SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

リスト没後120年特集 (その28 孤独の中の神の祝福編1)

2006年12月30日 00時23分27秒 | ピアノ関連
★Liszt:Piano Works 
                  (演奏:スティーヴン・ハフ 2枚組)
<1枚目>
1.メフィスト・ワルツ第1番
2.タランテラ (巡礼の年 第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」 第3曲)
3.スペイン狂詩曲
4.死者の追憶 (詩的で宗教的な調べ 第4曲)
5.小鳥に説教するアシジの聖フランシス
6.孤独の中の神の祝福 (詩的で宗教的な調べ 第3曲)

<2枚目>
1.アヴェ・マリア (巡礼の年 第3年 第1曲)
2.エステ荘の糸杉に 第1番 (巡礼の年 第3年 第2曲)
3.エステ荘の糸杉に 第2番 (巡礼の年 第3年 第3曲)
4.エステ荘の噴水 (巡礼の年 第3年 第4曲)
5.瞑想
6.悲しみのゴンドラ 第1番
7.悲しみのゴンドラ 第2番
8.ダンテを読んで (巡礼の年 第2年「イタリア」 第7曲)
9.アヴェ・マリア (ローマの鐘)
                  (1988年、1990年、1991年録音)

さて、この特集も次回が最終回! ご紹介する最後の曲目となりました。
私の所有するリストの大半のディスクはご紹介させていただいたことと、今年が終わっちゃうので没後120周年の大義名分がなくなってしまう(!)ためです。

「ホッとしてるだろう~」と言われれば、正直に「はい!(^^)/」と申し上げます。
その後に「あったりめぇだろ~がぁ!」とも付け加えたい気も、いたします。

最後に残しておいたのは“孤独の中の神の祝福”です。
これは“詩的で宗教的な調べ”という曲集の中の第3曲にあたります。
演奏には概ね17~8分かかる曲ですが、初めて聴いたときから私を捕らえて放さない曲です。
どうしようもなく心が弱ってしまっているときにピアノ曲を聴こうと思ったとすると、自ずと手が伸びてしまうのがこの曲なのです。

曲冒頭から言いようのない優しい旋律が、星の瞬きにも似た高音に装飾されて現れます。それがわずかずつ変容を重ね、大きく呼吸しながら昂まって盛り上がる・・・。やや高らかではあっても決して声高にならず、とにかく深い慈しみの心に満ち満ちて思わず涙がにじんできそうなほど感動的!
中間部は、過去を回想するような鐘を思わせる音型から始まり悟ったまなざしで、上手くいかなかったことどもに煩わされていた自分を振り返っているかのよう。

最後に冒頭の旋律が帰ってきてさらに大きく高まりを迎えた後、塩じ~が政界引退のときに人生のロスタイムと言ったことを髣髴させるコーダが続き、静かに消え入るように終わっていきます。
全曲通してまさにタイトルどおり“孤独の中の神の祝福”を感じることが出来る曲。。。

私は神様も仏様も自分の心の中にいて、宗教の儀式やらお祈りやらは同じルールをコミュニティーが共有し安心して暮らしていく目的で出来た、要するに同じ文化圏に所属する人は同じ神様を世代を超えて営々と子孫の心の中に作ってきたのではないかと思ったりしています。

今風に言うと“コーチング”のコーチかな。
自分の心の中の神様に気づかせてくれて、その教えに従って善行(普通の日常の行いでしょうが・・・)を積むことができるための仕組みこそ「本来の」宗教なんじゃないかと思いますが・・・。

逆に言えば、宗教や教育を通じて学んだ道徳的観念をよりどころに、世代を超えて共有する「みんなで一緒に時を過ごす」ためのルールに則って生きることで形成された良心の結晶みたいなのが“神様”で、それを抑えて「私だけが」と人を出し抜こうとする極めて人間的な心の象徴が“悪魔”なのではないかと思っています。

(神様が人の心にもともと棲んでるのか、遺伝子の中に刷り込まれてるのか、小さいころの躾で仕込まれたのかは私にはホントはわかりません・・・。)

ただ言えることは、この曲は“心の中の神様”にすごく働きかけてくれるということです。
ただひたすら誠実に時を過ごした人であれば何を残すことなくとも、何か心を痛めるようなことがあったんだとしても、「少なくとも自分自身は自分を許してくれるだろうし、そして愛してくれもする」、そんな風に思えるのではないでしょうか。そんな気持ちのことを充足感というのではないかと・・・。
それこそまさに神の祝福を受けた状態ではありませんか?

詩的で“宗教的”な調べとは、本当にこの曲に相応しい名前であると思います。

ところで私の好きな歌に
  月かげの 至らぬ里はなけれども 眺むる人の 心にぞ棲む
というものがありますが、この歌などはそんな心境を歌ったものではないでしょうか。
洋の東西を問わず畏敬の念を抱く対象のありかたは似ているのかもしれません。

“神の祝福”は自分が自分を認め、許し、愛している状態のときに感じられるもの・・・。
決して自分の外からの何らかの刺激には、自分を心底充足させる力はないと思います。

そしてこの曲は、空っぽの心にエネルギーを充填してくれる“心の応援歌やぁ~!”と彦麻呂さん風に言ってしまうと、雰囲気ぶち壊しやぁ~~!

