SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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寸詰まりの雄弁

2009年01月26日 21時30分01秒 | ピアノ関連
★ショパン:バラードと3つのノクターン
                  (演奏:ネルソン・ゲルネル)
1.バラード  ト短調  作品23
2.ノクターン 嬰へ短調 作品48-2
3.バラード  ヘ長調  作品38
4.ノクターン 嬰ハ短調 作品27-1
5.バラード  変イ長調 作品47
6.ノクターン 変二長調 作品27-2
7.バラード  ヘ短調  作品52
                  (2005年録音)

NIFCというレーベルが立ち上がったらしい。
HMVの解説によると、なんでもNIFC自体が“国際ショパン協会”の意味で、ポーランドはワルシャワの国営ショパン研究所が製作しているんだそう。。。
さらに、ショパン愛用の当時の楽器を使って、ショパンの“全作品”(!)を来年完成を目処に刊行するというのだから瞠目に値する。

しかるに、この作品も1848年製のプレイエルを使用して、非常に芳醇な残響を最大限に生かした総合力の勝利とでも言うべき、雰囲気豊かなディスクに仕上がっている。
ま、ディスクの内容の話はとりあえず後に譲って・・・。


NIFC・・・
極めて魅惑的であり、思わず全部買い漁っちゃいたい・・・という衝動に駆られるのだが、折からの不況もあり漠とした不安が世の中を覆っているために私とてかつてのように財布の紐を無くしてもいられない。。。

財布そのものを失くすよりははるかにキズは浅いが・・・出費はやはり痛い。
吟味をしたいという気持ちも抑えられないという板ばさみに陥っているのが悲しい。


私がいろいろこだわるのにはもちろん理由がある。

20年近くも前にポニーキャニオンが企画したポーランドのピアニストによるショパン全集・・・ポグミウ・パワーシュという当時のワルシャワ・ショパン協会本部会長がお洒落な讃辞を冒頭に贈っていた・・・は、今でも私が第一に指折る演奏であるスメンジャンカ女史の“舟歌”、ポブウォッカのノクターン全集を含むなどきわめて秀逸なディスクがあったと言って良い。

10年余を隔てて、こんどはポーランドのべアルトン(BeArTon)レーベルの一連のショパン・ナショナル・エディションによる全集シリーズが、同じくポーランド所縁のピアニストによって出されている。
ポブウォッカはここでもノクターン全集ほかを担当し、例のヴァリアンツを含んだヴァージョンでの演奏も披露している。。。

ポブウォッカについては、こちらの耳が慣れているせいか、重複があってもますます深化が進んだ、否、魅力の見つけどころが違った解釈を披露してくれている絶品の演奏だと認められたのだが・・・

私には、いや、どうしても日本人向けにはハズレ(いいところが摑みにくい演奏)も多いように見受けられてならないのである。。。
なんでこんな“ウィ・アー・ザ・ワールド”のような継ぎはぎにするのか?
まぁディスクの中で、ピアニストがくんずほぐれつ入り乱れたりしていない分だけまだマシなのか?

(そういえばポーランド以外のピアニストもと、ブーニンの24の前奏曲だったかが出て以来、そのシリーズの新譜を目にしなくなったがどうしたのだろうか?)


とにかくただでさえ夥しいショパンのディスクが出まわっている中にあって、このシリーズ・・・結局何巻になるかわからないのだが・・・を、いくらショパンの聖地の肝いりだからといっても、根こそぎ買い求めるような価値が果たしてあるのだろうか。。。

他人の評はアテにできないことはこれまでの経験で知っているが、かといって、聴いてみなければわからないという態度で開き直るにも先立つものが必要だ。
いやいや・・・
そもそも趣味だ余暇だに、金銭感覚が真正面に入ってしまっては楽しめるものも楽しめまい。
ヤバイ傾向である。


ちなみに、現在このシリーズからはこのゲルネルのバラードとダン・タイ・ソン&ブリュッヘンのコンチェルトの2種を買い求めた。

魂のピアニストとでもいうべきフー・ツォン(私が最初に手に入れたノクターン全集がフー・ツォンのもので、浮き沈みの激しい演奏に魂を揺さぶられた)、新星らしいコリン・リー嬢ほかの演奏にも心魅かれるが、そして現在所有する2枚の素晴らしいできばえから察するに、聴いて損はないと信じるに足るのだが・・・かの地では有名なのかもしれないが、よく知らないピアニストの名によるディスクもいくつかある。

