★J.S.バッハ:ゴルドベルク変奏曲
(演奏:シモーヌ・ディナースティン)
※J.S.バッハ:ゴルドベルク変奏曲全曲
(2005年録音)
まずはタイトルに関わらず、2010年の当バックステージにおけるレコード大賞(便宜上クラシックのみ)の発表を進めさせていただきます。
発売年等は一切無視、今年私が手に入れたディスクの中から気に入ったものをチョイスしている・・・
ルールはこれだけです。
【殿堂入り:高橋多佳子賞】
◆高橋多佳子:シューマン作品集
このディスクは、やはり今年ぶっちぎりでよく聴きましたね。
とにかく聴き慣れたという意味で、シューマンのピアノ音楽への免疫がかなり高まったと思います。
◆高橋多佳子:ショパンwithフレンズ:メンデルスゾーンとともに
今年のショパンの初期作品再発見のひとつの基準になりました。
以前から持っていたメンデルスゾーンの無言歌集のディスクを引っ張り出す契機にもなりました。
ちなみに無言歌集のディスクを再度聴きなおした中ではメジューエワ盤、トヴェルスカヤ盤が今の私のフィーリングに合っていました。
※SACDでのショパン再発盤も従来の盤と気配が少し違っていて、興味深く聴けました。
【最優秀ディスク賞】
◆ニコライ・デミジェンコ:フレデリック・ショパン作品集
6月の記事のとおりです。
ファツィオーリによるこの盤の演奏と多くのプログラムが共通している、ショパン協会版でのフォルテピアノでの演奏との聴き比べも楽しいものがありました。
ベートーヴェンのハンマークラヴィーア・ソナタの盤とあわせて今年もっとも充実が納得できたピアニストでありディスクですね。
【優秀ディスク賞】
◆宮谷理香:SONATA
これまたよく聴いたディスクです。
手に取りたくなる理由は、聴き映えのするショパンを弾くピアニストという基準ではなく、ショパンを感じさせるピアニストという基準に照らすと屈指の存在だという点にあります。
(もちろんこの演奏が聴き映えしないという意味ではありません。)
本場(あるいは本場の第一人者の先生について)で熟成させた作曲家の薫りを、同世代の日本人の感性で顕してくれるピアニスト・演奏が(ショパンに限らず)私には肌が合うようです。
◆アナトール・ウゴルスキ:スクリャービン『ピアノ・ソナタ全曲集』
正直言えばDGから出ていた4曲の選集のほうが万人向けの楷書タッチだと思いましたし、どちらかといえば好きです。
でも・・・
新しいディスクはとんでもなく深化して、自分の周りだけをロウソクで点しているようなインティメートな雰囲気、それでいて1音も揺るがせにしない真摯ですごい存在感を感じさせる演奏になっていました。
普段聞くならDG盤を採るんでしょうが、なにかしらの覚悟(?)ができたときにこの盤を手に取ると何かが起こりそうな気がします。
神秘和音の向こうにトリップできるか、呪縛されるかはバイオリズムによりましょう。
この人、実は恐ろしく真面目な人だと思います。
◆ラザール・ベルマン:リスト『巡礼の年・全曲』
最初に聴いたときは感動に打ち震えました。
小泉元首相が「感動した!」と叫びながら、貴乃花に賜杯を渡した時みたいに・・・。
来年のリストイヤー、リストの名演奏が目白押しになるだろうことが楽しみです。
◆アンドレィ・ニコルスキー:ショパン『24の前奏曲 ほか』
すごく率直な演奏だと思いました。
素直なので“すわり”がいいといったらいいのでしょうか?
