル・デュマ著(宗左近(そう さこん)訳)東京創元社を読みました。
舞台は17世紀のオランダ。フランス王のルイ十四世はスペインから独立をかちとったオランダを、手中におさめんとしていました。
その片隅で大きな賞金のかかった神秘の花、黒いチューリップの創造に没頭する青年コルネリウス。
この時代のオランダはひとつの球根のために家を買えるほどの大枚をはたく人々がいた、チューリップ熱のまっただなかでした。
コルネリウスは、ある政治的陰謀にまきこまれ断頭台へひかれていく運命に。
オランダ戦争前夜の史実を背景に、チューリップ栽培にかける熱い情熱と政治的係争、コルネリウスと娘ローザとの恋もからめた長編小説です。
前総理大臣の兄であり、主人公コルネリウスの名付け親でもあるコルネイユ・ド・ウィット。
彼は弟ジャンとフランスとの往復書簡(政治生命どころか、命そのものを奪いかねない代物)を、政治に興味のないコルネリウスに預けます。
しかし、コルネリウスの隣人ボクステルの密告により、コルネリウスは捕縛され冤罪により牢獄で暮らすはめに。
彼はそこで獄吏の娘、可憐なローザと恋に落ちます。
冒頭から民衆による私刑によって殺されるウィット兄弟のむごたらしい場面。
それを間接的に助けたウィリアム・オレンジ公の冷酷さが怖いです。しかも自分に教育を授けてくれた恩師を、です。
後になって「実はあのふたりは立派な偉大な市民だったのです」なんて公衆の面前で堂々と口にするあたり・・・行動や言動に矛盾があっても、それを人々に(自分自身にも)疑問すら感じさせず堂々とやってのける、それが権力者になるための器量?
結果的にコルネリウスの人生はオレンジ公に(権力のきまぐれに)ふりまわされたのだと思うと、話がいいほうに転んでも読後に苦さが残ります。
そして、この作品ですさまじいのはコルネリウスの、そしてボクステルのチューリップ栽培への情熱(狂熱と言ったほうが正しい)。
「チューリップを殺すこと、これは真の園芸家にとっては、身の毛もよだつほどの犯罪なのである!人間を殺すこと、それならまだ許せるというものだ。」
鉄格子ごしにローザに読み書きを教え、恋を育てていくコルネリウス。
一方ボクステルは偽名を使い、ローザの父・獄吏のグリフュスに近づき、何とかして黒いチューリップの球根を奪おうとします。
コルネリウスをねたみ、良心の呵責も感じず次第に犯罪に手を染めていくボクステルの様子にはおそろしいものがあります。
「悪意のいちばん怖いところは、人間がしだいにいつかそれと馴れ合いになるということである。」
ボクステルは自身の暗い心のとりことなり、自分が何をしたかったのか、何をすべきでないかを忘れ、蛇のような妄想(黒いチューリップを盗み、自分の名声を確かなものとする)の甘美さになじみ、それを自分の義務とすら感じていったのではないでしょうか。
ボクステルの魔の手が迫る黒いチューリップの行方は?
ふたりの恋人たちの運命は?
それは読んでのおたのしみ・・・。
舞台は17世紀のオランダ。フランス王のルイ十四世はスペインから独立をかちとったオランダを、手中におさめんとしていました。
その片隅で大きな賞金のかかった神秘の花、黒いチューリップの創造に没頭する青年コルネリウス。
この時代のオランダはひとつの球根のために家を買えるほどの大枚をはたく人々がいた、チューリップ熱のまっただなかでした。
コルネリウスは、ある政治的陰謀にまきこまれ断頭台へひかれていく運命に。
オランダ戦争前夜の史実を背景に、チューリップ栽培にかける熱い情熱と政治的係争、コルネリウスと娘ローザとの恋もからめた長編小説です。
前総理大臣の兄であり、主人公コルネリウスの名付け親でもあるコルネイユ・ド・ウィット。
彼は弟ジャンとフランスとの往復書簡(政治生命どころか、命そのものを奪いかねない代物)を、政治に興味のないコルネリウスに預けます。
しかし、コルネリウスの隣人ボクステルの密告により、コルネリウスは捕縛され冤罪により牢獄で暮らすはめに。
彼はそこで獄吏の娘、可憐なローザと恋に落ちます。
冒頭から民衆による私刑によって殺されるウィット兄弟のむごたらしい場面。
それを間接的に助けたウィリアム・オレンジ公の冷酷さが怖いです。しかも自分に教育を授けてくれた恩師を、です。
後になって「実はあのふたりは立派な偉大な市民だったのです」なんて公衆の面前で堂々と口にするあたり・・・行動や言動に矛盾があっても、それを人々に(自分自身にも)疑問すら感じさせず堂々とやってのける、それが権力者になるための器量?
結果的にコルネリウスの人生はオレンジ公に(権力のきまぐれに)ふりまわされたのだと思うと、話がいいほうに転んでも読後に苦さが残ります。
そして、この作品ですさまじいのはコルネリウスの、そしてボクステルのチューリップ栽培への情熱(狂熱と言ったほうが正しい)。
「チューリップを殺すこと、これは真の園芸家にとっては、身の毛もよだつほどの犯罪なのである!人間を殺すこと、それならまだ許せるというものだ。」
鉄格子ごしにローザに読み書きを教え、恋を育てていくコルネリウス。
一方ボクステルは偽名を使い、ローザの父・獄吏のグリフュスに近づき、何とかして黒いチューリップの球根を奪おうとします。
コルネリウスをねたみ、良心の呵責も感じず次第に犯罪に手を染めていくボクステルの様子にはおそろしいものがあります。
「悪意のいちばん怖いところは、人間がしだいにいつかそれと馴れ合いになるということである。」
ボクステルは自身の暗い心のとりことなり、自分が何をしたかったのか、何をすべきでないかを忘れ、蛇のような妄想(黒いチューリップを盗み、自分の名声を確かなものとする)の甘美さになじみ、それを自分の義務とすら感じていったのではないでしょうか。
ボクステルの魔の手が迫る黒いチューリップの行方は?
ふたりの恋人たちの運命は?
それは読んでのおたのしみ・・・。