SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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突然の進境

2009年03月02日 22時20分37秒 | ピアノ関連
★ハイドン=モーツァルト・ピアノ作品集 [3]
                  (演奏:クレール=マリ・ル・ゲ)
1.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調K.333
2.ハイドン:ピアノ・ソナタ第60番ハ長調Hob.XVI.50
3.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第7番ハ長調K.309
4.ハイドン:ピアノ・ソナタ第31番変イ長調Hob.XVI.46
                  (2008年録音)

先日オンラインショップに発注しておいた何枚かの一枚だが、これだけ入荷遅れで1枚だけポツンと届いた。
何気にターンテーブルに載せたこの1枚・・・
これを何度も繰り返し聴いているだけで、終日飽きることなく楽しめてしまった。

これはジャケ写からも明らかなとおりのフランスの美人女流ピアニスト、クレール=マリ・ル・ゲの手になる“ハイドン=モーツァルト:ピアノ作品集”としてシリーズでリリースされているディスクの3作目。
リリースを重ねたびにますます快調・・・が実感される。

この演奏はとびきりハイセンス!
テンポは比較的じっくり取っていながら、もったり感は皆無。
近接録音と思われピアノ直接音を生々しく取り込んでいるから、強靭な打鍵によるはじけるような音が上品に録られているように聴こえる。
そんなこんなでハイドン・モーツァルトともに分け隔てなく、古典音楽特有の闊達な感じにも事欠かず、キレもコクも申し分ない。。。

演奏解釈もオーソドックスでありながら、愉悦感、華やかさ、絶対に弾き飛ばさず細心の注意で音を選んでいながら生き生きしている・・・とこれまたベタ褒めするしかない仕上がりなのである。

それと判るような装飾はなされていないようにも思えるのだが、音の出し入れが艶やかに聴こえるのはきっとタッチの多彩さによるものに違いない。
華やぎもあり、愉悦的でもあり、淡い影すら感じさせるその演奏ぶりは聞けば聞くほど引き込まれていってしまう。
前2作と比して、格段の進境を示しているのでびっくりしてしまった。。。

コンセプトアルバムであるだけにプログラムは凝っている。
副題は「ミラー・ゲーム」というらしい・・・。

ハイドンとモーツァルト。
私にとってはお茶目なところがあるぐらいしか共通点は感じにくかったものだが、曲調の似た2人の作品を交互に配し、演奏することでハイドンの作品がモーツァルトのように、モーツァルトのそれがハイドンのように聴こえるような気にもなる・・・。

ハイドンは当初モーツァルトの師でありながら、後年モーツァルトの影響を受けるようになったわけだが、ル・ゲの手にかかるといずれも統一的にチャーミングに仕上げられてしまうから不思議なものだ。

頑なな心に率直にじんわりと沁みてくるのは、きっとこんな音楽なのだろう。
癒され、幸せになれる1枚だった。(^^;)

  
★ハイドン=モーツァルト・ピアノ作品集 [1]
                  (演奏:クレール=マリ・ル・ゲ)

1.ハイドン:ピアノ・ソナタ第11番変ロ長調 Hob.XⅥ:2
2.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調 K.282
3.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番変ロ長調 K.570
4.ハイドン:ピアノ・ソナタ第59番変ホ長調 Hob.XⅥ:49
                  (2004年録音)

本シリーズ1枚目はモーツァルト・イヤー(生誕250周年)だった2006年に世に出ている。
ル・ゲは、それまでは美貌のテクニシャンとの喧伝しか聞かれなかったので敢えて手を出さずにいたものの、書評のあまりの絶賛ぶりと仏アコール・レーベルのアーティストだということで購入していたものである。

一聴したときには、あまりに端正だったのでそのよさが実感できなかったが、繰り返し聴き込むとじんわりその清澄なよさが感じられるような気がした。
しかし、今第3集まで聴き進んでみるとこれはこれでよいとは思うものの、第3集の突き抜けたニュアンスの豊かさなどは、このシリーズ中に獲得されたものであることは明らかであり、今、もう一度このディスクを制作したならば・・・という気がしないでもない。

そのときそのときで全力投球しているのだろうから、「このときゃこれで精一杯」と言われればそれまでだが、第3集には演奏・録音あらゆる面で格段の進境が感じられるので、そう言うことも許して欲しい。

さて、この作品も「ミラー・ゲーム」プログラムであり、2人の作曲家の変ロ長調・変ホ長調の作品が交互に配されている。
アイデア賞ものの企画・・・それだけで非常に興味深い。


★ハイドン=モーツァルト・ピアノ作品集 [2]
                  (演奏:クレール=マリ・ル・ゲ)

1.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第14番ハ短調 K.457(1785)
2.ハイドン:ピアノ・ソナタ第33番ハ短調 XVI:20(1771)
3.モーツァルト:幻想曲ハ短調 K.475(1785)
4.ハイドン:ピアノ・ソナタ第58番ハ長調 XVI:48(1789)
                  (2006年録音)

そしてこれが第2作・・・
副題は「ハ短調、或いはドラマの色調」である。。。
やはり魅力的なコンセプト・・・といわざるをえまい。

ここでの演奏流儀も古典派の則を越えないが、ドラマティックな憂いを含んだ艶のある演奏が展開されている。
この人の演奏はよく機知に富んでいると評されるとおり、ここでもいわゆるロマン派音楽の演奏に多くあるようなドロドロの感情表現になっていないところが清々しい。

この2人の作曲したハ短調の楽曲は、同じく主要曲(「運命」交響曲、ピアノ・ソナタ「悲愴」、最後の作品111のピアノソナタなど)にハ短調をチョイスしているベートーヴェンとは一線を画した粋なハ短調・・・
このディスクもいっとき愛聴したものだ。

ただ・・・
ジャケットがやや爬虫類チックに写っているのが残念・・・ムードはよく出ているんだけどねぇ~。
チョイとこれはいただけないかも。。。

そういえば、このシリーズはジャケットだけでなく、CDケースも丁寧に作られた仕様のものが使われており、そんなところにも大切にはぐくまれた企画なんだということがわかる。


そしてこの3枚のアルバムは先にも記したとおり、マルク・ヴィニャルという古典音楽研究家とのコラボレーションアルバムであるとのこと。
私より10歳年下のル・ゲであるが、こういう参謀がいることも高いパフォーマンスを示すことができるヒケツなんだろうな。。。

そういえば我が国でもピアニストの仲道郁代さんが、埼玉県芸術文化振興財団・芸術総監督である諸井誠氏と組んでリリースしたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲集が極めて高い評価を受けていた。
やはり企画・計画の立案が大事なんだ。


ところでル・ゲのこのシリーズ第1作の録音は2004年であり、最新作が昨年録音。。。
その間、他のアルバムはリリースされていないということは、足掛け5年で制作枚数3枚ということである。
慎重に作り込んでいる一大プロジェクトなのだとわかる。
音楽家の良心の所産・・・言い過ぎではあるまい。