深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

母と惑星について、および自転する女たちの記録

2016-07-15 13:42:19 | 趣味人的レビュー

渋谷のパルコ劇場は客席と舞台が非常に近く感じる、お気に入りの劇場だ。それが再開発のため、この2016年8月7日をもって閉館となることが決まり、今そのラストとなる舞台公演シリーズが行われている。

そのシリーズの中の1作、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』を見に行った。この作品は、志田未来、鈴木杏、田畑智子、斉藤由貴の4人によって演じられる、母と娘たちとの愛憎の物語。

親子関係というのはどこの家でもいろいろ難しいものだが、特に最近は母と娘の関係がいろいろ取り沙汰され、それについて多くの本も出ている。私は男ばかりの3人兄弟だったので、そうしたことを直接的には知らないが、母と娘という女同士の関係は父と息子の男同士の関係にある一種の「力を巡る闘争」とは違う、もっと「生きることの根源」に近いところでの闘争があるような気がする。

この『母と惑星について〜』は三女(志田未来)の独白で始まる。小さい頃の母との思い出だ。母と二人で森の中を奥へ奥へと歩いて行き、そこで母が「ここで待っとって」と言って自分一人残して姿を消し、いつまでたっても戻ってこなかった、という記憶(この話の続きは、物語の後のほうで再び語られることになる)。

そこで場面は一転し、三姉妹はトルコのイスタンブールにいる。つい先日死んだ母(斉藤由貴)が、経営していたスナックのカラオケでよく『飛んでイスタンブール』を歌っていたことから、そこに散骨してやろうとビンに母の遺骨を入れてやって来たらしい。といっても、それは純粋に母親孝行のためではない。

「私には重石が三つ必要なの」というのが口癖で、長女(田畑智子)が「家を出て東京の学校に行く」と告げると、「お前がいなくなったら誰がアタシの面倒を見るんだ!」を怒り狂い、次女(鈴木杏)が口紅を万引きして店に呼び出されると平身低頭して謝りながら、一歩店を出ると「何でバレるようなヘマをやったんだい!」と叱り飛ばし、三女には「これから彼氏と暮らすんだから、お前はこの家から出ていってくれ」と言い放つ母。そんな無軌道に生きた母の言葉や行動は三姉妹を傷つけ、呪縛し、死んでしまった今も娘たちの心は母から受けた傷が血を流し続けているのだ。

けれども同時に、三姉妹はそれぞれに母親の一部を確実に受け継いでいる。長女はいろいろな男と恋愛関係になってはすぐ別れるを繰り返し、次女はバンドをやっている派遣社員の男と結婚しているが、多額の借金を抱え、三女は妊娠し、相手の男からもプロポーズされているのに、子供を産み家族を作ることが怖くてたまらない。今度の散骨を名目にした外国への旅も、実は彼女たちの現実からの逃避の一面もあったのかもしれない。

そして母もまた、その母(三姉妹にとっては祖母)に呪縛されていたことが明らかになっていく。母を心から憎みながらも、生前の母の願いを汲み取ろうとする三姉妹。それ自体が1つの「業」のようにも見えてしまうが、祖母から母へ、母から娘へと続く愛と憎しみと呪縛の連鎖──三姉妹はその連鎖を解くことができるのか?

 


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