ダンナのぼやき

あられダンナの日々のぼやきです。
色んな事を思い、考えぼやいてます…。

THE WOLFMAN

2010-05-04 21:36:21 | 映画
ホラー大作『ウルフマン』を観てきました。

主演と製作はベニチオ・デル・トロ、監督にはジョー・ジョンストン。
おまけに他の出演者にアンソニー“レクター”ポプキンス卿、ヒューゴ“メガ様”ウィーヴィング。
そして肝心な特殊メイクには、今や生きる伝説と化した“巨匠”リック・ベイカーを迎えると言う、ジャンル系映画としては非常に豪華にして贅沢なキャストとスタッフが集結している。



この『ウルフマン』の企画自体、もう何年も前から挙がっており、早々にメジャーの大手ユニバーサル社による『狼男(’41)』のリメイクとして、現代的な解釈を加えた超大作として生まれ変わる事が発表になっていた。

その野性的でセクシーなイメージとは違い、実はかなりのヲタク(コミックやフィギュアの熱心なコレクター:微笑)で、大のホラー映画好き、中でも狼男をこよなく愛しているデル・トロ。
彼のこの企画に賭ける熱意は相当なものだったらしく、脚本にアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーの起用はすんなり決定し、アンドリュー入魂(彼自身もホラー映画マニア)の脚本もすぐに完成した。
だが、予想外に手間取ったのが「監督選び」。
有名・無名を問わずに様々な監督の起用が噂されるも、何故が一向に決定しない。
やっとジョー・ジョンストンの名前が聞かれて、やっと彼の監督起用で決着となった。



しかし、やっと製作を本格的にスタート出来ても、今度は売れっ子である主演のデル・トロのスケジュールが合わない…(笑)。
様々な紆余曲折を経て撮影に突入、撮影やポスプロ等は珍しく問題無く進行したのに、とっくに作品は完成されても今度は作品の公開日が延期を繰り返す始末…。
もう、こうなってくると“狼男の呪い”としか言えない(苦笑)。

噂によると、一時は「オクラ入りか?」と騒がれた本作。
作品の方向性について映画会社側とデル・トロと監督側で意見の衝突があった模様だ。
「PG-13」くらいの規制で見積もっていた会社側は、完成した作品に溢れている強烈でエグい残酷・グロ描写の連続に「NO!」と言った様だ。
結果、幾つかの残酷・グロ描写を削除、劇場公開用に17分(!)もカットして公開となった…らしい。

個人的にはベニチオは大好きな俳優であり、オマケに古典的なホラー・モンスターの中で「狼男」をこよなく愛する僕としても、よく無事に公開されただけでなく、早い時期での日本公開となったのが本当に喜ばしい。

思い入れと期待でパンパンに膨れ上がった状態で、本作を観た訳だが…。



まず、最初に断言します。
凄く面白かったです!
本当に良く出来ていたと思います!
ただ、ホラー映画ファン、そして狼男ホラー・ファンとしては、あと少し“何か”をすれば、コレは間違いなく新世紀のホラー映画の傑作に成り得た可能性が高いて思えて仕方ないです。
それ故に、何と言うか言葉には出来ない歯痒さみたいなものを感じます。

このホラー映画と言うよりも、久々に「怪奇映画」と呼びたくなる重厚な雰囲気。
かつてのハマー・ホラーとも一味違う、ユニバーサル・ホラーらしいクラシックな空気感が実に心地良い。
しかし、この現代に蘇った重厚で格調高い「怪奇映画」は、随所に光る現代的解釈を上手く咀嚼・吸収・昇華出来ていないのが痛い。








(警告!:以下ネタバレ炸裂!!)







物語は兄の突然の訃報に帰郷した、舞台俳優である主人公ローレンス(デル・トロ)。
自分を歓迎しない疎遠となっていた父ジョン(ポプキンス卿)と再会、自分を呼んだ張本人で兄の婚約者だった美しいグエン(エリミー・ブラント)と出会う。
兄を惨殺した犯人を独自に調査するローレンス、兄の遺留品か流浪民たちに手掛かりを見つける。
しかし、ローレンスは兄を襲った謎の怪物に襲撃され、自身も瀕死の重傷を追ってしまう。
その事が彼の運命を大いに狂わせ、自身の過去に隠された忌まわしい記憶、そして呪われた血による惨劇の中に追い込まれていく…ってな感じ。

とにかく、デル・トロが良い!



落ち着いて穏やかな紳士的な立ち振る舞い、優しく思慮深いながらも行動派。
しかし、幼少の頃に遭った“ある事件”がトラウマとなり心の中に底知れぬ悲しみと闇を隠した、それ故の意外なまでの人間的な弱さと脆さ。
あの夜の襲撃により、己が人間以外の「何か」に変わってしまう事への恐怖を、デル・トロは実に見事なまでに繊細に演じている。

あと本作のヒロイン・グエンを演じる、エリミー・ブラントのクラシックで清楚な美貌も際立っている。



出会った男たちを知らぬ間に破滅に追いやってしまう、無自覚で天然の「毒婦」ぶりはある意味怖い。
自らの善意と好意で行動する自然な彼女、その存在こそが本作で一番の“怪物”なのかも?!(笑)。




満月の夜、遂に狼男へと変身してしまうローレンス。
この狼男への変身は匠リック・ベイカーによる「神業」的な特殊メイクと、最新のデジタル技術の融合による凄まじいモノ。



