SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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リスト没後120年特集 (その17 メフィストワルツ第1番編1)

2006年12月17日 00時31分40秒 | ピアノ関連
★リスト:ピアノ・リサイタル
                   (演奏:レイフ・オヴェ・アンスネス)
1.「巡礼の年」第2年「イタリア」より 
  第7曲 ダンテを呼んで:「ソナタ風幻想曲」S.161-7
2.「忘れられたワルツ」第4番 S.215-4
3.「メフィスト・ワルツ」第4番 S.696
4.「ノンネンフェルト島の僧坊:悲歌」(ピアノ用編曲)S.534
5.「バラード」第2番 ロ短調 S.171
6.「メフィスト・ワルツ」第2番 S.515
7.「詩的で宗教的な調べ」より
  第9曲「アンダンテ・ラクリモーソ」S.173-9
8.「メフィスト・ワルツ」第1番“村の居酒屋での踊り”S.514
                   (1999年・2000年録音)
今回はメフィストワルツ第1番を含む小品集の特集です。
トップはアンスネス。他にけばけばしいほど華美な演奏があるなか、技の冴えを見せつつもちょっとくすんだ雰囲気の中に曲を進めて行きます。
それを殺風景と見るか、内面的に踏み込んだ表現が奥深く隠された演奏と見るかは好みによるのだろうと思います。
特に今は、多くの演奏を並べて聴いているからそう聞こえるのかもしれません。

選曲が凝っていて、2・3・4・6・7などは、他ではほとんど見られないのではないでしょうか。
そんなことも含めて、わずかに色調を落として描くことで他にないリスト演奏を実現しているという意味では、独自色を打ち出すことには成功したディスクということも出来ようかと思います。

とくに4は本来は先の“特集その14”で聴かれたように、チェロを交えた曲ですがピアノ独奏に編曲し、ややあせた色調で描き出すことによって回想風なイメージが沸きます。
情緒的というか、より心に響くような気がするのは、選曲からなにから、きっとちゃんと計算されてのことなのでしょう。
よくできたディスクだと思います。

★アシュケナージ・プレイズ・リスト
                   (演奏:ヴラディーミル・アシュケナージ)

1.超絶技巧練習曲集より7曲抜粋 S.139
2.ゴルチャコフ即興曲 S.191
3.メフィスト円舞曲 S.514
                   (1970年録音)
アシュケナージって今やN響の音楽監督として、極めて円満などこにも角が立たない解釈と温かみある音楽性で、円熟期を迎えているといわれています。
別に反対はしません。。。

しかし、この演奏を聴くと若いときは気持ちよくやんちゃだったのではないかと思わされます。
今のおとなしさ、すべてを大所高所から見る視線、指揮をするにしてもピアノ演奏するにしてもバランス感覚を発揮したというと聞こえは良いけれど、簡単に言うとつまんなくもなってしまうような姿勢。。。

しかしこの演奏にも素晴らしくバランス感覚は働いているのですが、別人のように生気に溢れている。聴き手も血沸き肉踊るという感覚にさせられる。かといって、決してエキセントリックな演奏ではないのです。熱演ではありますが。聞かせ上手とはこのことをいうのでしょう。

また、超絶技巧練習曲集の“夕べの調べ”では、たっぷりしたテンポの中にありながら、けっしてもたつくことなく歌い上げられていきます。艶っぽい鐘の音がわずかに強調されるほか、ピアニシモでオクターブの旋律をたどるところなどに、この人ならではの慈しみややさしさみたいなのもしっかり聴かれて本当になごみます。

このディスク、レコード・アカデミー賞も受賞しているそうですが、それもなるほどと思わされる内容であります。よくこのレパートリー、それも抜粋で取れたものですなぁ。CDになって収録時間が長く取れるようになったので、なんでも全部突っ込んでないと気がすまないという風になってしまったのでしょうか?

メフィストワルツも快調、軽快、ご機嫌です。必要とあれば力技も見せ、ペダルを上手く使って響きを湛えたカオスまで作りあげるところには、“総合音楽家”ではなく、かつては“エンターティナー”アシュケナージが確かにいたことを確認できるディスクです。

★リスト:ピアノ作品集
                  (演奏:ブルーノ・リグット)

1.夜
2.ペトラルカのソネット3曲
3.葬送曲
4.メフィスト・ワルツ
5.灰色の雲
6.凶星!(不運)
7.悲しみのゴンドラ第1番
8.リヒャルト・ワーグナーの墓に
9.夢の中に
                   (1991年録音)
サンソン・フランソワの唯一の弟子でしたっけ、この方は?
よく弾けていて何も足りないところはないけれども、これはというウリみたいなものが感じられない点で、どう紹介していいかわからないです。
演奏を聴いている限りではピアノもよく鳴っており、“葬送曲”の出だしのアクセントの置き方や最後の盛り上がりかた、“ペトラルカのソネット104番”のフレージングなどに独自の間というか、聞かせかたの工夫が施されているのもわかるのですが。

繰り返し言いますけれども、この演奏を聴いている限りはまったく充足して聴くことができます。
でも他と比べると、時としてそっけないとか、デモーニッシュな響きが欲しいところが少し薄味だとか、そんな感じがしないでもありません。
逆に言えば、極めて中庸を行ったディスクだとの評価があっても、私はおかしくないと思いますけれども、私がリスト作品を聴きあさる一環として耳にしたというシチュエーションがこの作品にとってはいささかアンラッキーだったといえるかもしれません。

メフィストワルツも同様。
メフィストが誘惑しようという意図を持っていることは、伸縮するフレージングや多彩な音色の使い分け、とりわけ高音の輝きのある粒立ちの音色の多用などで演奏設計の意図通りに実現されていることはよくわかるのですが、それでは全体としてみた場合にどれほど魅力的かというと。。。
極めて中庸なんです。