HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

イケイケの営業で必ずしも経営は好転しない。

2013-07-30 12:27:05 | Weblog
 先日、地元ファッション専門店の企業広告を制作した。この企業は普段、マス媒体による広告宣伝は一切行わないが、今年は節目でもあることで、大々的に資金を投下するとのことだった。その目的は、企業名の再認知だという。

 ヤングの場合、ショップ名は知ってても、その業態を運営する企業がどんな名前なのか知ることはほとんどない。これは就職活動を行う学生も同じようだ。まずはブランドやショップで選ぶから、企業研究をして初めて知る傾向のようである。

 この企業の場合もいろんなストアブランドを抱えている。営業的にはそれでもいいが、節目の年にはそれらと企業とのつながりを強調すべきだとの判断で、企業広告を出稿することに決めたという。
 ただ、そこらの代理店レベルなら、新聞の15段やテレビのスポットCMなどマス媒体に出稿してもらえば、それで終わりということになる。

 しかし、こちらはファッション業界で仕事しているだけに、知りたいことは山ほどある。沿革や変遷から業態開発の背景、MDやバイイング手法、店舗・販売戦略、マーケティング、財務面まで経営面の話を細かく突っ込んでお聞きすると、トップは快く答えていただいた。取材の仕事ではないにも関わらずだ。

 この経営者も現場からの叩き上げ、いわゆる「店長」からトップに登り詰めた人である。日本のファッション専門店は、どこも高度成長の波に乗って多店舗化した。それを支えたのが店長のマネジメントとチェーンシステム、そしてPOSの導入である。この企業も例外ではない。

 ところが、ある時、成長戦略が壁にぶち当たる。売上げはついても利益率は良くない。しかし、経営者は簡単に目標は緩められない。売りに走れば、売れる商品を揃える。 専門店なのに量販的なMDとなって、お客にそっぽを向かれ、マークダウンの連発。だが、目標は高いのだから、経費はバンバン使う。結果、思うように利益が取れなくなる。

 トップは店長を経験し、現場、現実、現物を見ていたからこそ、そうした問題点にようやく気づいたという。そこで、あえて「減収増益」を目標に、経営基盤を立て直し、利益体質を作ることに舵を切ったそうだ。売上げ─荒利益─経費=利益から、売上げ総利益─必要最小限の利益=使える経費にしない限り、利益はでないという考え方である。

 もちろん、利益がでないのは、損益分岐点や労働分配率が高いこともある。これも切り下げたり、適正値にしたり。さらに資本回転率を上げる目的で、最小限の資産を残しすべて売却。銀行は担保になるものは持っていた方がいいと必ず言うが、遊休資産ならもっていても価値は上がらないためだ。こうして財務基盤を整え、無借金経営を実践するまでになっている。
 
 店舗戦略も大幅に見直した。福岡・天神における流通戦争の影響からだ。地場のメディアは第4次だの、第5次だのと冠を付けたがる。でも、九州の商都におけるファッションウォーズは、永遠に終わらることはないだろう。大手のセレクトショップやグローバルSPAが次々と進出し、一等地の路面や再開発のビルインに店舗を構えていく。

 デベロッパー側は、大手向けに運営計画を設定するため、初期投資や出店コストはうなぎ上りで、資金力のない地元専門店が店を出しても、消耗戦に飲み込まれるのは目に目ている。そこで同社は、最小限顔と存在感をもつ業態だけ天神に残し、基幹業態は郊外型にシフトした。

 米国のチェーンシステムでは、郊外はロープライス、ローコストオペレーションでないと攻略できないと言われてきた。でも、果たして本当にそうなのか。それを考えている時、スタッフから「郊外でもお客さんは意外に上質な商品は求めていますよ」とのひと言で、ストアブランド名、MD、店づくりはほとんど変えずに展開し、現在は軌道に乗せている。

 そして、全社的にプロパー消化率を向上させた。仕入れを見直し、委託取引や値引きもやめた。商品の回転率を上げると利益率もあがり、キャッシュフロー経営ができるということだ。また、環境問題を考えると「ムダなもの、ゴミ屑のように捨てられるものは、うちはやらない。人間としても、商売としても、それは心が豊かにならないからだ」と、専門店として従来から取って来た路線を再度、明確化した。
 
 他にインポートや別注を軸にエクスクルーシブして、独自のスタイルを提案する業態や、ガーリッシュを切り口にトレンドを意識した商品で編集する業態など、どれも店の特徴を際出させて、コアな客層をしっかりつかむ店舗・マーケティング戦略に切り替えている。まさに地域専門店として、独立独歩の経営を貫くのである。

 それをトップに言わせると、「当社は競争をしない会社」「お客様がライバル」なのだそうだ。店長出身で、地場のファッションマーケットの栄枯盛衰をしっかり見て来ているだけに、その言葉はまさに一家言たる響きを失わない。地場の専門店、小売り企業はここまで経営努力を重ねている。客観的に見るだけでなく、企業トップの考えに触れることも、業界の仕事をする上では、大変役立つ。

 まあ、奇しくも昨日が締め切りだった「ファッションウィーク福岡2014」の企画コンペ提出書類。この企画を立てる上で、大手のHを始め、中堅のADK、今年の事業を手がけたNAなどの代理店が、どこまで地場業界についてマーケティングをしたのだろうかと、ふと思った。

 企画運営委員長のY氏が宣った「企画を立てるにあたって、各商業施設さんへの直接の質問は避けていただきたい」を鵜呑みにするようでは、立てられる企画なんてたかが知れている。また「福岡にお客を呼ぶ」って「手段は達成した」との逃げ口上に終始するだけだろう。

 どちらにしても、地場のファッション企業が経営を続けていくのは、ますます厳しくなっている。そんな実態に触れる度に、行政が実効性を欠き公金をドブに捨てるような無策事業ばかりやることに、ほとほと呆れかえる。
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