その中にあって、なぜこの2名のものを買い求めたかといえば、彼らの現代ピアノによる演奏を聴いて今般の古楽器との比較を楽しみたかったからである。
ゲルネルはバラ4、ダン・タイ・ソンはマクシミウク/シンフォニア・ヴァルソヴィアとのコンチェルト・・・いずれも絶品だった。
そういってしまうとフー・ツォンのマズルカもまずまずだったと思っているので、入手しないのは不公平なのだが。。。

ウダウダ書いたが、とにかく迷っているのである。
・・・といいながら、今月末に出るらしいケヴィン・ケナーの即興曲を中心としたリサイタル盤はきっと手に入れるのだろうけれど。。。


さて、いよいよ当該ディスクの感想なのだが、とにかく雰囲気のよさに感動しまくった。
プレイエルの音は、当然現代ピアノのようにスコーンと抜ける音ではないのだが、このどこか抜け切らない寸詰まりの音(特に中高音部)が速い走句などで目の摘んだ運指で連なって“響”となるとき、中低域の雲のようなベースのあわいに不安定であるにもかかわらずなんとも有機的な空間がホログラフィックに立ち現われる。

これは奇を衒わないピアニストのお手柄であり、楽器の性能(性能が低い・・・ということかもしれないが)を信用したムラを、不作為によりほどよくコントロールしているという結果を生んでいる。
もちろん、それを余すところなく捉えるコンセプトの録音も目の付け所がシャープである。

楽譜どおりに弾いて雰囲気よく録音したら、ショパンの時代の空気がふんだんに感じられるものに仕上がった・・・
そんなイメージなのである。

もちろんピアニストは弱音にも自然でありながらよく吟味された音をしなやかに与え、響として必要になる要素を注意深く紡ぎ出しているなど、大変に完成度の高いいいディスクだと思う。
真に静かな場所でこころもちボリュームを絞って聴くことで、なおのことサロンの典雅ともいうべき魅力が現われる楽しいディスクであった。
ノクターンの選曲も楽曲や雰囲気にまこと相応しいものばかり・・・
そういえば作品の表記にも何番というのを入れないことにも、何か意味があるのだろう。。。
これまた雰囲気作りに一役買っているようだ。

ゲルネルはかのアルゲリッチにも称賛される才能であり、ポブウォッカの薫陶も受けたらしい。
ポブウォッカがBMGに録音したバラードが、華麗だがかなり力の入った演奏で伸びというかヌケが感じにくかったのとは好対照。
素直にリラックスして弾いているし、聴き手もきばらずリラックスして臨みたい・・・
そんな思いを抱かせるいいディスクだった。


★ショパン:ピアノ作品集
                  (演奏:ネルソン・ゲルネル)

1.ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58
2.幻想ポロネーズ 作品61
3.ノクターン 作品48-1
4.スケルツォ第4番 作品54
5.舟歌 作品60
6.バラード第4番 作品52
                  (1996年録音)

ゲルネルのEMIへのデビュー録音である。
このショパンのバラ4が頭に在ってNIFCのディスクを求めたのだが、確かに数段聞かせ上手になっているのではあるまいか?

このディスクでも破綻のない演奏を聞かせており、素性のよさを示している。


★リスト作品集
                  (演奏:ネルソン・ゲルネル)

1.ピアノ・ソナタロ短調
2.バラード第2番 ロ短調
3.調整のないバガテル
4.イゾルデ愛の死(ワーグナーのトランスクリプション)
5.メフィスト・ワルツ第1番
                  (2007年録音)

これが現在のところゲルネルの最新作だと思われる。
私が持っているのはこの3枚だが、どうも知らないところでディスクをいっぱい出しているようではある。

レーベルは“CASCAVELLE”。
チッコリーニのショパン夜想曲、ピリスのシューベルト変ロ長調ソナタなどなど・・・
またとない企画を打ち出してくれている期待度抜群のレーベル。。。
マイナーのこういった活躍はなんとも応援したくなる(・・・けどやはり不景気だ)。

ここでもゲルネルはそのどこまでも素直な、ただし強靭な技巧で美しくしなやかにリストの世界を現出して見せてくれる。
決して五月蠅くないフォルテ、そして弱音部での神経質にならずに聞けるのに細かいところまで行き届いた奏楽には、目立たないかもしれないが、不作為のファインプレーが随所にあるのだと思う。
名手である。

ただし・・・
そのように解釈しているのだと思うが、ロ短調ソナタの中間部でどうしても指が突っかかっているように思える部分が1箇所だけある。
それが気になるのは如何ともしがたい。
惜しい!