深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

人なるもの

2014-01-09 14:58:13 | 心身宇宙論

2013年のアニメは『進撃の巨人』が一番の話題作だったが、それ以外にも良作が多かった。2013年10~12月期に私が『境界の彼方』と並んで最も期待していたのが『蒼き鋼のアルペジオ-ARS NOVA-』だった。岸誠二監督の海洋アクションもの、ということで放送前の評価も高かった。1期12回で終了したが、これについても書かなければならないとずっと思っていた。


舞台は2039年。温暖化による海面上昇によって陸地の版図が縮小する中、世界各地の海に霧に包まれた謎の艦隊が出現する。「霧の艦隊」と呼ばれたその艦隊は、いまだに人類が持ち得なかった超兵器を持ち、人類の艦隊を圧倒。人類は次第に制海権を奪われていった。そして最後の望みを託した国連最終決戦艦隊も大海戦の末、壊滅。霧の艦隊によって海底ケーブルは寸断され、衛星通信も強力なジャミングによって使えなくなり、世界各国は大陸ごとに孤立することになった。

その5年後、霧の艦隊に所属する潜水艦イ401が突然、日本の沿岸に現れ、無抵抗のまま拿捕された。だが、その目的は不明、クラインフィールドによって守られたその内部も調べることができないまま、ドックに眠っていた。
そんな折り、海洋技術総合学院の学生、千早群像の前にイオナと名乗る少女が現れる。イオナは拿捕されたイ401のメンタルモデルで、「群像と接触し、イ401に群像を乗船させろ」という命令だけを受けて艦隊を離れ、ここに来たのだという。
そして群像(と学院での彼の仲間たち)はイ401とともに姿を消した。

そして2年後、群像たちはこれまで人類が勝利したことのない霧の艦隊を打ち破る存在として、再び姿を現した。

──というのが第1話。


主人公の下に、いきなりその運命を告げる使者が現れ、次に現れるともう一流の戦士になってる、なんて一体いつの時代のアニメだよ。話、スカスカじゃん──第1話を見たときは、ちょっと──じゃなくて、かなりガッカリした。フルCGのアニメの質感にも馴染めなかったし。けれど、『まど☆マギ』の例もあるので第1話で切るのは待って、もう何話か見た後で判断することにした。

で、第2話(イ401と重巡洋艦タカオとの海戦)を見たら、これが結構面白くて、見続けることになったというわけなのだが、この作品、本当に回を重ねるごとに面白くなるんだ。特に大戦艦ハルナ、キリシマ連合との横須賀沖海戦とその後を描く第4~6話は神回で、これを見てしまったらもう最後まで見るしかなくなってしまうだろう。

もともと潜水艦対洋上艦、潜水艦対潜水艦の戦いを描いた作品には『眼下の敵』、『Uボート』、『レッドオクトーバーを追え』など名作が多いが、それはこの作品も同じで、相手の手を読み合い知略を尽くした戦闘シーンは見ていてワクワクする。


しかし、それはこの作品の半分の要素に過ぎない。

霧の艦隊を構成する各艦は誰かが操艦しているわけではなく、実はそれ自体が自律的思考を持つ「生きた兵器」であり、ナノマテリアルで構成されているため、その時々で自身の内部構造そのものすら自由に変えることができる。

そして「霧」は人類の思考パターンを調べるため、主要な各艦は人の姿を模したメンタルモデルを持っている(メンタルモデルは全て女性だが、これは人類が艦に女性代名詞を使うことに由来するらしい)。

だが、メンタルモデルを持ったことで「霧」は兵器としての存在から人としての存在へと大きく変貌していく。アニメ『蒼き鋼のアルペジオ-ARS NOVA-』が本当に描いているのは、人の姿を模しただけのメンタルモデルが「人」になっていく、その姿である。

メンタルモデルは体を取り巻く光の輪を持った存在として描かれる。これは人を超越した存在、天使を暗示しているとも考えられる。が、彼女たちはその姿を持ったことによって単なる兵器ではなくなってしまう。これはアントニオ・ダマシオの唱えるソマティック・マーカー仮説などとも不思議に呼応する。高橋透は『サイボーグ・フィロソフィー: 『攻殻機動隊』『スカイ・クロラ』をめぐって』の中で次のように書いている。

ダマシオは、『無意識の脳 自己意識の脳』で人間のアイデンティティの形成について脳と身体との関連で次のような説を述べている。「私は……脳の中に表象されている有機体こそ、最終的に捉えがたい自己感になるものに対する生物学的前兆ではないか、そう結論づけるようになった。アイデンティティや人格を備えた複雑な自己も含め、自己の根源は、生存のために身体の状態を、狭い範囲で比較的安定した継続的かつ『非意識的な』仕方で保っている脳のさまざまな装置の総体の中に見出されうる」と。先に見たように、ダマシオの説によれば、身体から脳へは不断に、身体の外界と身体の内部からの情報が送られており、脳は身体という有機体からのこれらの情報を脳内においてたえず表象している。この脳内に表象される有機体こそが自己感の生物学的基礎であると、ダマシオは考える。アイデンティティや人格を備えた複雑な自己も含め、自己の根源は、このような身体に発する自己感に根ざしている、というのである。アイデンティティという自己のあり方は、個体というアトム的な身体のあり方に固有の様式なのである。

これをもう少しわかりやすく述べれば、人は「人の姿」を持つから人なのだ、ということであり、「人の姿」を持つことによって人は人になるのだ、ということでもある。


この作品には原作があり、今も連載中である(が、私は読んだことがない)。原作にはまだ明かされていない多くの謎があり、それをそのままアニメにしてしまうと、1クールなり2クールなりで終わらせることができない。そこで、このアニメでは原作をかなり改変し、世界の謎を巡る大きな物語ではなく、メンタルモデルが人になっていくというテーマの中に作品世界を収斂させるようにしたが、それはとてもいい選択だったと思う。

実際、原作つきアニメの場合、原作と違うことをしようとすると非難轟々となることがしばしばだが、この作品に関してはニコ動でも「原作は好きだが、アニメもいい」という好意的なコメントが多かった。

2期をやるかどうかは支持する声次第、ということらしいので、よかったら一度見てみてほしい(ニコ動で第1話だけは無料で見られる)。上で「質感に馴染めなかった」と書いたフルCGのアニメ、という点についても、全く気にならないどころか「こんな表情までCGで出せるのか」と驚くはずだ。シリアス・パートとギャグ・パートの絶妙のブレンドにも注目。


最後にアニメ『蒼き鋼のアルペジオ-ARS NOVA-』のPV第4弾を添付しておこう。


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