SJesterのバックステージ

音楽関連の話題中心の妄言集です。(^^)/
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リスト没後120年特集 (その18 メフィストワルツ第1番編2)

2006年12月18日 00時41分19秒 | ピアノ関連
★メフィスト・ワルツ(リスト名曲集)
                  (演奏:エリック・ハイドシェック)
1.ノルマの回想(ベルリーニ/リスト)
2.葬送曲(指摘で宗教的な調べ 第7曲)
3.小鳥に語るアシジの聖フランシス(伝説 第1曲)
4.海を渡るパオラの聖フランシス(伝説 第2曲)
5.悲しみのゴンドラ 第1番
6.メフィスト・ワルツ 第1番
                  (1994年録音)

貴族の末裔ハイドシェックの演奏です。
この方、判りやすい大巨匠って感じで、好みが分かれるところだと思います。
濃厚っていう感じとはちょっと違うんですが、すべからく濃いんですよね。。。味付けが。
フランス人ってフランス語をぼそぼそ話すってイメージですが、フランス語ではきはき話した演奏みたいに感じられてしまいます。それもベース音を豊かに響かせて。。。

ディスク全体が何らかの訳ありなんだと思いますが、すべての曲がアタッカで演奏されています。曲間がほとんどないのです。明らかに意図していると思うのですが、すべての曲がシームレス。。。になるはずもなく、ノルマと葬送曲のときは「なにか企んでるな!」と思ったのですが全部くっつけられると、「イミないじゃん」とか思ってしまったりもします。

先ほど仄めかしたように、音自体は非常に美しくゴージャスな響きを実現し、あらゆる手練手簡を使うことで表現の幅も極めて広くて、それらを愛でることにつき決してやぶさかではありません。
が、しかし“悲しみのゴンドラ”なんて「うらぶれた薄気味悪い曲ですよ」という演奏をされていながら、そのピアノの音色(おんしょく)では真昼間に出てきたユーレイのようで全然気味悪くない。。。残念!!ッていう感じ。

“メフィスト・ワルツ”もアゴーギグというか極端なフレージングでデフォルメされており、いい効果を挙げていると思う私とやりすぎと引いちゃう私の両方がいます。ただ、最後気持ちよく盛り上がって盛大に終わるかと思いきや、“ひょいっ”と消えてしまうような終わり方をされたのは、ちょっと予想外で、私は好意的に思いましたけど。。。

とにかく第一級の個性を持った巨匠による、期待通りの巨匠風な味わいが縦横に詰まっている一枚です。楽しめるかどうかは聴いた人が判断してくださいな。
私は“ノルマの回想”は名演だと思います。

★浮遊するワルツ
                  (演奏:青柳 いづみこ)

1.ショパン:6つのワルツ
2.シューベルト/ドホナーニ編:高雅なワルツ
3.ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
4.サティ:嫌らしい気取り屋の3つの高雅なワルツ
5.リスト:メフィスト・ワルツ第1番
6.ドビュッシー:ロマンティックなワルツ
7.ドビュッシー:レントよりなお遅く
                  (2003年録音)

この“メフィスト・ワルツ”はもっともオーセンティックな演奏として共感できるものです。前にロ短調ソナタで紹介した野島稔さんの演奏と双璧だと思います。とっても情感もたっぷりなんだけど余計なことをしていない。そこに共感できます。
とってもいい演奏で好きです。
この方も日本人としての良さをお持ちだと思うし、無意識に共有しているものがあるのかもしれませんね。間違いなく“日本語”など日本の風習は共有しているし。。。

この盤も青柳さんならではのコンセプトアルバムですが、楽曲の要請するところに沿った演奏でありながら、すべて青柳色で塗られている。

彼女といえばやはりドビュッシーの演奏が注目されるわけですが、ほかのドビュッシー盤と共通する風合いで、さすがこの作曲家のオーソリティーだと思わせられます。
日本人演奏家によるドビュッシー解釈では、今のところ青柳さんの説得力に勝るものはないと感じられます。ドビュッシーが想像していた解釈とは、いささか趣を異にするとは思いますが。。。
ホントに例えば“レントよりなお遅く”のまとっている響きは、なんと表現したら良いのだろう?
古色を感じさせながら、とても親密で豊かでもある。。。
そんな奇跡的な音で綴られた末に、思いがけず消える。それがえもいわれぬ余韻となっています。

★メフィスト・ワルツ~キーシン・プレイズ・シューベルト & リスト
                  (演奏:エフゲニー・キーシン)

1.シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960
2.シューベルト/リスト編:セレナード S.560-7
3.シューベルト/リスト編:さすらい S.565-1
4.シューベルト/リスト編:どこへ? S.565-5
5.シューベルト/リスト編:すみか S.560-3
6.リスト:メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」S.514
                  (2003年録音)

この言い方がキーシンにとってどう響くか判りませんが、この邦題は私にとって極めて適切に思われるのです。
このディスクのプログラムを見る限り、メインディッシュはシューベルトの“変ロ長調ソナタ”であり、他の曲はフィルアップの位置づけだと思われます。
でも、タイトルは“メフィスト・ワルツ”になっています。。。

実は私は“変ロ長調ソナタ”のディスクを、リストの“ロ短調ソナタ”の倍以上の枚数所有しています。その耳で聴いた結論を申し上げると、キーシンのそれははっきりいって食い足りないです。
確かに独自色が打ち出された集中力にもこと欠かない演奏だとは思いますけれど。
ただこれも小山実稚恵さんのリスト小品集を最初に聴いたときのように、次代の音楽の萌芽の解釈で、私がついていけていないだけなのかもしれませんが。。。

第一楽章の出だしはたっぷりと夢の奥から沸きあがってくるような感じで期待を持ったのですが、途中やはり性急に過ぎるように思われるところが散見されてちょっと興ざめしてしまいました。

第二楽章と第四楽章は、もう少し練ってくださいという感じ。
第一楽章もそうですが、左手が三連符で伴奏するときの旋律の歌い方が、一般的に認知されているシューベルトの世界に遊ぶさまを表現できていない。。。

大家になったころまた録音してくれると思うので、それに期待したいと思います。

翻って“メフィスト・ワルツ”。
元気はつらつ、美しいピアノの音をたっぷりと鳴らしきって騒々しいところも、誘惑されちゃいそうなところも、表現の幅を考えうる限り広く取った快演が繰り広げられます。
最後の終わり方なんて、もう黙って聴いておられず上気してしまってかぶりついてしまいました。言葉もないほど素晴らしい。これが実演なら立ち上がって拍手しちゃうもん、私。
キーシン・アズ・ザ・NO,1ヴィルトゥオーゾ!!

終わりよければすべてよしではありませんが、シューベルトの歌曲の編曲の演奏もキーシンは定評があるところであり(昔のシューマンの“献呈”のライブなどのほうが生気に溢れててたけど。。。スタジオ録音なんでまとまりが良すぎちゃったかもしれない)、後半しり上がりに楽しみが増してゆき、最後ははじけちゃって大団円となるいいディスクだといっておきましょう。

それにしても、シューベルトの特集には手を出さないようにしようっと。
“変ロ長調ソナタ”については、特に気に入った盤のみ近日中にご紹介します。
さすがにこのソナタが、最も私がディスクを所有している枚数が多い楽曲であると思います。シューベルトは即興曲も多いけど。。。