『ロボコップ』を観ました。
かのSFアクション映画の最高傑作の“リメイク”。
このブログでも、以前より何かと話題にして注目して来た作品であります。
個人的には、かなり期待していた作品だった訳ですが…。
まずオリジナルについて。
オリジナルを手掛けたのは、我らが鬼才ポール・ヴァーホーベン監督。
僕がオリジナルを劇場で観たのは、中学生の時でした。
観終わった後、あまりのカッコ良さに痺れて今もこよなく愛する映画の一本です。
もう、あの「マーフィ!」と言う決め台詞を何度真似した事か(笑)。
それくらい自分の中で思い入れが強い作品であり、今回のリメイク版に対するハードルも自然と高くなりました。
(余談ですがシリーズとしては「2」までと言う認識を持っています)
まず結論を言いますと。
リメイクとして今回の『ロボコップ』は、充分に面白い作品だったと思います。
同じくヴァーホーベン監督のSFアクション映画の傑作『トータル・リコール』、アチラも先にリメイクされました。
アチラはヴィジュアルはカッコ良いですが、決定的に「何か」が欠けた凡庸なリメイクだったとしか言えません。
本作はリメイクとして、非常に秀逸な作品となっていると思います。
今回新たに、ジョゼ・パヂーリャ監督を迎えてリメイクされた本作。
オリジナルにあって重要な要素である暴力・残酷・悪趣味・グロ描写を、実にマイルドにまとめる手腕と演出は巧み。
ある意味、悪趣味&グロ描写に関してはブラックな笑いに昇華している点ではエグい。
更に物語の根底にある社会批判と政治的メッセージも、リメイク版でも物語の展開に導入していたのは良かったと思う。
あとオリジナルのテーマ曲を使ってくれたのも、個人的には大きなポイントです。
しかし…幾つかの明確な不満があるのも事実。
ソレが解消されていれば、今回のリメイク版もオリジナルに匹敵する新世代の傑作と言える可能性もあったので残念です。
(注意:以下ネタバレ気味です!!)
問題点として、まず指摘したいのは…。
物語の展開として「明確な敵役が不在だった事」が挙げられます。
結局、一体誰が悪かったのか?!
ソレが様々な要素をコンパクトに凝縮した本作にあって、焦点をボヤケさせてしまっているのが惜しい。
その事によってマーフィとその家族を襲う悲劇や、ロボコップとしてのヒロイックな活躍が弱まっている。
予告篇を観た段階では、自社の目的の為に優秀な刑事だったアレックス・マーフィを事故に見せかけ重傷を負わせた黒幕。
ソレを仕組んだのはデトロイト市警と癒着していた、オムニ社の社長レイモンド(演:マイケル・キートン)かと思ってました。
しかしアメリカ本土にロボットを売り込む野心をレイモンドは持っていても、そこまで極悪非道な事をやった訳ではない。
あくまでもマーフィを「人間」ではなく、会社のPRの為の「商品」という認識しか持っていない冷酷さはありましたが。
「商品」という要素では、オムニ社の重役達も利益の為なら手段を選ばない非情さも今現代の「巨大企業」として表現されていた。
では「ロボコップ計画」にあって、マーフィを改造した張本人であるノートン博士(演:ゲイリー・オールドマン)。
自身の知的好奇心の為なら、人の生命に尊厳や倫理的な一線を乗り越えるマッド・サイエンティスト…って訳でもない。
最初から兵器の開発には否定的だが、自身の研究資金の為に嫌々レイモンドに従っている感じは漂っている。
しかしレイモンドの命令により、マーフィの「感情」を奪う脳手術を躊躇する事なくやってしまう。
その一方ではマーフィと家族の事を心配し、自身の予想を上回るマーフィの行動(機械でも抑制出来ないに感情)に次第に魅了されていく。
終盤では、反旗を翻したマーフィの味方になっている。
自身の研究への探求心と共に、一方では人間としての良心の呵責も持ち合わせていました。