奇を衒うところは何もありませんが、このように弾けといわれても、名だたるピアニストの誰もがおそらく弾けないことでありましょう。
しかるに得がたい演奏かな・・・と。
◆クラウデイオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー交響楽団:『ブラームス:交響曲第3番ほか』
晩秋といえばブラームスが私の定番。
交響曲は1番がバレンボイム(シカゴ響)、2番・4番がジュリーニ(ウィーンフィル)を本命盤としております。
これらの他、カラヤン・バーンスタイン・アーノンクール・ザンテルリンク・ハイティンクほかの全集盤を聴き散らかしてきましたが、第3番だけはどうにもこうにもピンとくるものがこれまでありませんでした。
今年になって他の3曲を持っていながら第3番だけは聴いていなかったアバドを、ひょんなことから耳にして驚いたのなんのって。
他の3曲とは録音の明瞭さが雲泥の差であるように感じ、あっという間に引き込まれてしまいました。
こんな音で録れるなら、アバドのベルリンフィルの数多あるディスクの評価は、もっともっと高くなるはずなのに。
ともあれ、ブラームスの交響曲第3番の私のフェバリットは当面このディスクということで。。。
ちなみに今年またまたひょんなことからアシュケナージのブラームスのピアノ・ソナタ第3番のディスクに出会いました。
発売されたころ買いそびれて、聴きそびれておりましたが、聴いたらなかなかよかったので追記しておきます。
ピアニスト・アシュケナージの聴き手を楽しませようとするポジティブな魂が、まだまだまだ健在だったころの好ましい演奏でした。
この曲もゲルバー盤を嚆矢に何十枚も聴いてきましたが、このところキーシン盤がもっとも楽しめるように思えてしまいます。
自分はもっと渋好みのはずだったんだけど・・・曲自体が渋いからかな。
◆シモーヌ・ディナースティン:バッハ・ゴルトベルク変奏曲
今回の記事で採り上げた冒頭の写真はこのディスクです。(^^;)
タイトルを「入り~ワンフレーズの魅惑」としたとおり、このピアニストの繰り出す音の佇まい、特に最初の出だしの雰囲気には、ガラス越しに細かい砂鉄の粉に磁石を向けたみたいにピッと意識をひとつ方向に持っていかれるかのような魅力があるのです。
これらの例で忘れがたいのは、リヒテルのチャイコフスキー「四季」盤、シューマン「色とりどりの情景」盤のさりげないながらも天上から降ってくるような音による出だし。
それから高橋多佳子さんのスクリャービンは幻想曲ロ短調の主題の出だしの萌え萌えな音色、内田光子さんがジェフリー・テイトの指揮で録音したときのモーツァルトピアノ協奏曲第20番のピアノの入り・・・わざとだとわかっていても身もだえしたくなっちゃう感じなどがあります。
さて・・・
ディナースティン嬢のそれは思慮深く敬虔そうにも聞こえるし、無垢なようにも聞こえるし・・・しかしてテンネンなのかもしれないとさえ思える非常に魅惑的な響。。。
男として放っておけないという感じとでも言ったらいいのか、女性はどう感じるのかがわからないからなんとも難しいところですが、とにかく私には気になるということだけ伝わって欲しいと思います。
彼女がソニーから年明け早々にバッハのプログラムで新譜を出すと聞いています。
すでに予約してありますが、とっても楽しみです。
特にコラール前奏曲が3篇、頭・中・最後と配置されていますが、彼女のこの音色・雰囲気の特質が最大限に生かされるのではないかと期待しているのです。
◆モルク&ストット『夜想曲(ショパン:チェロとピアノのための作品集)
これは気軽に聴いてよし、聴き込んでよしの硬軟兼ね備えたナイスなディスクです。
ショパンのチェロ・ソナタは大御所たちの演奏だとやや物々しい気がしていたのですが、この演奏からはそのような畏まった雰囲気はあまり感じられません。
聴く際の気分を選ばないという意味でも、重宝な1枚でした。
こうして眺めてみるとウゴルスキとモルク、今年の盤もなんとか入ってよかったな・・・
って感じのラインアップですね。
【新人賞】
◆エドナ・スターン嬢
現代ピアノでバッハの前奏曲とフーガの選集、プレイエルを弾いてショパンの変ロ短調ソナタを中心にしたプログラム、そしてシューマンの幻想曲をメインにした1枚、おまけにチェロのガイヤール嬢と組んでのショパンのチェロソナタほか・・・
