SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

リスト没後120年特集 (その21 ピアノ協奏曲編2)

2006年12月21日 00時56分05秒 | オーケストラ関連
★リスト:ピアノ協奏曲集
             (演奏:ゾルタン・コチシュ
                 イヴァン・フィッシャー指揮/ブダペスト祝祭管弦楽団)
1.リスト:ピアノ協奏曲第1番変ホ長調
2.リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調
3.ドホナーニ:童謡による変奏曲 作品25
                  (1988年録音)

ここでご紹介する3枚ですが、当初はトップはツィメルマンの予定でした。
何回も申し上げますが、別に順番として優劣をつけるつもりはさらさらありません。
とはいえ、やはり鑑に置くからにはそれなりの思い入れがあるものであると考えていただいて間違いないのもまた事実であります。

コチシュは私がクラシックに興味を持って後、その最初期に惹かれたピアニストの一人です。
以前触れたようにミケランジェリのドビュッシー“映像”の盤でクラシック音楽の底なし沼に足を突っ込んでしまったのですが、次にしたことはありとあらゆるドビュッシーのディスク漁りでした。コチシュの“月の光”はロマンチックに朗々と歌い今でも大のお気に入りです。たまに耳にすると、クラシック音楽を聴き始めたころの“気分”を明確に思い出すことが出来ます。

さて、そんなコチシュによるリストのコンチェルト。お察しのとおり、ドビュッシーの後コチシュの演奏を漁ったわけでありまして、そのうちの一枚がコレであります。
当時は「上手なんだろうけれど、なんとも素っ気ない演奏」というのが感想でした。「こんな演奏のよさがわかるようになる日が来るのか?」と思ってもいましたが。。。
果たしてその日が来たのです!!!

今回一聴して「えっ!!」と思いました。なんと気骨溢れる演奏ではありませんか!
前に紹介したオムニバス盤のリヒテル/コンドラシンが豪胆な演奏だとすると、それをもう少しこなれた当世風のスタイルにして颯爽と弾き上げた演奏であると聴けたのです。
フィッシャーもコチシュと同じベクトルでの演奏を展開していて、気骨溢れる重心が低くとも鈍重にならないタクトさばきでつけています。

演奏から滲み出てくる音楽的な意味あいがここでの3枚中最も深いものがあると思ったので、急遽トップを張ってもらうことにしました。

コチシュはリヒテルの練習相手として指名されたとか、ブレンデルの引っぱりでフィリップスとの録音契約が成就したとか、かねて超一流どころからの評価が高いのですが、やはり内実を備えた人だったということが再認識できました。ちょっと生真面目ですけどね。

なおこの演奏でのコチシュの音色が、ソリッドで美しいことも付記しておきたいと思います。

いやぁ演奏はもちろんのことですが、なによりも自分の感性に感動したなぁ~!
(典型的B型症状発病)

★リスト:ピアノ協奏曲集
           (演奏:エマニュエル・アックス
                エサ=ペッカ・サロネン指揮/フィルハーモニア管弦楽団)

1.シェーンベルク:ピアノ協奏曲 作品42
2.リスト:ピアノ協奏曲 第2番 イ長調
3.リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
                  (1992年録音)

サロネンって鋭敏な感性の指揮者というイメージがありますが、シェーンベルクでは結構切り込んでいっているのに対して、リストでは完全にアックスの伴奏に回っているような気がします。もちろんそれで正解で、それほどにリストにおけるアックスのピアノに説得力があるというか、包容力・頼りがいを感じます。

この3名のなかでは最も温かいというか、角の丸い音色ですが抑制されたトーンでじっくり語っていく2番などは特にこの人ならではの演奏で、聴いた後の充足感は最も深いように思います。

コチシュとは対照的な解釈で、こういう多様な演奏が楽しめるから聞き比べってやめられないんですよね!
どっちが良いとかいう問題ではなく、気分で選んで聴けばいいこと。なんて贅沢なんでしょう!

★リスト:ピアノ協奏曲1&2番、死の舞踏
             (演奏:クリスティアン・ツィメルマン
                     小沢征爾指揮/ボストン交響楽団)

1.ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
2.ピアノ協奏曲 第2番 イ長調
3.交響詩《死の舞踏》
                  (1987年録音)

この録音のころがツィメルマンの独特の音が完成した時期だと思います。
自分のピアノを自分でトレーラーに積んで自分で運転してコンサートをこなしているという話も聞かれるツィメルマンですが、やっているかどうかは別にして自分で調律も出来て、録音にも明るいというから結構入れ込んだ人なんだろうなと思わせます。

最近なんか、忘れたころに協奏曲録音は出てもソロがまったく出てこない。。。
あんまりケッペキだとデュカスが作品を残せなかったのと同じように、録音なんかおっかなくって世に問えなくなっちゃいますよと言いたいのですが、ホントに出てきませんねぇ。
結構、来日公演はしてると思うのですが。。。

さて、本記事のトップをコチシュに譲ったとはいえ、ここでもツィメルマンのピアニズムは冴え渡っています。本当に弱音の輝かしい音をペダルで混ぜたときの音、バスからバリトン音域の音を“打ち込んだ”時の“ビンッ”とくる感触!!!
例えば“死の舞踏”の冒頭のアクセントの効いた音など、他の誰からこの音が聞けましょうか?
魔法のようなタッチとはこの方の演奏のようなことをいうのだと、つくづくそう思います。

特にこの演奏は曲の特徴を考慮してか、そういった外面的な要素を積極的に追求しているように思われてなりません。華やかな協奏曲の代表みたいなものだから、また音楽的内容がそんなに深いメッセージ性を持っているような性質の楽曲でないから、聴き手の耳にとにかく麗しい音をいっぱい送り込んでやろうというコンセプトで演奏しているのではないかと思うのです。

もちろんその企ては大成功で、彼にとっては身に付けたばかりのスタイリッシュなピアノサウンドを大々的に披露できる、まさにプロパガンダ的な思惑もあったのではないでしょうか。
とにかく一枚通してピアノの音色美にとことん魅惑されるディスクです。

世界の小沢の付けもツィメルマンのそんな思いに同調してか、ここぞでピアノが映えるようにきちんと配慮して、曲の終わりなど盛り上げるところはほんのわずか華やかめに仕上げられています。今日紹介した3枚に共通して言えることですが、識者とソリストの幸せなコラボレーションが実現されている意味でも好ましいディスクではなかろうかと思います。

さてツィメルマンのこのディスクは、先般破損して手放したソナス・ファベールの“コンチェルト・グランドピアノ”スピーカーを購入するときに、販売店で試聴した際にテストディスクとして使ったものです。
なにより、ツィメルマンの多彩なピアノの音色がいかに美しく聴けるかという点をチェックしたかったわけです。あと、弦の音色もですが。。。
その際はおかげさまで、狙い通りの聴き疲れしないスピーカーが手に入りました。今でも転勤の引越しに際して破損して、使用できなくなったことが残念でなりません。

この次先立つものの目途が立って、後継のスピーカーの購入が検討できるようになったらば視聴用のディスクは何を使うか?
もちろん聴きなれたディスクということで、高橋多佳子さんの“ショパンの旅路Ⅴ”を使いますが、実はそれとは別にピアノの“音および録音”で最高と思っているディスクがあり、それも併用して確認したいと思っております。

次回はそのディスクをご紹介させていただこうかと思います。