HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

姑息さは続かない。

2023-03-01 07:38:12 | Weblog
 ステルスマーケティング、通称ステマが今年の夏以降、法律で規制されることになった。SNS上で影響力を持つインフルエンサーなどの間で、実際は広告であることを隠したステマが横行している。ところが、現行の「景品表示法(正式には、不当景品類及び不当表示防止法)」では、禁じる項目がないためだ。

 昨年12月、消費者庁の有識者検討会は報告書で「広告と分からなければ自主的で合理的な商品の選択が妨げられる恐れがある」と強調。ステマを「事業者の表示だと判別するのが困難なもの」と定義し、景品表示法が禁止する「不当表示」に加えるよう求めた。今後は法案が国会で審議され可決されると、景品表示法に追加されて施行、運用されることになる。

 では、どこまでがステマに当たり、規制されるのだろうか。以下がそれにあたる。

 1.広告主が商品やサービスをタダで提供し、第三者に広告目的に沿った投稿をしてもらう
   →投稿者へのハッキリした依頼が無くてもステマに当たる

 2.広告主が投稿を条件に今後の取引の可能性などを言い出し、それにより第三者が投稿
   →投稿者へのハッキリした依頼が無くてもステマに当たる

 3.広告主がインフルエンサーなどに金銭を支払いSNSで宣伝させる
   →投稿内容についてハッキリした依頼や指示があればステマに当たる

 4.広告主が仲介事業者や商品購入者に頼み、ECサイトに都合のいいレビューを書かせる
   →投稿内容についてハッキリした依頼や指示があればステマに当たる




 当たり前のことだが、投稿者が特定の商品やサービスを宣伝しても、自分が商品やサービスを購入したり体験したことで、その良さを自分の意思で書き込んだ場合は、ステマには当たらない。また、新聞の15段や雑誌の企画枠、ネットのバナーなど企業側が「広告」や「PR」といった「表示」を行なっている場合も、ステマには該当しない。

 つまり、違反とされるのは、広告主がSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberに広告、PRであることを「隠した」上で、「特定の内容で投稿を依頼、指示」したり、「金銭などを提供」したりする場合になる。ハッキリした依頼がなくても、投稿者にとって「経済的なメリット=商品やサービスがタダで受けられる」があるように仕向けると、これも規制の対象になる。

 ただ、規制対象はあくまで「広告主」だ。違反した場合は再発防止の措置命令が出され、事業者名が公表される。それでも、命令に従わなければ「刑事罰(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金、あるいはその両方。法人(企業)に対しても3億円以下の罰金)」の対象となる。だが、投稿者は処分の対象にはならない。

 では、どうやってステマを判断し、違反と断定するのか。これには調査に携わる消費者庁の能力や本気度が問われることになる。一方、今回の法改正ではSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberといった投稿者は処罰の対象になっていない。ステマには以前から広告主と投稿者を仲介する「ブローカー」の存在が指摘されており、投稿者が仲介者から依頼されただけと言い訳することもできる。広告主にたどり着けなければ、違反の認定は難しい。

 消費者庁は広告主を調査するのが困難なのは、十分に想定しているだろう。だから、まずはステマに加担するSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberなどに対し、ステマは「法律違反である」ことを告知し、地道に啓蒙していくことを優先するのではないか。投稿者がいなくなれば、広告主が依頼することもできなくなるからだ。

 もちろん、投稿者は違反にならないから、啓蒙だけではステマを抑制できない。次の段階はブローカー、そして広告主を摘発していくしかない。消費者庁は景品表示法違反について「通報制度」を設け、消費者から情報提供を受け付けている。SNSやYoutubeなどの投稿を見て商品やサービスを利用したが、投稿者が言うところの「状態が改善される、素晴らしい効果が得られるものではなかった」と、感じた利用者から提供される情報がカギになるわけだ。


海外のステマ制裁金は最大4万ドル

 これだけステマが問題になっているのだから、利用者が間違って優良と認識してしまう「大げさな広告」や「嘘の表示」はかなり露出している。アパレルのケースは一時、インフルエンサーの投稿がブランドの売上げに影響していたが、今ではそれも幾分か沈静化した。代わって各ショップではスタッフがSNS投稿に注力している。これなら自社ブランド、自店アイテムを投稿しているので問題ないし、プロのアドバイスとしても信頼度は高い。



