★“さろん・こんさーと・せき” 音楽との対話シリーズ No,84 高橋多佳子 ピアノ・リサイタル
《前半》
1.ドビュッシー :前奏曲集 第1集より 「亜麻色の髪の乙女」
2.ドビュッシー :子供の領分
3.シューベルト :即興曲 第4番 変イ長調 作品90-4
《後半》
4.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》
5.ショパン :バラード 第4番 ヘ短調 作品52
6.ショパン :ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53 《英雄》
《アンコール》
※ ショパン :練習曲 変イ長調 作品24-1 《エオリアンハープ》
※ ショパン :夜想曲 第2番 変ホ長調 作品9-2
(2012年10月10日 関市文化会館小ホールにて)
行きの高速で気温10℃という表示を見て半そで開襟シャツを後悔しましたが、(すばらしい響きの音響板加工が施されているけど、ステージが高くて体育館みたいな)演奏会場でピアニストの衣装を見たときに文句はいうまい・・・と。
もちろん快適、本当に行けてよかったと思えるリサイタルでした。
ご本人のブログでご活躍ぶりは承知していたとはいえ、音を聴いてすっかり納得。
ますます安定感を増した演奏とときどきドキッとするトークにすっかり魅了されて・・・ステージの余韻に浸るあまり、帰りの道を間違えてしまったほど。。。
そもそもこのコンサート、高橋多佳子さん本人のブログでのアナウンス以外にネットのどこを探しても情報らしい情報はなし・・・
で、連絡先に電話させてもらったもののなかなか要領を得ず、とにかく『当日券がある』という言葉を信じて「伺います」という状態で家を出ました。
なんてプロモーションなんだと思ってましたが、開演時にはほぼ満席。
このシリーズ・・・全く知らなかったのですが・・・84回目ともなると、耳の肥えたお客さんが関市にはいっぱいおられるので宣伝はいらないんですね。
そして、手作り感いっぱいのプログラムをはじめ休憩時のホワイエ(?)の珈琲サービスなど、首都圏のコンサートホールでは望めない独特のこなれた運営がステキでした。
演奏は生誕150周年のドビュッシーから・・・
「亜麻色の髪の乙女」でしっとりと始まり、なにぶんサロン・コンサートなのでトーク全開。
同じフランスの作曲家ラヴェルの「ボレロ」の話からお約束の展開でつかみはオッケー・・・
トークがイケイケの多佳子さんは絶好調の証拠と思って聴いたらその通り、「子供の領分」は初めて聴くレパートリーでしたが、6曲それぞれの1音目からの背景づくりが出色で必然的にキーとなるフレーズがよく映える・・・
最後の音をキメるところも第1曲は杭を打ち込むように、第2曲は脱力・・・という感じで、まったく惑いなくわかりやすい。
印象深かったのは、第1曲の音色のペダルを使った混ぜ合わせ方の新鮮さ、第4曲の雪がちらつく描写でミケランジェリに勝るとも劣らない雰囲気を感じたこと、第6曲のワーグナー旋律とケークウォークの合いの手をはっきり対象的に弾かれたこと・・・
いずれも多佳子さんらしくて、聴いていて楽しかったです。
ここからは幼いころから一生懸命勉強した懐かしいレパートリー・・・
変イ長調好きの多佳子さんが選んだシューベルトの即興曲はやはり第4番。
私はハ短調の第1番が好きで多佳子さんの演奏でも感銘を受けたものですが、もっとも多く聴いているこの曲はやはりすっかり手の内に入っている様子で何度聞いても味わい深いものでありました。
装飾音のきらめきとそれに負けずせめぎあうテナー声部の旋律・・・
もちろん素晴らしい演奏はいくつもあるでしょうが、少なくともこの点は実演での多佳子さんからしか聴けない白眉と感じる大切な瞬間でした。
後半・・・
にこやかに壇上に現れるなり、何の思いれもなくピアノを弾きはじめ・・・おぉ、アルゲリッチみたいだ!
それが何の曲かはネタバレになるかもしれないから書きませんが、後半トークもつかみはオッケー!!