どれも好印象で、一時期とりつかれたように聴きました。
いわば私にとってのAKB48でしたね。
【特別賞】
◆仲道郁代:ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集
ショパン・シューマンの記念年といいながら実は、私が今年もっとも聴いた音楽はベートーヴェンだったと思います。
その中にあってもっともすっきり聴きやすく、かといってここはというところを(難しい漢字にフリガナがふってあるように)ちゃんと聴き逃さないようにルバートやらサポートしてくれるようなこの全集の演奏はとっても素晴らしいと思います。
ベートーヴェンもベートーヴェン弾きとしての仲道さんをも再発見できたと言っていいと思います。
スケールの大きさもちゃんと感じられるようにピアノが鳴っています。
宮谷さんのところに書いたとおり、やはり本場の用語に堪能な世代の近い日本人が、日本人に聞き取りやすく通訳してくれる演奏が、私のようなシロートさんには心強い気がしてなりません。
付随して、多くのベートーヴェンを聴きました。
もっとも瞠目すべきはコヴァセヴィチの全集だと思います。いたるところで才気煥発、キラキラしています。
ギレリスも作品によって私の好みは当たりハズレがあるのですが、名前付きは概ね素晴らしいですね。
アラウは60年代の録音が好き、ハイドシェックは宇和島云々はちょっと私には合いませんがピアノヴォックスから出ている最後期の5つのソナタ盤はやりたい放題で爽快です。
あれほど素晴らしいと思っていたチッコリーニの全集が、なぜかバイオリズムが合わなくなっているようで・・・彼のほかのディスクはこれまでどおり素晴らしいと思って聴けているのに・・・不思議です。
ネルソン・フレイレ、ギャリック・オールソン、フランク・ブラレイ、メルヴィン・タン、長岡純子女史なんて面々のディスクにも楽しませてもらいました。
【逆特別賞】
◆一連のショパン協会による、歴史楽器による作品番号のあるショパン作品全曲演奏集
このシリーズの演奏はどの盤もハズレはなく、むしろ大当たりもあって凄い凄いと思っていたのに・・・。
この2~3年、1枚2,300円近くしていたシリーズをそろえること実に14枚・・・
都合30,000円前後の投資をしても大満足で聴いたのですが・・・特にシリーズ終盤の作品が発表されてまだ間もないこの時期に、全21枚組約9,000円で再発するとは何事でしょうか?
怒れるというか、脱力しちゃいました。
BUMP OF CHICHENのシングル盤を全部そろえていた若いファンの方の一部が、カップリング曲を集成した“present from you”というアルバムが出たときに憤りを隠さなかった気持ちがすごくよくわかります。
でも、おじさんが支払った金額はそれよりずっと高いんだよ・・・といったところで、彼らにはきっと関係ないことでありましょう。
【総評】
今年はハズレが少なかった・・・
というより入手したディスクがまた一段と少なくなったのでチャレンジして手に入れたものもなくハズれようがなかったというお寒い状況に終ったといえます。
また、夏ごろにソニーのウォークマンを手に入れたことをきっかけに、7~80年代の洋楽アルバムが自分の中ではリバイバルしちゃったこと、ニューミュージックと言われたころのJ-POP、21世紀に入ってからのJ-POPではたまたま触れて気になっていたアーティストを頻繁に聴いたりしていたことも、クラシックの新規開拓停滞に追い討ちをかけてしまいました。
実際、今年もっとも数多く聴いたアルバムは山下達郎の“FOR YOU”であることに間違いはありません。
ウォークマンを手に入れてすぐ、残暑厳しき折は、まさにこのアルバムの独壇場でありました。
Superflyの“Box Emotions”、LOVE PSYCHEDELICOの“Golden Grapefruit”もヘビー・ローテーションでしたねぇ~。
そういえば、ヘビー・ローテーションはさすがに進んでは聴きませんでしたけれど、街中で否応なく死ぬほど聴かされましたな・・・。(^^;)
クラシックに話を戻して・・・
来年はリストのメモリアルイヤーですから、ぜひとも目覚しいリストの作品集が現れることを願っています。