 消費者庁に寄せられた商品・サービスでの相談件数を見ると、15歳から19歳まででは、男女共に脱毛剤や健康食品など美容に関する商品が目立ち、中には「広告を見てダイエットサプリメントのお試し品を購入したら、2回目の商品が届いて驚いた」 など定期購入のトラブルもあった。 やはり「理美容(化粧品)」「ダイエット」「健康食品」は、広告で謳われたほどの効能や成果がなかったものの筆頭のようだ。




 これらの商品やサービスは、「純広告」では実際の効能や成果を盛って表現することは規制されている。だから、広告主はステマに依存し、販促に力を入れるのだ。利用者から「使ってみたけど、投稿者が言うような効果はなかった」との通報が多ければ、ステマの可能性は高いと見られる。消費者庁としては、こうした広告主を調査していくしかない。

 もっとも、景表法は行政法規(平成21年、消費者庁の発足により、主務官庁は公正取引委員会から移管)の一つで、違反したからすぐに処罰されるわけではない。まずは再発防止の措置命令が下され、事業者名が公表される。それでも命令に従わない場合に初めて刑事罰が課されるのだ。その段階に入ると、広告主は家宅捜索を受け、裁判所に提訴するための証拠としてステマの関係書類やデータなどがすべて押収されることになる。

 となると、ステマに加担したSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberの氏名や住所、銀行口座などの情報も関係機関に握られてしまう。違反者として処罰されることはないが、広告主の社名が公になれば、必然的にそこの商品やサービスを宣伝していた投稿者も、ネット社会では炙り出されて多くの目に触れる。利用者の中には効果がなかった証拠として、投稿のスクリーンショットなどを保存している人もいるはずだ。結果は火を見るより明らかである。

 違反とされた広告主の商品やサービスを宣伝していたSNS投稿者やインフルエンサー、Youtuberについても、「この人の投稿は全くの嘘だったのか」「あのインフルエンサーはステマしていたらしい」という情報が凄まじい勢いでネット上に拡散されていくだろう。誹謗中傷がエスカレートすることも考えられ、ネット社会の途轍もない制裁を受けることになる。

 海外では金銭を受け取って消費者や専門家を装い、商品などを推奨する投稿者も、ステマ規制の対象となっている。米国の連邦取引員会は指針でどんな広告が違反かを示し、経済活動を阻害しすぎないように配慮する一方、違反した投稿者にはステマに該当する表示1日あたり最大「4万ドル(約530万円)」超の制裁金を課している。額だけ見てもかなり重罪だ。

 欧米が投稿者まで制裁するのはなぜか。それは結果や影響の重大さを鑑みて、事前に違反を抑止しようという狙いからだ。莫大な制裁金は、経済的利益に目がくらみ「見つからなければいい」「分かりっこない」「騙される方が〇〇だ」と、違法なステマに手を染める投稿者を一人でも出さない救済措置とも言える。

 ステマの次の段階という逃げ道もある。検索結果の上位にランキングされる手法がそうだ。ネットではSEO専門のライター募集が盛んだが、SEOだけでは違法ではないからだ。

 さらに広告主が自社の商品やサービスの大げさや嘘をAIに学習させておき、それを「チャットGPT」と連動していれば、どうなるのか。消費者が「お肌が白くなる化粧品は」「手軽にダイエットできるサービスを教えて」と、質問すれば即座に広告主の商品やサービスの情報が提供されないとも限らない。理屈としてはそうなることが十分に考えられる。

 ただ、上位で紹介される商品やサービス、そしてAIが提供するソリューションは、消費者がそれだけ注目するから、それを人為的、意図的に操作するのは公平性、独立性の観点から外れるという見方もできる。

 最後は各消費者が商品やサービスを見極める目を磨くこと、そして、店舗での買い物や体験を通じて実感していくしかない。その意味で、今年は実店舗、専門スタッフといったリアルが見直される1年になるのなるだろう。はっきり言えるのは、その場しのぎの姑息さは、決して信頼されないということ。これはデジタル、ネットに突きつけられた命題でもある。


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