ダンナのぼやき

あられダンナの日々のぼやきです。
色んな事を思い、考えぼやいてます…。

『パトレイバー 首都決戦』、そして…。

2015-05-10 14:45:06 | 映画
『パトレイバー 首都決戦』を観た。

押井監督により実写化された、先の『THE NEXT GENERATION』シリーズに関して。
実は数話してない状態で、それで今回の劇場版を観ても楽しめるのか不安だった。
しかし、そんな心配は杞憂に終わった。
滅茶苦茶面白かった。



面白かったと感じた一方で、ある疑問が脳裏をよぎった。
「アレ? 押井監督はこんな映画を撮る人だったか?!」って事。
90分という時間の中に、実にドラマとアクションをテンポ良く盛り込まれている「判り易い作品」だったからだ。
良くも悪く過剰な自己陶酔的な美意識と、複雑な内面描写とアクション描写のバランスが何とも微妙なのが押井監督。
事前に「今回はエンターテインメントに徹する」的な発言はあった。
しかし、言うても押井守監督。
その「エンターテインメント」という言葉の解釈も、観る側とは当然違ってくるだろうと予感していた。



確かに良くも悪くも「押井ワールド」は全開だったが、それも作品を盛り上げる要素に昇華していた。
物語も良い意味での「説明不足さ」で、後は勢いで押し切る作品になっていた。
作品によって落差の激しい人だが、実写映画として本作は押井監督の最高傑作かと思った。
しかし、後になってこの認識は改める事態になる…。
その事実を知った瞬間、予想はしていたが「やっぱりな」と思ってしまった。
一つの商業作品として、成立させる為に裏では相当な問題が起きていた。



その事について後で触れる。
まず、僕が観た「劇場公開版」について話したい。
先にも言ったが実写シリーズに関して予備知識は無かったが、「パトレイバー」というシリーズへの思い入れはあった。
ハッキリ言ってしまうと、本作は劇場版アニメ1と2を絶対に観ておく必要性がある。
特に押井監督にとって真の最高傑作とも言われる、劇場版「2」に関しては絶対に観ておく必要がある。
言ってみるならば、この「劇場公開版」はその「2」の実写でのリメイクであり、更にはその続篇とも言える作品になっていた。
この辺りに関して、多くのファンから賛否両論を呼ぶ結果となったと推測出来てしまう。



11年前に柘植とそのグループが起こした「幻のクーデター」。
甚大な被害を出しながらも、特車二課の“超法規的活躍”によって事件は解決された。
しかし、自衛隊から盗まれた最新鋭の戦闘ヘリ「ゴースト」によって再びレインボー・ブリッジは破壊された。
人々の脳裏をよぎるのは、他でもなく柘植達の起こした「幻のクーデター」。
あの時以上の悪夢を生まない為に、人々は柘植の意志を受け継いだテロ・グループの摘発に躍起になる。
そこには「日本」という社会の抱える矛盾や、権力者達のエゴや思惑が複雑に絡み合っていた…。



その辺りの社会批判、又は思想的なやりとりはマイルドに包まれている。
事件を追う公安の高畑警部と二課の後藤田隊長との会話、首都・東京を彷徨う情景によって語られる。
台詞回しや、都市という実は孤独な空間を彷徨う描写に押井監督の持ち味が生きている。
本作ではオリジナルの初代を「先代」と称し、偉大な存在として崇めている傾向が非常に強い。
それは本作の主人公となる、「無能」と呼ばれる現在の二課の面々との対比として明確になっているのもある。
しかし、「先代」を必要以上に有能…と言うよりも「脅威」として描いているのは他にもある。
ソレが事件の鍵となる存在として、他でもなく南雲しのぶが登場するからだ。
南雲の存在と彼女の発言は、本作の真の主人公とも言える後藤田隊長に大きな葛藤を呼び起こす。
それと同時に、権力側である警察内部にとっては柘植以上の脅威として描かれる。
そして状況の悪化と共に、後藤田隊長は「二課の遺産」と言う呪いと向き合い決断を下す。