神の受難のハ短調・・・
「悲愴」はあづみのでも聴いたレパートリー、以前の演奏よりも(ピアノの音色の性格が違うせいもありましょうが)一層オーソドックスで安定しているように聞き取れました。
曲がベートーヴェンなだけに衒いなく普通に弾いたらそれぞれの演奏家の個性が自然に浮き上がり、真に魅力あるピアニストなら聴き手を飽きさせることなく聴かせられるはずと、個人的には考えています。
自分を主張する(本人は楽譜に忠実に弾いているといっていることが多いけれど)タイプの演奏をされるピアニストには、しばしば却ってベートーヴェンの良さを損なってしまう危惧がありますが、そこは多佳子さん、浮足立ったような箇所はみじんもなく確信をもって演奏してくれました。
ベートーヴェンでは、高橋多佳子の演奏であることを証明しようとしなくていい・・・
そう思うのですが、第一楽章のグラーヴェの和音を長く保持するところで、調性を決定する音をわざとそれとわかるように途中で消すという未だかつて聞いたことがない工夫をしておられたと思います。
最初はえっと思ったのですが、繰り返しでも、中間部でも同じ処理をされていたので、なにか考えがおありなんでしょう。。。
楽譜がどうとか全然わからないので是非を論じるのは埒外ですが、今でもすごく印象に残っています。
第二楽章、こちらはこの楽章でこれほど癒された演奏はかつてないと感じるほどにしっくりきました。
お好きな変イ長調だからでしょうか・・・
テンポをいじらないのに雄弁で懐が深い。。。
ここでも前打音の扱いに多佳子さんの主張が感じられましたが・・・
こちらにはコロッとやられてしまいましたから(少なくとも私には)効果抜群だったのではないでしょうか。
終楽章・・・
終演後に多佳子さんが言いたかったことはわかったつもりですが、私にはベートーヴェンの良さをもっとも感じられた楽章かもしれません。
第一楽章はピアニスト高橋多佳子の主張を、第二楽章は多佳子さんのよさを感じてましたから、ベートーヴェンの良さが聴けてうれしかったです。
今後ベートーヴェンをもっと弾きたいという多佳子さん・・・
8年後が生誕250周年ですからツィクルスのスタートにはちょうどいい頃合でしょうか?
ソナタ全曲聴ければもちろんいいですけど如いて挙げるなら、第3番、第4番、第6番、第15番、第23番、第24番、第26番以降全部・・・とりわけ第29番、そして弾いてくれていながら聴くことができていない第31番・・・期待が高まります。
すでに聴いたことはありますがテンペスト、ワルトシュタインももちろん大歓迎だなぁ~。
宣言通りベートーヴェンを引っ提げて、また関でリサイタルをしてください。
しんがりはショパン。
私のためにバラ4を入れてくれてありがとうといいたくなるプログラムですが、解釈の基本はCDとも新宿の講習会ともまったく変わらず、本当に練り上げられ完成されたバージョンだということがわかります。
第二主題回帰前のパッセージの疾走感がやはり生演奏という迫力であること、そして第二主題回帰の「希望の光が見える」箇所への入り方がちょっと聴きCD演奏よりは控えめになったけれど実際には感動を昂める効果が高まっている・・・と感じとれます。
何度聞いても感動させられてしまう、ピアニスト自身が「曲が素晴らしすぎて」と感じてチャレンジし続けてくれているからこその魔法なのでしょう。
英雄ポロネーズもしかり・・・
すべての曲をとおして全体を通して演奏の構成がはっきりすっきりしていて、場面切替が自然でわかりやすいことが安心して聴ける秘訣だと感じます。
細かい工夫もほんとうにいろいろなさっていると聴いていてわかる気がするのですが、ディテールにこだわるあまり全体感が脆弱にならないことは、ドキっとさせる美音を武器とする点で共通しながら、かの歴史に名を成す大ピアニストよりもしかしたら高橋多佳子が優っている点かもしれません。
プログラムの最後も変イ長調なら・・・最初に惹いてくれたエオリアン・ハープも変イ長調。。。
これまたこまかなアルペジオの音色のブレンドが、いつにも増して表情豊かで感激。
りかりんさんとのデビューコンサートのソロで聴いたときは、単音の旋律の音色にビンビンきた覚えがありますが、それとは別種の全体としての潤いある演奏が堪能できました。
アンコールのリラックスした雰囲気・・・いや、お人柄がでた演奏だったんでしょう。
ラスト、もう一曲と断って演奏されたのは作品9-2のノクターン。
なにか特別の仕掛けがあるわけではないのに、曲の世界に惹きこまれ、あっという間に終わってしまう・・・
惜しいようだけれど、充足した気持ちでいっぱいになれる、今回もそんな素敵なコンサートでした。
「悲愴」のところでハ短調と対照した変ホ長調を紹介しておられたので、最後はこの調性で締めくくりたかったのかな?