 ♪Leave a Tender Moment Alone~ って感じですな。

現在のハフは極めてスタイリッシュなピアニストです。なかなか尻尾を出しませんが、どうしても出自はもう少し荒くれ系ではないかと思えます。貴族風なミエの切り方が、まるこちゃんに出てくる花輪君のように思えてしまうときがあるのです。
ただ本人には「弾けないフレーズも弾き表せない高貴な感情もない」といったどこから来たかは知らないがゆるぎない自信があって、うそぶいているんだろうと疑いつつも証拠がない・・・。

この特集にもこれまでに“ロ短調ソナタ”と“巡礼の年第1年”ほかで採り上げて、いささか鼻につくケッペキぶりを賞賛の言葉とともに投げかけましたが、正直言って私にはこのディスクの一枚目こそが現在最高のリスト弾きのひとりであるハフの真骨頂であると確信しました。

ミモフタもない言い方になりますが、どんなときも深いタッチで音をしっかり出しながらテクニック的に非常によく弾けているし、曲の表情が自然なのです。
“感じておくれよ、ベイベェ~・・・”的なところが少ないし、いい意味で精一杯弾いている。言葉を変えればテクニック的には余裕はあっても、表現されている内容の深さを追う姿勢には「限界ギリギリやってます」的なゆとりの少なさを感じます。
それがまたさらなる曲の深みを聴き手に想像させて、いっそう感銘深く聞かせてくれているのかもしれません。

ただし“孤独の中の神の祝福”は私にはやりすぎと思えます。
特に再現部の盛り上がりはもっと肩の力を抜いて淡々と弾いてくれればよかったのに!
静謐に弾かれるところが麗しく感動的な部分だけにちょっと残念。

とはいえ巡礼の年第3年の冒頭4曲とダンテを読んでを中心にした2枚目も含め、本当に充実したリスト小曲集で聴き応えがあります。
値段も安いし・・・。

★BACHの主題による幻想曲とフーガ ~リスト・リサイタル2
                  (演奏:アルフレッド・ブレンデル)

1.J.S.バッハのカンタータ「泣き、悲しみ、悩み、おののき」のコンティヌオによる変奏曲
2.死者の追憶 (「詩的で宗教的な調べ」 第4曲)
3.BACHの主題による幻想曲とフーガ
4.孤独の中の神の祝福 (「詩的で宗教的な調べ」 第3曲)
                  (1976年録音)

先述した“心を捕らえて放さない”初めて聴いたこの曲はブレンデルによるここでの演奏です。
録音時期によるのでしょうが、アナログ録音の技術の完成時期にあたるこの録音はもちろんブレンデルの潤いある美音を余すところなく捉えています。どんなに毅然と打鍵した部分も音が荒れずに聴かれるということは、ピアニストの技量と録音の技術の双方が最高度に機能しているからに他なりません。

他の3曲ではその要請に応じて英雄的な高らかさ、抑制されていてもけたたましさを表現する強音を駆使していますが、ブレンデルは“孤独の中の神の祝福”においては決して声を荒げることなく、美しい音で心と対話し思索していきます。
アナログ録音のせいか明晰な録音であるにもかかわらず、詩的な雰囲気が感じられます。
いい時期に録音されたものだと思います。

さてディスクに収められている4曲ともチョー渋~い通好みの選曲なのですが、1曲目華麗、2曲目頑迷、3曲目迫力、4曲目自浄といったテーマではないでしょうか?LP時代A面B面と分かれていたので、コントラストはより鮮やかだったと思います。本当に素晴らしいプログラム。
白眉は“すべて”なのですが・・・敢えて言えば“BACHの主題による幻想曲とフーガ”でしょうか。
この曲でのブレンデルのテクニックは、数多くのヴィルトゥオーゾの技を聴いてきた私にも信じられないほど傑出しています。
主旋律と背景の音との描き分け、特にBACHというテーマとなる音がはっきり明示されているわけですからこれができていないと話にならないけれど、ブレンデルに至ってはそれぞれの表情付けまで曇りなく成し遂げてしまう。。。
壮麗かつ大迫力のスペクタクルという感じで曲は華々しく終わるのですが、明らかにプログラム上はピークをここに持ってきているに違いありません。

その大迫力の後“孤独の中の神の祝福”、このテーマが対照的に潤いを伴った音色でたっぷりしたテンポで出てくる。。。
いろいろ書きたいのですが2つだけ・・・。
中間部の思いの深さがこれに勝るものはないと思われること、そして再現部に入ったときの曲のなんとも幸福感に満たされていること!
背景の音たちなどは天国的に彩られ、演奏に触れたときの気分がもはや優しさに満たされた感がある。
そして盛り上がっても(音量的には相当出ている)が決してうるささを感じさせないクライマックスの後、先述のように消えていく・・・。ディスクもそこでおしまいなので余計にその後の静寂が深く感じられます。

最高のリサイタル盤の一枚ですね!

★エステ荘の噴水/ボレット・リスト・リサイタル
                  (演奏:ホルヘ・ボレット)

1.ヴェネツィアとナポリ S.162 (「巡礼の年 第2年」補遺 全3曲)
2.エステ荘の噴水 (「巡礼の年 第3年」S.163 第4曲)
3.孤独の中の神の祝福 (「詩的で宗教的な調べ」S.173 第3曲)
4.バラード第2番 ロ短調 S.171
                  (1983年録音)

ここでもベヒシュタインのピアノの音色がどうしても曲のイメージの大きな部分を決しているようです。ただ、ボレットのどこまでもゆとりと慈しみの心を持った奏楽があって初めて、直接心に語りかけてきてくれるような親密感が生まれることは間違いないのですが・・・。

あくまでも深刻にならずに、やりすぎもせずおおらかに曲の求めるところを弾き表しているという演奏。極端にロマンチックというわけでもないし・・・。
気安く母の懐で揺られるという気分を味わうことが出来ます。

ふと思い当たったのですが、ボレットがアメリカのピアニスト(出身はキューバ)だからなんでしょうかねぇ。この懐の広さは。

思えばボレットのディスクも多くを紹介したものです。
キャリアの最後期にリストの集大成を遺してくれたことに、改めて感謝の念を禁じえません。 

大感動!!!