ゲイリー・オールドマンを起用しながら、ソレが逆に今一つノートンというキャラも中途半端な印象になっている。
ノートン博士に関しては、最初からマーフィの立場に同情的で理解があるキャラならより生きていたと思えます。
その中で悪役らしいキャラとして映えるのが、オムニ社軍事顧問であるマトックス(演:ジャッキー・アール・ヘイリー)。
中東等の最前線の“現場”に立つ、ゴリゴリの軍人上がりのマトックス。
彼は明らかに最初からマーフィを見下し、「ブリキ男」と侮辱している。
だが実戦訓練によって、マーフィに負けた事を逆恨みしている。
己の意志で行動し出したマーフィを快く思わないレイモンドの命令を受け、彼は嬉々としてマーフィの“破壊”を企む。
確かにクライマックスでマーフィの強敵となるが、その決着は決して両者の間で付く訳でもないから何のカタルシスも無い。
この「誰が黒幕なのか?(マーフィの運命を狂わせたのか?)」と言う不鮮明さが、物語をドラマチックに展開させない。
それによってオリジナルのラストにあった、観る側が持つ爽快感が生まれないのが致命的。
本作を巡り様々なトラブルがあったと聞きますが、ソレが先に挙げた問題につながっていると推測出来ます。
言ってしまえば、本作で一番悪いのはマーフィを裏切っていたデトロイト市警の同僚と上司。
マーフィが自らの捜査で犯罪組織を壊滅させ、癒着していた同僚や上司を射殺したのが一番のクライマックスとなってしまう。
オムニ社の目的を離れ、自分の意志を持ってしまったマーフィが邪魔となりを排除する事を決定したレイモンド。
彼を追ってオムニ社に殴り込みに行くマーフィだが、先の挙げた「黒幕は誰か?」という焦点が弱いので盛り上がりに欠ける。
いっそレイモンドがデトロイトという街を、自らの「商品」をテストする為に裏から全てを仕組み牛耳っていたと言う設定なら素直に燃えた筈。
確かにクライマックスのED-209とのバトル・シーンはカッコ良かったが…。
それ故に、エンディングも今一つスッキリしない後味の悪いものになっているのが痛い。
みのもんたの様な、保守的かつ扇動的なTV番組の司会者であるノヴァック(演:サミュエル・L・ジャクソン)。
彼による「アメリカ万歳!」の演説だけが、妙に皮肉を込められており強烈な印象を残す結果となってしまっている。
しっかり「Mother Fucker!」と決めてくれますが(苦笑)。
ただデザインを含め、リメイク版のロボコップは文句無しでカッコ良かった。
最初はメタリックなシルヴァーから、ブラックになったルックスも良い。
オリジナルと異なり、俊敏かつシャープなアクションも良い差別化につながっている。
2丁拳銃なのもグッと来る。
そして闇夜を、漆黒のバイクで駆け抜ける姿も最高にクール。
あと抑制されていた感情が、「息子」という存在によって自身の感情を取り戻す描写も良い。
今回マーフィを演じたジョエル・キナマン。
妻とのPC越しの会話シーンはあまりに切なく、本作のロボコップと言うキャラがよりエモーショナルだという印象を与えます。
その哀しげな眼差しと、感情が消え失せロボコップとして活躍する時のギャップが観る側の胸を締め付けます。
ある意味、オリジナル以上にこのリメイク版はハードボイルドな雰囲気が満載だったのもポイントとも言えます。
まぁ~文句をタラタラ言いましたが…。
充分に面白い映画に仕上がっていると思います。
今ハリウッドの何かと厳しい規制の中で、ここまでヴァイオレンスで硬質な感覚を持つ作品に仕上げた事は評価出来ると思います。
個人的には滅茶苦茶楽しめました(笑)。
多分ソフト化されたら、家で何度も観る作品かと個人的には思っています。
オリジナルを観た事が無い方は、本作を観ると強烈な衝撃を受けるかと思います。
オリジナルが大好きな方は、是非リメイク版と見較べて欲しいと思います。
「生きていようが死んでいようが、貴様を逮捕する!」