HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アジア南下政策でクロージングは売れるのか。

2013-07-17 16:54:52 | Weblog
 ユナイテッドアローズが10月に台湾の台北に「ユナイテッドアローズ(UA)」の路面1号店を出店する。次いで「ビューティ&ユース(B&Y)」「グリーンレーベルリラクシング(GLR)」も出し、2022年には主力3業態で10店舗程度を展開するという。台湾には2年前に現地のセレクトショップを通じて、 B&Yのテスト販売を行い手応えを感じたことが、本格進出に踏み切らせたようだ。

 まずは同社のスタンダード業態、メンズ・レディス仕入れ&SPAのフルライン型の「UA」でブランド力を浸透させ、ファミリーやヤング向けの業態へと拡げていく戦略と見る。日本のセレクトショップでは6月に「ビームス」が瀟洒な路面店が並ぶ富錦街にコンセプトショップをオープンしているから、UAの出店でアジアでいちばんの日本贔屓、台湾にセレクトの2強が揃うことになる。
 
 もっとも、かつての香港、最近の北京や上海を見ると、アジアファッションの消費構造がよくわかる。最初に進出するのはルイ・ヴィトンやグッチ、セリーヌなど欧州のラグジュアリーブランド。この戦略は市場開拓、売上げ確保というより、ブランドバリュウの浸透が狙いだ。

 そして、経済発展により中間層の可処分所得、購買力が増すと、DKNY、トミー・ヒルフィガー、マーク・バイ・マークジェイコブスのようなブリッジからモデレートのラインが進出して、一気にマーケットを攻略する。そして国民全体の所得が底上げになると、 ローリーズファームやコムサ・イズムなどの低価格のカジュアルやベネトン、ザラといったグローバルSPAが登場する。台湾もこの傾向を歩んでいるのは間違いない。

 そして、世界で知名度のあるブランドが出揃えば、市場はやがて成熟する。消費者は個性や自分流の着こなしを求めるようになり、ブランド編集やコーディネート提案をもつ業態が威力を発揮する。セレクトショップのビームスやUAが進出するのは、台湾のファッションもいよいよこの領域に入りつつあるということだろうか。

 ただ、UAが台湾でどれほどニーズをもつのか。まず、同店のコンセプトを振り返ってみたい。UAは1990年7月、東京・渋谷で産声を上げた。ビームスの育ての親である現取締役会長の重松理氏が、アパレルメーカーの「ワールド」とジョイントベンチャーを設立。同店はその1号店だった。コンセプトは「21世紀の老舗」で「世界に通用する良い店とは、品揃え、売場環境、販売スタッフ、顧客……のどれもが、望み得る最高のレベルでそれを達成し、実現すること」だった。

 商品の7~8割は、英国製やイタリア製のインポートブランドで揃えたが、ブランド名は「ヒッキーフリーマン」、「グレンフェル」など大半が無名に近かった。ほとんどがサプライヤーブランドで、有名ブランドに供給しているメーカーの商品。つまり、同店はセレクトショップとしてブランドではなく、クオリティを優先することをポリシーにしたのである。

 また、同社は「ニュージャパニーズスタンダード」という目標を掲げた。スタンダードとは基準や模範という意味である。これは音楽のスタンダードナンバーのように、ヒットソングが時代ごとに受け継がれ、多くの人々に心に深く浸透することと同じ意味に解釈。つまり、スタンダードこそ、時代のメジャーになるという考えで、店を運営していこうとしたのだ。

 そして、ファッションだけでなく、ライフスタイルまでのカテゴリーを巻き込んで「新しい日本の基準」をつくっていこうというコンセプトで誕生したのがUAなのである。それが20数年の時を経て、この秋、台湾デビューを果たす。では、勝機はあるのだろうか。

 まず、UAが進出する大安区は首都台北でも金融・経済の中心。日本で言えば東京・丸の内のような立地だ。当然、ビジネスマンやワーキングウーマンが多いエリア。自分たちが台湾経済を支えているというプライドとグローバルな情報収集能力から、ファッション感性もそれなりに磨かれているのは想像に難くない。
 
 それゆえ、トラッドテイストを軸にしたビジネスコーディネート、いわゆるクロージングに対するニーズは旺盛かもしれない。英国やイタリアの上質な生地のスーツやシャツ、ウイングチップやローファーの靴、IWCの時計、レザーのビジネスバッグ、そしてメガネやアクセサリーなどなど。それらが落ちついた色合いの格調高い什器で陳列される。ビジネスマンやワーキングウーマンにとっては、そうしたショップで商品を購入し身につけることは、成功者の証しと思えるだろう。あくまで、イメージ的にであるが…。

 違いがあるとすれば、環境だ。特に気候は日本と大きく違う。台湾は俗にいう亜熱帯気候に入る。台北の平均気温は、最も低い1月が最低14℃、最高18℃、最も高い7月が最低27℃、最高33℃である。つまり、冬場でもジャケット1枚で十分過ごせ、ウールのコートなどよほど寒くならない限り、必要ない。

 7、8月になると、日本の猛暑日がほとんど毎日に続くのである。もちろん、オフィス内は冷房が効いているから、ワーキングウーマンにとって半袖では辛いかもしれない。しかし、営業で外に出ると、男女ともスーツ姿はかなり辛いはず。しかも、湿度は日本よりはるかに高い。
 終年が夏に近い台湾にクールビズなんてキャンペーンは存在しないだろうが、実態はクールビズスタイルの方が仕事はしやすいと思われる。また、大手紳士服量販店が手がける清涼スーツや洗えるウールなどの方が重宝するかもしれない。あくまで仮説ではあるが。

 こうした環境に機能優先とは一線を画するセレクトショップが進出するのである。ファッションリーダーとはかつての日本がそうであったように、肌寒い2月に麻のシャツを着て、残暑が厳しい9月にウールのジャケットを着るのを厭わない概念。台湾1号店のMDは日本と同様でスタートするということだから、重衣料を含むクロージングが売れるには、環境や気候に逆らってオシャレをするということになる。

 ファッションライターの南充浩さんがかつてご自身のブログ「ファッション業界の欧米至上主義は現実感が乏し過ぎる」(http://blog.livedoor.jp/minamimitsu00/archives/2899586.html)で、「例えば『半袖シャツはリゾートシャツであり、欧米ではビジネスにおいては長袖シャツが絶対だ』という主張がある。これなどはアホらしくて話にならない」と書かれていたが、台湾でUAの商品が売れるとなると、それはアホではないということになる。
 
 また、「ファッション雑誌の欧米至上主義は滑稽」(http://blog.livedoor.jp/minamimitsu00/archives/2901982.html)にある「人気セレクトショップスタッフが『シャツは長袖ですよね~。欧米だとそれが主流ですから』という提言は上記の流れをまったく無視しており、カッコ付けの欧米かぶれの独りよがりにすぎない」とのセールストークが、今度は台湾で当たり前として展開されるということだ。

 1986年に香港で制作され、世界中でヒットした「男たちの挽歌」では、主人公のティ・ロンやチョウ・ユンファはコートを着ている。キャラクター設定上の演出かもしれないが、この年香港は実際に寒かったようだ。しかし、亜熱帯の東南アジアでそうした気候が続くことは、まず考えにくい。

 台湾のサクセスしたビジネスパーソンが、我慢を取るか、実利を優先するか。当面は前者に軍配が上がるかもしれない。でも、成熟度合いも日本よりはるかに早いだけに、UAが台湾向けのMDに修正を余儀なくされることは、意外に早く来るかもしれない。その時、品揃えの肝はいったいどんな商品で構成されるのだろうか。
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