リストで聴き手として開眼したアーティストは、私にとっては大切な人が多いのです。
なんといってもクラウディオ・アラウ、ペトラルカのソネットの第104番、第123番やオーベルマンの谷が収められたリサイタル盤、これは神棚に上げたいぐらいの1枚です。
クラシックのピアノのガイドとなってくれたブレンデルの一連のリスト作品集も何一つ不満のないすばらしさ、ボレットのおおらかさ、ツィメルマンのロ短調ソナタ、スティーヴン・ハフの技のキレ、アモワイヤルの親しみやすさ・・・きりがありません。
きっとロ短調ソナタにはいくつも銘盤が加わると思いますが、個人的には『巡礼の年』と『詩的で宗教的な調べ』で耳を引きつけられ目を見開かせられるような経験を何度かしたいなと思っています。
さて・・・今晩はクリスマスイヴ。
ひとりだし、何を聴きましょうかねぇ~。
寝ちゃおうかな!?(^^;)
みなさま、よいお年を。
(演奏:シモーヌ・ディナースティン)
※J.S.バッハ:ゴルドベルク変奏曲全曲
(2005年録音)
まずはタイトルに関わらず、2010年の当バックステージにおけるレコード大賞(便宜上クラシックのみ)の発表を進めさせていただきます。
発売年等は一切無視、今年私が手に入れたディスクの中から気に入ったものをチョイスしている・・・
ルールはこれだけです。
【殿堂入り:高橋多佳子賞】
◆高橋多佳子:シューマン作品集
このディスクは、やはり今年ぶっちぎりでよく聴きましたね。
とにかく聴き慣れたという意味で、シューマンのピアノ音楽への免疫がかなり高まったと思います。
◆高橋多佳子:ショパンwithフレンズ:メンデルスゾーンとともに
今年のショパンの初期作品再発見のひとつの基準になりました。
以前から持っていたメンデルスゾーンの無言歌集のディスクを引っ張り出す契機にもなりました。
ちなみに無言歌集のディスクを再度聴きなおした中ではメジューエワ盤、トヴェルスカヤ盤が今の私のフィーリングに合っていました。
※SACDでのショパン再発盤も従来の盤と気配が少し違っていて、興味深く聴けました。
【最優秀ディスク賞】
◆ニコライ・デミジェンコ:フレデリック・ショパン作品集
6月の記事のとおりです。
ファツィオーリによるこの盤の演奏と多くのプログラムが共通している、ショパン協会版でのフォルテピアノでの演奏との聴き比べも楽しいものがありました。
ベートーヴェンのハンマークラヴィーア・ソナタの盤とあわせて今年もっとも充実が納得できたピアニストでありディスクですね。
【優秀ディスク賞】
◆宮谷理香:SONATA
これまたよく聴いたディスクです。
手に取りたくなる理由は、聴き映えのするショパンを弾くピアニストという基準ではなく、ショパンを感じさせるピアニストという基準に照らすと屈指の存在だという点にあります。
(もちろんこの演奏が聴き映えしないという意味ではありません。)
本場(あるいは本場の第一人者の先生について)で熟成させた作曲家の薫りを、同世代の日本人の感性で顕してくれるピアニスト・演奏が(ショパンに限らず)私には肌が合うようです。
◆アナトール・ウゴルスキ:スクリャービン『ピアノ・ソナタ全曲集』
正直言えばDGから出ていた4曲の選集のほうが万人向けの楷書タッチだと思いましたし、どちらかといえば好きです。
でも・・・
新しいディスクはとんでもなく深化して、自分の周りだけをロウソクで点しているようなインティメートな雰囲気、それでいて1音も揺るがせにしない真摯ですごい存在感を感じさせる演奏になっていました。
普段聞くならDG盤を採るんでしょうが、なにかしらの覚悟(?)ができたときにこの盤を手に取ると何かが起こりそうな気がします。
神秘和音の向こうにトリップできるか、呪縛されるかはバイオリズムによりましょう。
この人、実は恐ろしく真面目な人だと思います。
◆ラザール・ベルマン:リスト『巡礼の年・全曲』
最初に聴いたときは感動に打ち震えました。
小泉元首相が「感動した!」と叫びながら、貴乃花に賜杯を渡した時みたいに・・・。
来年のリストイヤー、リストの名演奏が目白押しになるだろうことが楽しみです。
◆アンドレィ・ニコルスキー:ショパン『24の前奏曲 ほか』
すごく率直な演奏だと思いました。
素直なので“すわり”がいいといったらいいのでしょうか?
