SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
もしよろしければ、ごゆっくりどうぞ。

独特のクラルテ

2008年01月12日 23時22分34秒 | ピアノ関連
★Plainte calme
                  (演奏:アレクサンダー・ロンクィッヒ)
1.フォーレ:即興曲第3番 変イ長調 作品34
2.メシアン:ピアノのための8つの前奏曲
3.フォーレ:即興曲第1番 変ホ長調 作品25
4.フォーレ:即興曲第4番 変二長調 作品91
5.フォーレ:即興曲第2番 ヘ短調 作品31
6.ラヴェル:夜のガスパール
7.フォーレ:即興曲第5番 嬰へ短調 作品102
                  (2002年録音)

まずは、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。(^^;)


さて、今年初の投稿はECMレーベルの作品となった。
ひととおり聴いて、直ちにこれは投稿せずにはいられないと思いたったディスクであり、以前ほどではないにせよ少なくない盤を耳にしている中にあってそれだけの魅力がすぐに聴き取れた作品だといえる。

アレクサンダー・ロンクィッヒというピアニストは、本日まで全然知らなかった。(^^;)
出逢いのきっかけは、たまたま秋葉原に行く用事があり、普段は行かない販売店に行ったときにこのディスクを偶然見つけただけ・・・である。

それも、期待して買ったのは今一枚のほうであった。
そちらは、聴いた感想も「いまいち・・・まい」であったが。。。(^^;)
そちらもこの後聴きこんだらもしかしたら好きになるかもしれないという余地はある。ただし、ひょっとしたら一層キライになるかもしれないという懸念もあるという、危うい魅力が収まった録音である。
ともあれ、そちらは結果が出たころにまた報告することとして、ロンクィッヒのこのディスクの話に戻ることにする。


それではなぜこのディスクを購入したかというと、まず今年は「夜のガスパール」作曲100周年の記念年であり、タイムリーにそれが収録されていること。

次にレーベルがECMであり、このレーベルの作品に通じる独特の音場の雰囲気が「夜のガスパール」に適しているのではないか・・・また、プロデューサーであるアイヒャーの慧眼にはいつも驚かされているため、ECMブランドの作品、アーティストであれば間違いないという思いが働いたことがある。

最後にプログラムの魅力である。
フォーレの5曲の即興曲が、メシアンの前奏曲集とラヴェルの“夜のガスパール”をサンドイッチしているという凝った構成であるが、いずれもフランスを代表する作曲家であり、1世代ずつずれた作曲家群による近(現)代フランス音楽俯瞰的な意味合いが見て取れる・・・。
考えただけで知的ではないか。。。

店頭で手に取った時点で、「後は演奏さえよければ!」という思いに駆られるディスクはやはり中身もよい!(^^)v



演奏を通して感じた特長は、一言で言えば「明晰」という言葉であらわされるものと思う。

突然だがフランス製のオーディオ製品を説明する際、評論家の船木文宏氏が次のように言っておられるので引用したい。


日本の多くの人がもつ、“フランスらしさ”というものは軽やかで、デコラティブなイメージがあるかもしれないが、本来のフランスらしさは、“クラルテ”つまり明瞭さにある。議論をしてもフランスの人は納得できるまで徹底的に論理的に追求する。


ロンクィッヒはドイツのピアニストだそうだが、このフランスの楽曲の演奏に関しては(ECM独特の録音の音場とも相俟って)この文章における“クラルテ”を感じさせる明瞭さを誇っている。

どの演奏にあってもまずは確固として自分のピアノの音色、音楽設計(解釈)の存在感を自己主張するのである。
設計された音楽の構造はこのうえなくしなやかで、素晴らしく見通しがよい・・・先ほども触れている音場のすーっとした拡がりも併せて秀逸であると思わされた。

作曲家個々の捉え方に触れれば、まずフォーレは演奏の柄が大きい。
少なくともこのような細心でありながら大胆なスケールのフォーレは聴いたことがない。
音色もペダルを控えめにしているようで、直裁である。
最初聴いた時は「ガサツ?」と思ったが、音色・解釈には繊細な目配りが施されており決してそんなことはない。

メシアンも放たれる音の気分は似ているのだが、やはり音響設計が風通しのいいものであるので、緊張感なく音楽の響きの中にうずもれることができた。

そしてラヴェル。
「夜のガスパール」では「繊細さを内包し、何処までも明晰」という図が一転して、「明晰でありながら繊細」の感覚が前面に出た演奏となった。
それでもクレッシェンドして盛りあげるところはタメも効いて壮大に聴こえたし、絞首台における音色、表情付けなどは生々しく聴き込めたし、スカルボにおけるテクニックも十分に水準をクリアしていると思えたし・・・スカルボにはもうちょっと生気がほしいと思わなくもなかったが・・・十分に楽しめた。

お師匠さんの中にはヤシンスキ教授の名があったが・・・。
そうか・・・ツィメルマン。。。
ピアニストとしての性格はぜんぜん違うけれど、どことなく音の見通しのよい作り方に共通するところがあるような気もする。

いずれにせよ、今日は前途あると信じられるピアニストとの邂逅を果たした日となった。
ヴァイオリンのツィンマーマンとモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ全集を作ったりしているようだが、ソロの活動についても注目したい逸材だと思う。

1960年生まれというから、私より4歳年上か。。。
確かに音楽が練れているところからも、私と同年代の人物で当たり前なんだろうな。