ドラマとして「静」の展開が多い、従来の押井作品ならここで唐突にクライマックスに突入しただろう。
この「劇場公開版」が今までの押井作品と異なるのは、随所でしっかり「動」のアクションを絡めている事だ。
小野寺率いる決起隊による襲撃、そしてレイバー無しでの二課の決起隊アジト突入。
更には後半、謎のヒロイン・灰原零操る「ゴースト」による都市破壊。
または空自の戦闘機や戦闘ヘリとの空中戦を描く事によって、作品が実に判り易い形で緩急が付いていて観やすい。
自衛隊の協力を得ての撮影なので、ゴーストによって戦闘機が派手に撃墜される事はなかった(苦笑)



ただ元同僚達の乗る戦闘ヘリとの空中戦では、しっかりと一機だけとは言え撃墜して都市に墜とす展開は良かった。
小野寺率いる決起隊、そして灰原に関する描写が少なかった。
テロリスト集団なので、詳細に描く必要はないのかもしれない。
ただ柘植に心酔し、その意志を引き継ぐ形で決起隊を組織した小野寺。
素性は語られないが、小野寺も多分自衛官でしょ?
他の隊員も素人ではない訳だし、彼らに関してもっと突っ込んだ描写があっても良かった。
最後の最後まで謎に包まれた、得体の知れない不気味な殺戮マシーンである灰原(劇場版1の帆場に通じる)。
非常に良いキャラだったので、もう少し何らかの情報を描いても良かったのでは?と思った。



本作の秀逸なポイントとして、ありがちな「日本映画だから…」とガッカリする描写が少なかった。
予算や制約は一杯あったかと思うが、実に上手くやっていたと思う。
実物大のイングラムだけでなく、本作ではゴーストまで製作した事。
先にも上げた都市破壊や自衛隊機との空中戦。
あと銃器の使い方や、対人アクション描写の巧さにも唸った。
特に中盤のハイライト、決起隊アジトへのレイバー無しでの二課突撃のシーンだ。
一連の銃撃戦や、カーシャを演じた太田莉菜嬢の格闘術と銃器の扱い方は見事だった。



蘊蓄をたれるのは良いが、実際に「画」にすると間抜けになってしまう事が日本映画では多かった。
要は監督やスタッフがガン・マニアってのもあるが、アクション演出にマニアックさだけでは難しい。
撮り方やカット割り、アクション自体の見せ方を含めてセンスが物を言う。
早過ぎてしまうと何やってるか判らないし、これ見よがしに「凄い事やってます!」とやると観る側の鼻に付く(苦笑)
無駄なく、実にスマートな実戦的なアクション描写はアクション監督の園村健介氏のセンス。
あとアクション素人だったという、太田嬢の頑張りによってもたらされた賜物かと思う。
はい、私は太田莉菜嬢に心を奪われました(笑)
あとカーシャだけでなく、ゴーストのコクピット内で何の躊躇も無く唇を笑の形に歪めて殺戮を繰り広げる灰原(「排除する」という台詞が怖い)。
ユーモアを見せながらもテロリストへの非情さ見せる高畑警部、天性の勘を生かして一撃必殺の戦いを挑む泉野。
そして事件の中心にありながら、後藤田隊長に「本当に酷い人だ」と言われる南雲。
この作品に登場する女性は皆強くて美しい、コレも押井監督の趣味全開ではないでしょうか?!