奇を衒うところは何もありませんが、このように弾けといわれても、名だたるピアニストの誰もがおそらく弾けないことでありましょう。
しかるに得がたい演奏かな・・・と。
◆クラウデイオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー交響楽団:『ブラームス:交響曲第3番ほか』
晩秋といえばブラームスが私の定番。
交響曲は1番がバレンボイム(シカゴ響)、2番・4番がジュリーニ(ウィーンフィル)を本命盤としております。
これらの他、カラヤン・バーンスタイン・アーノンクール・ザンテルリンク・ハイティンクほかの全集盤を聴き散らかしてきましたが、第3番だけはどうにもこうにもピンとくるものがこれまでありませんでした。
今年になって他の3曲を持っていながら第3番だけは聴いていなかったアバドを、ひょんなことから耳にして驚いたのなんのって。
他の3曲とは録音の明瞭さが雲泥の差であるように感じ、あっという間に引き込まれてしまいました。
こんな音で録れるなら、アバドのベルリンフィルの数多あるディスクの評価は、もっともっと高くなるはずなのに。
ともあれ、ブラームスの交響曲第3番の私のフェバリットは当面このディスクということで。。。
ちなみに今年またまたひょんなことからアシュケナージのブラームスのピアノ・ソナタ第3番のディスクに出会いました。
発売されたころ買いそびれて、聴きそびれておりましたが、聴いたらなかなかよかったので追記しておきます。
ピアニスト・アシュケナージの聴き手を楽しませようとするポジティブな魂が、まだまだまだ健在だったころの好ましい演奏でした。
この曲もゲルバー盤を嚆矢に何十枚も聴いてきましたが、このところキーシン盤がもっとも楽しめるように思えてしまいます。
自分はもっと渋好みのはずだったんだけど・・・曲自体が渋いからかな。
◆シモーヌ・ディナースティン:バッハ・ゴルトベルク変奏曲
今回の記事で採り上げた冒頭の写真はこのディスクです。(^^;)
タイトルを「入り~ワンフレーズの魅惑」としたとおり、このピアニストの繰り出す音の佇まい、特に最初の出だしの雰囲気には、ガラス越しに細かい砂鉄の粉に磁石を向けたみたいにピッと意識をひとつ方向に持っていかれるかのような魅力があるのです。
これらの例で忘れがたいのは、リヒテルのチャイコフスキー「四季」盤、シューマン「色とりどりの情景」盤のさりげないながらも天上から降ってくるような音による出だし。
それから高橋多佳子さんのスクリャービンは幻想曲ロ短調の主題の出だしの萌え萌えな音色、内田光子さんがジェフリー・テイトの指揮で録音したときのモーツァルトピアノ協奏曲第20番のピアノの入り・・・わざとだとわかっていても身もだえしたくなっちゃう感じなどがあります。
さて・・・
ディナースティン嬢のそれは思慮深く敬虔そうにも聞こえるし、無垢なようにも聞こえるし・・・しかしてテンネンなのかもしれないとさえ思える非常に魅惑的な響。。。
男として放っておけないという感じとでも言ったらいいのか、女性はどう感じるのかがわからないからなんとも難しいところですが、とにかく私には気になるということだけ伝わって欲しいと思います。
彼女がソニーから年明け早々にバッハのプログラムで新譜を出すと聞いています。
すでに予約してありますが、とっても楽しみです。
特にコラール前奏曲が3篇、頭・中・最後と配置されていますが、彼女のこの音色・雰囲気の特質が最大限に生かされるのではないかと期待しているのです。
◆モルク&ストット『夜想曲(ショパン:チェロとピアノのための作品集)
これは気軽に聴いてよし、聴き込んでよしの硬軟兼ね備えたナイスなディスクです。
ショパンのチェロ・ソナタは大御所たちの演奏だとやや物々しい気がしていたのですが、この演奏からはそのような畏まった雰囲気はあまり感じられません。
聴く際の気分を選ばないという意味でも、重宝な1枚でした。
こうして眺めてみるとウゴルスキとモルク、今年の盤もなんとか入ってよかったな・・・
って感じのラインアップですね。
【新人賞】
◆エドナ・スターン嬢
現代ピアノでバッハの前奏曲とフーガの選集、プレイエルを弾いてショパンの変ロ短調ソナタを中心にしたプログラム、そしてシューマンの幻想曲をメインにした1枚、おまけにチェロのガイヤール嬢と組んでのショパンのチェロソナタほか・・・
どれも好印象で、一時期とりつかれたように聴きました。
いわば私にとってのAKB48でしたね。
【特別賞】
◆仲道郁代:ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集
ショパン・シューマンの記念年といいながら実は、私が今年もっとも聴いた音楽はベートーヴェンだったと思います。
