SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

リスト没後120年特集 (その8 ロ短調ソナタ編5)

2006年12月04日 00時03分12秒 | ピアノ関連
★リスト:ダンテを読んで
                  (演奏:ミハイル・プレトニョフ)
1. 「巡礼の年」第2年イタリア~ダンテを読んで
2. 「2つの演奏会用練習曲」S145~小人の踊り
3. 「詩的で宗教的な調べ」S173~葬送
4. ピアノ・ソナタ ロ短調S178
                  (1997年録音)
今日は“本格派”の特集です。
ここで言う“本格派”とは、おおよそ「(当該演奏において)思いのたけを饒舌に主張したり外面的な演奏効果を狙うのではなく、オーソドックスな運びの中で“旨み”を内に閉じ込めたかのように感じられる奥深い演奏」をしている人ぐらいにご理解くださいませネ!
間違っても他の人が奇を衒っているとか、亜流であると言っている訳ではないので、くどいですが誤解のなきように。。。


さて、プレトニョフはプレトニェフと表記されることもありますが、ここではプレトニョフに統一させていただきます。

そのプレトニョフですが、“本格派”とか“正統派”というより“鬼才”などと称されるように、才気あふれるピアニストであるという認識が強いと思います。
なお先に“本格派とは?”と断ったのも、ことこの演奏についてはという縛りをはっきりさせたかったためでもあります。
彼がドイツ・グラモフォンに移籍して、ピアニストとして最初にリリースした“ショパンのロ短調ソナタ”ほかの演奏にはまさにその才気が横溢していて、きわめてユニークかつ巧妙に仕上げられていたので、耳に新鮮さが絶えることなくとても楽しませてもらいました。
しかし、えてしてその演出が逆に耳についてしまうときがあるのも事実です。
そのときは確信犯的に敢えて楽曲の本質を捻じ曲げ、知性を誇示しているような趣の奏楽に聴こえてしまうのです。
実は、こちらのバイオリズムによっているのかもしれませんが。。。
さりながら、その企てを完璧なテクニックで音に変換して届けてくれてしまうその実力には、いつでも恐れ入るしかないのですけれど。

ところが、この“リストのロ短調ソナタ”では彼の持てる知性・技術がすべて才気のほうではなく“王道”を行かせるものに作用していると思わせる仕上がりです。
なんといっても構成がしっかりしている。曲全体を俯瞰しても、どんなに細部を細かく区切っても、すべての音がその意味を与えられているかのように整然と配置されています。
そして、構成の意図をはっきりさせるため惜しみなく繰り出される“技”の数々の切れ味!
何ら、がなりたてることなく風格・品格・華麗さすべてが必要なだけ備え付けられているといった風情。
正に「これを“本格派”と言わずして何という!!」という解釈であり、演奏であります。恐れ入りました!
彼のカーネギーホール・コンサートのディスクでは、ショパンのスケルツォも演奏されていましたが、同じショパンでも曲を工夫して聴かせるというのではなく、自然にパワフルに盛り上げられていて好感が持てました。そのように、知性のベクトルが好ましいほうに向かったときには、もともと技は抜群なヒトですから当代随一といってなんら差し支えない凄いピアニストであると思います。
本人が“世界一のピアニスト”と自称しているぐらいですから、きっと間違いありません。
あんたが大将!!

★リスト:ソナタ、バラードとポロネーズ
                  (演奏:スティーヴン・ハフ)

1.メランコリックなポロネーズ ハ短調 S223-1
2.ポロネーズ 第2番 ホ長調 S223-2
3.バラード 第1番 変ニ長調 S170
4.バラード 第2番 ロ短調 S171
5.子守歌 S174 (初稿)
6.ピアノ・ソナタ ロ短調 S178
                  (1999年録音)

ハイペリオンでの録音を中心に、とても充実したディスクをコンスタントに届けてくれているハフにも、“ロ短調ソナタ”の録音があります。
いつもながらとても美しい音を操って、そのフレージングには時として我を忘れてうっとりさせられてしまいます。まさに現代を代表するピアニストの一人と言えましょう。

テクニックに関して人後に落ちないこのヒトに、リストはまさにうってつけのレパートリーであり、事実ディスクも何種類も出ているようです。私の手許には2枚組みのりストの曲集もありますが、快刀乱麻を断つテクニックの冴えで、聴き手の耳を楽しませてくれるすばらしいディスクになっています。

前置きの曲は“バラード第2番”を除き無名ですが、十全なテクニックで曲が本来内包している詩情を充分に聞かせてくれるので、楽しめないところはありません。
そして“ロ短調ソナタ”ですが、やや無骨な“子守歌”に続き現れます。

演奏は慌てず騒がず、とはいえ時として必要なだけの音はちゃんと轟かせて弾き進められます。しっかりと特徴付けられ弾き分けられたいくつもの旋律が綾なすさまはしつけの行き届いた貴族の趣を感じさせ、クライマックスに向かう壮麗さはこのヒトならではのものがあります。
“本格派”度合いは、品格ある美にとことんこだわった“侯爵”の演奏みたいという感じでしょうか。
それは、品性が自ずと内面からあふれ出たものではなく、絶えず意識して実践した“規律ある振舞いの賜物”なんじゃないかと思わせられることから感じるんですけれど。
徹頭徹尾ヒロイックであることに徹しているこの演奏からは、もしかしてこのピアニストが付き合いにくい人間かもしれないと思わせられるほどでした。
「美しくないものは見たくも、触れたくもないよ」と言われるんじゃないかという気が。。。


★野島稔・プレイズ・リスト
                  (演奏:野島 稔)

1.メフィスト・ワルツ第1番
2.ラ・カンパネラ (鐘)
3.夕べの調べ
4.鬼火
5.ピアノ・ソナタ ロ短調
                  (1986年録音)

我が国の第一人者、野島稔さんの演奏です。この録音から20年経っているんですねぇ。。。
実はクラシックのCDで最初に買ったディスクはこれです。理由は「録音がいい」と評判だったからです。
私が読んでいた雑誌の中に、当時はまだ(地方都市には)余り普及していなかった“輸入盤”扱いだったこのディスクについてコメントがあり、もちろん録音のみならず演奏もそれ以上に米国で評価されていると知ってはおりましたが。。。

当初の感想は前段4曲の小品については、当時の私にもヴィルトゥオジティの凄さ、“夕べの調べ”での詩情の豊かさは理解できていました。しかし“ロ短調ソナタ”については、以前ブレンデルの項で告白したとおり「この冗長な曲はなんだ!」と思うばかりだったのです。
それは単に曲に関するあらゆる知識が足らなかったためだったと思います。そして何人もの何種類もの演奏をおそらく何百回も聴いた今、この曲のあらゆるおもしろさを感じることができるようになってきているのではないかと思えます。そして、これからも聴くほどにその深さを実感していくのでしょう。

野島さんの演奏はそんな今聴き返してみてこそ、全世界的に見て傑出したものと断言できます。
どこをとっても不足がないどころか、本当に充足した奏楽が展開されています。そのおもしろみというか含まれているすべては、噛みしめるほどに沁み出してくるような類のもの。不案内なものがにわかに聴いてわからなかったのは当然かもしれません。
今となっては、全てが包含されたとても含蓄のある演奏であることに、いささかも疑う余地はありません。日本の誇りです。


ところでこの演奏も最近になってリマスターされHDCD盤が出ています。
どのような素晴らしい音質になったか、やはり聴いてみたいものですねぇ。
これはもう、どうしようもないサガですな。。。