本作における狼男のデザイン自体は、41年版でロン・チェイニー・Jrが演じた狼男を基本としながら、それを主演のデル・トロの面構えを生かしたベイカーの超絶テクニック、筋肉ムキムキで脚が逆関節になる等の現代的要素を加えられている。
目玉となる変身シーンも、身体中がガキゴキと嫌な音を立てて変な方向に歪んでいき、観る方もそれが実に痛そうだと思えてしまう(苦笑)。



狼男に変身してからのアクションも秀逸。
もう片っ端から人間に襲いかかり、首・腕・脚をもぎ取り、血と内臓が景気よく飛び散りまくる残酷・グロ描写は壮絶。



メジャーな大作において、ここまで正々堂々と残酷・グロ描写をやってのけるのは珍しい。
だが、中途半端にやるのは一番始末が悪い。
狼男になった途端に人としての理性や倫理観を失い、己の衝動が導くまま残虐な殺戮を繰り広げていくのは、そこに隠されている人間の隠された暗くて邪悪な本性を暴く事のメタファーでもあり興味深い。


中盤以降、捕らえられたローレンスは精神病院に隔離される。
ただ、この辺りから作品の持つテンションが微妙になりだす。



当時の治療という人権を無視した拷問により、ローレンスは自らが閉ざした記憶の封印が解け、この事件の背後にいる人物の存在に気付く。
この辺りが細かいカットを絶妙に繋ぎ、過去と幻覚や妄想が入り乱れて、それまでの重厚なゴシック調の「恐怖映画」という雰囲気から、さっきまでの狼男への変身や大殺戮もローレンス自身の“狼憑き”と言う精神的な病が招いた犯罪なのかと思わせるサイコ・スリラー的演出が頂けない(爆)。
コレではせっかく中盤まで見事に構築していた近年では珍しいホラー映画ではなく、ダークでゴシックな「恐怖映画」という世界観を崩壊させてしまっている。
現代的な解釈かもしれないが、それが作品の素晴らしさを潰す方に効いては意味が無い。

おまけにその後、ローレンス自身にとって因縁深い存在であるポプキンス卿扮する父ジョンの存在こそが、全ての災いの根源であって明らかに狂っていた事(実は兄貴の嫁グエンに欲情していた:笑)が判明してからは再び「恐怖映画」シフトに戻っていくが…。
先のサイコ・スリラー的な要素が、全ての謎を解いて終盤に向けて更に盛り上がると言う風にはなってはいない。
コレは致命的だ。


何はともあれ、ロンドンで大殺戮を繰り広げたローレンスは、全ての災いに決着をつける為にジョンとの対決を決意する。
この終盤からの展開は「恐怖映画」というよりも、まんま『サンダ対ガイラ』的な怪獣映画的なアクション要素が強くなるのが笑えます。



狼男に変身する事、それにより自身に宿る絶大なパワーや殺戮を快楽としていたジョン。
その忌むべき父の後継者として指名されたローレンスはそれを拒絶し、互いに殺し合う悲しい宿命を迎えます。



このラストにおける新旧の狼男同士の対決、ロンドンにおけるローレンスの大暴れは、コミック的で疾走感に溢れた演出はジョンストン監督らしい。
互いの本能のまま怪力で殴り噛みつき合い、四つん這いのまま駆け抜ける魔獣同士の凄惨な戦いは一見の価値はある。
昔、ジャック・ニコルソンの『ウルフ』を観た時、ラストの対決があまりにしょぼかった事に落胆した事を思うと、こういう狼男のホラー映画が観たかった!と快活に叫びたくなります。

ただ…その後のオチの付け方が今一つだったかと思う。

ポプキンス卿はローレンスに首をもぎ取られて絶命、アレ?…狼男って四肢をバラバラにされても死なない筈では?!
そのローレンスもグエンに銀の銃弾を撃ち込まれ、あっさりと絶命…って何?!
狼男の呪いは自分に噛みついた本人を殺すと、その呪いから解放されるのでは?
グエンはわざわざ流浪民の老女に、「命を賭けて」その方法を聞いたのではなかったのか?
この辺りの伏線をもっと生かせていれば、ラストの対決もこの三角関係を絡めて更に劇的に盛り上がったかと思う。
あと、ジョンの召使いであったシン(ジョンの正体が狼男である事を知っていた)というキャラも良い味を出していたのに、その味が物語に全く生かされていないのも非常に勿体ないと思う。



意味あり気に「切り裂きジャックの事件を捜査している」と、颯爽と登場してイヤミな存在感を発揮していたウィーヴィング扮するアバライン警部が、ひょっとして狼男の呪いを受けたかも?と含みを持たせる結末ってのは、せっかく後半は怒涛の勢いで盛り上がったのに淡白過ぎると思えてしまう。

しかし、この劇場公開版は17分もカットしたヴァージョンである事。
何せ17分もあれば、随分と作品に対するイメージも変わる筈だ。
『ウルフマン』という作品の、本当の姿を完全版DVDで観るまでは少し待つ必要があるようだ。

最初にも言ったが、久々の本格的な『怪奇映画』の超大作として楽しめたし、それでも充分に面白かったのも事実です。
クラシックな怪奇映画が好きな方、是非劇場で観てみてください。


今夜は月が満ちるぞ、覚悟しろよ。