その中にあってもっともすっきり聴きやすく、かといってここはというところを(難しい漢字にフリガナがふってあるように)ちゃんと聴き逃さないようにルバートやらサポートしてくれるようなこの全集の演奏はとっても素晴らしいと思います。
ベートーヴェンもベートーヴェン弾きとしての仲道さんをも再発見できたと言っていいと思います。
スケールの大きさもちゃんと感じられるようにピアノが鳴っています。
宮谷さんのところに書いたとおり、やはり本場の用語に堪能な世代の近い日本人が、日本人に聞き取りやすく通訳してくれる演奏が、私のようなシロートさんには心強い気がしてなりません。
付随して、多くのベートーヴェンを聴きました。
もっとも瞠目すべきはコヴァセヴィチの全集だと思います。いたるところで才気煥発、キラキラしています。
ギレリスも作品によって私の好みは当たりハズレがあるのですが、名前付きは概ね素晴らしいですね。
アラウは60年代の録音が好き、ハイドシェックは宇和島云々はちょっと私には合いませんがピアノヴォックスから出ている最後期の5つのソナタ盤はやりたい放題で爽快です。
あれほど素晴らしいと思っていたチッコリーニの全集が、なぜかバイオリズムが合わなくなっているようで・・・彼のほかのディスクはこれまでどおり素晴らしいと思って聴けているのに・・・不思議です。
ネルソン・フレイレ、ギャリック・オールソン、フランク・ブラレイ、メルヴィン・タン、長岡純子女史なんて面々のディスクにも楽しませてもらいました。
【逆特別賞】
◆一連のショパン協会による、歴史楽器による作品番号のあるショパン作品全曲演奏集
このシリーズの演奏はどの盤もハズレはなく、むしろ大当たりもあって凄い凄いと思っていたのに・・・。
この2~3年、1枚2,300円近くしていたシリーズをそろえること実に14枚・・・
都合30,000円前後の投資をしても大満足で聴いたのですが・・・特にシリーズ終盤の作品が発表されてまだ間もないこの時期に、全21枚組約9,000円で再発するとは何事でしょうか?
怒れるというか、脱力しちゃいました。
BUMP OF CHICHENのシングル盤を全部そろえていた若いファンの方の一部が、カップリング曲を集成した“present from you”というアルバムが出たときに憤りを隠さなかった気持ちがすごくよくわかります。
でも、おじさんが支払った金額はそれよりずっと高いんだよ・・・といったところで、彼らにはきっと関係ないことでありましょう。
【総評】
今年はハズレが少なかった・・・
というより入手したディスクがまた一段と少なくなったのでチャレンジして手に入れたものもなくハズれようがなかったというお寒い状況に終ったといえます。
また、夏ごろにソニーのウォークマンを手に入れたことをきっかけに、7~80年代の洋楽アルバムが自分の中ではリバイバルしちゃったこと、ニューミュージックと言われたころのJ-POP、21世紀に入ってからのJ-POPではたまたま触れて気になっていたアーティストを頻繁に聴いたりしていたことも、クラシックの新規開拓停滞に追い討ちをかけてしまいました。
実際、今年もっとも数多く聴いたアルバムは山下達郎の“FOR YOU”であることに間違いはありません。
ウォークマンを手に入れてすぐ、残暑厳しき折は、まさにこのアルバムの独壇場でありました。
Superflyの“Box Emotions”、LOVE PSYCHEDELICOの“Golden Grapefruit”もヘビー・ローテーションでしたねぇ~。
そういえば、ヘビー・ローテーションはさすがに進んでは聴きませんでしたけれど、街中で否応なく死ぬほど聴かされましたな・・・。(^^;)
クラシックに話を戻して・・・
来年はリストのメモリアルイヤーですから、ぜひとも目覚しいリストの作品集が現れることを願っています。
リストで聴き手として開眼したアーティストは、私にとっては大切な人が多いのです。
なんといってもクラウディオ・アラウ、ペトラルカのソネットの第104番、第123番やオーベルマンの谷が収められたリサイタル盤、これは神棚に上げたいぐらいの1枚です。
クラシックのピアノのガイドとなってくれたブレンデルの一連のリスト作品集も何一つ不満のないすばらしさ、ボレットのおおらかさ、ツィメルマンのロ短調ソナタ、スティーヴン・ハフの技のキレ、アモワイヤルの親しみやすさ・・・きりがありません。
きっとロ短調ソナタにはいくつも銘盤が加わると思いますが、個人的には『巡礼の年』と『詩的で宗教的な調べ』で耳を引きつけられ目を見開かせられるような経験を何度かしたいなと思っています。
さて・・・今晩はクリスマスイヴ。
ひとりだし、何を聴きましょうかねぇ~。
寝ちゃおうかな!?(^^;)
みなさま、よいお年を。