そして訪れる怒涛のクライマックス。
シゲさんが「しっかり稼働出来るのは3分だけ!」とフォローを入れています。
観る側も、ここで『パシフィック・リム』的なロボット・アクションは期待はしていません。
だって監督が押井さんだから(笑)
その証拠に2号機はあっさりゴーストに破壊され、橋から転げ落ちて退場してしまいます(苦笑)
しかしアニメの劇場版「2」よりも、本作の方がしっかりロボット・アクションしてました。
稼働停止したイングラムを外部から緊急稼働させ、モーショントレーサーを使っての一撃必殺の戦いへ。



おまけにカーシャだけでなく、高畑警部まで機関銃を持ってゴーストを撃墜しようとするのです。
もうコレだけで燃えないでしょうか?(自嘲)
そして彼らはチームとして、怪物のようなゴーストと灰原に一先ず勝利を得る事が出来ます。
この時に見せる、各キャラの笑顔が印象的でした。
個人的には後藤田隊長にメガネを取って、笑顔を浮かべながら敬礼する高畑警部の姿が胸に焼き付きました。
事件を解決したのは二課という事となり、これでまた「遺産」により二課の解散は免れるのかと思います。
しかし物語は不穏な要素を残したまま、エンディングを迎えますが…。



凄く面白かったです。
確かに「一見さん、御断り」の要素は非常に強いです。
でも僕は凄く本作を楽しめました。
「パトレイバー」云々を抜きにして、日本映画特有のガッカリさが無かったのも大きいです。
予算や制約の多い中で、よくここまでの作品が撮れたと思います。
細部に関して、もう一度良く堪能したくてまた劇場に通うつもりでしたが…。
ネットでは既に噂になってましたが、昨日正式に「未開の27分のシーンを追加したディレクターズ・カット版」の公開が発表されました。
まだ本作が公開中なのに…。
てっきり僕はソフト化された時、その「ディレクターズ・カット版」も一緒にソフトに収録されるかと思ってました。
おまけに27分もの未公開シーンって?
何ソレ!?
10分追加するだけで、作品の印象がガラッと変わってしまうのに。
約30分もの追加となると、僕が観た『パトレイバー 首都決戦』とは全く異なる作品になる可能性も高い訳です。



まだ本作が公開中に、ディレクターズ・カット版の10月10日公開発表はマズいと思う。
これから行こうと思っている人も多い訳だが、10月にディレクターズ・カット版の公開があると判ると興行にも影響があるだろう。
ましてや僕みたいに数回観よう、また既に数回本作を観た人にとっても厳しい。
押井監督は悪びれもせず「プロデューサーと揉めた」と言うが、先に言った様に本作が実にテンポ良く小気味好い作品に仕上がっていたのは…と疑いたくなる。
押井監督の本来作りたかった『パトレイバー 首都決戦』とは何なのか?!
パンフレットを見れば本編に登場していないシーンもあるし、アクション・シーンに関しても尺の都合で泣く泣くカットしたとある。
間違いなく熱海への慰安旅行、そこでのチンピラとの大ゲンカ。
二課と整備班の日常描写と食事シーン。
高畑警部と後藤田隊長の会話シーン。
決起隊アジトへの突撃シーンでのアクション・シーン。
またバッサリと省かれている印象を受けた、小野寺率いる決起隊。
そして灰原のシーン等の追加は期待出来るし楽しみでもある(苦笑)。



しかし、まだ本作上映中にこの様な事態は観る側を完全になめていると思う。
こんな事をしていては、結果的に劇場に人は来ない。
最終的にはソフトを売りたいのかもしれないが、高い代金を払って90分の予告編を観た事になってしまう。
結局「ディレクターズ・カット版」も10月に観に行くのかと思う(自嘲)
これは先の「劇場公開版」である、『パトレイバー 首都決戦』を楽しんだ者としては残念としか言えない。
こんな興行スタイルは健全ではない、いずれ大きなしっぺ返しを喰らうと思う。
御大ジョン・カーペンターの言葉が重く響く。
「劇場公開版こそ、ディレクターズ・カット版である。」
非常に複雑な気持ちになった、作品が面白かっただけにまだ整理が出来ない自分がいる…。

「本当にヒドい人だ…。」