オシャレなアイディアだと思いました。
多佳子さんと、調律師さん、そして関市でこのリサイタルを企画してくれた方に感謝です。
《前半》
1.ドビュッシー :前奏曲集 第1集より 「亜麻色の髪の乙女」
2.ドビュッシー :子供の領分
3.シューベルト :即興曲 第4番 変イ長調 作品90-4
《後半》
4.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》
5.ショパン :バラード 第4番 ヘ短調 作品52
6.ショパン :ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53 《英雄》
《アンコール》
※ ショパン :練習曲 変イ長調 作品24-1 《エオリアンハープ》
※ ショパン :夜想曲 第2番 変ホ長調 作品9-2
(2012年10月10日 関市文化会館小ホールにて)
行きの高速で気温10℃という表示を見て半そで開襟シャツを後悔しましたが、(すばらしい響きの音響板加工が施されているけど、ステージが高くて体育館みたいな)演奏会場でピアニストの衣装を見たときに文句はいうまい・・・と。
もちろん快適、本当に行けてよかったと思えるリサイタルでした。
ご本人のブログでご活躍ぶりは承知していたとはいえ、音を聴いてすっかり納得。
ますます安定感を増した演奏とときどきドキッとするトークにすっかり魅了されて・・・ステージの余韻に浸るあまり、帰りの道を間違えてしまったほど。。。
そもそもこのコンサート、高橋多佳子さん本人のブログでのアナウンス以外にネットのどこを探しても情報らしい情報はなし・・・
で、連絡先に電話させてもらったもののなかなか要領を得ず、とにかく『当日券がある』という言葉を信じて「伺います」という状態で家を出ました。
なんてプロモーションなんだと思ってましたが、開演時にはほぼ満席。
このシリーズ・・・全く知らなかったのですが・・・84回目ともなると、耳の肥えたお客さんが関市にはいっぱいおられるので宣伝はいらないんですね。
そして、手作り感いっぱいのプログラムをはじめ休憩時のホワイエ(?)の珈琲サービスなど、首都圏のコンサートホールでは望めない独特のこなれた運営がステキでした。
演奏は生誕150周年のドビュッシーから・・・
「亜麻色の髪の乙女」でしっとりと始まり、なにぶんサロン・コンサートなのでトーク全開。
同じフランスの作曲家ラヴェルの「ボレロ」の話からお約束の展開でつかみはオッケー・・・
トークがイケイケの多佳子さんは絶好調の証拠と思って聴いたらその通り、「子供の領分」は初めて聴くレパートリーでしたが、6曲それぞれの1音目からの背景づくりが出色で必然的にキーとなるフレーズがよく映える・・・
最後の音をキメるところも第1曲は杭を打ち込むように、第2曲は脱力・・・という感じで、まったく惑いなくわかりやすい。
印象深かったのは、第1曲の音色のペダルを使った混ぜ合わせ方の新鮮さ、第4曲の雪がちらつく描写でミケランジェリに勝るとも劣らない雰囲気を感じたこと、第6曲のワーグナー旋律とケークウォークの合いの手をはっきり対象的に弾かれたこと・・・
いずれも多佳子さんらしくて、聴いていて楽しかったです。
ここからは幼いころから一生懸命勉強した懐かしいレパートリー・・・
変イ長調好きの多佳子さんが選んだシューベルトの即興曲はやはり第4番。
私はハ短調の第1番が好きで多佳子さんの演奏でも感銘を受けたものですが、もっとも多く聴いているこの曲はやはりすっかり手の内に入っている様子で何度聞いても味わい深いものでありました。
装飾音のきらめきとそれに負けずせめぎあうテナー声部の旋律・・・
もちろん素晴らしい演奏はいくつもあるでしょうが、少なくともこの点は実演での多佳子さんからしか聴けない白眉と感じる大切な瞬間でした。
後半・・・
にこやかに壇上に現れるなり、何の思いれもなくピアノを弾きはじめ・・・おぉ、アルゲリッチみたいだ!
それが何の曲かはネタバレになるかもしれないから書きませんが、後半トークもつかみはオッケー!!
神の受難のハ短調・・・
「悲愴」はあづみのでも聴いたレパートリー、以前の演奏よりも(ピアノの音色の性格が違うせいもありましょうが)一層オーソドックスで安定しているように聞き取れました。
曲がベートーヴェンなだけに衒いなく普通に弾いたらそれぞれの演奏家の個性が自然に浮き上がり、真に魅力あるピアニストなら聴き手を飽きさせることなく聴かせられるはずと、個人的には考えています。
自分を主張する(本人は楽譜に忠実に弾いているといっていることが多いけれど)タイプの演奏をされるピアニストには、しばしば却ってベートーヴェンの良さを損なってしまう危惧がありますが、そこは多佳子さん、浮足立ったような箇所はみじんもなく確信をもって演奏してくれました。
ベートーヴェンでは、高橋多佳子の演奏であることを証明しようとしなくていい・・・
そう思うのですが、第一楽章のグラーヴェの和音を長く保持するところで、調性を決定する音をわざとそれとわかるように途中で消すという未だかつて聞いたことがない工夫をしておられたと思います。
最初はえっと思ったのですが、繰り返しでも、中間部でも同じ処理をされていたので、なにか考えがおありなんでしょう。。。
楽譜がどうとか全然わからないので是非を論じるのは埒外ですが、今でもすごく印象に残っています。
第二楽章、こちらはこの楽章でこれほど癒された演奏はかつてないと感じるほどにしっくりきました。
お好きな変イ長調だからでしょうか・・・
テンポをいじらないのに雄弁で懐が深い。。。
ここでも前打音の扱いに多佳子さんの主張が感じられましたが・・・
こちらにはコロッとやられてしまいましたから(少なくとも私には)効果抜群だったのではないでしょうか。
終楽章・・・
終演後に多佳子さんが言いたかったことはわかったつもりですが、私にはベートーヴェンの良さをもっとも感じられた楽章かもしれません。
第一楽章はピアニスト高橋多佳子の主張を、第二楽章は多佳子さんのよさを感じてましたから、ベートーヴェンの良さが聴けてうれしかったです。
今後ベートーヴェンをもっと弾きたいという多佳子さん・・・
8年後が生誕250周年ですからツィクルスのスタートにはちょうどいい頃合でしょうか?
ソナタ全曲聴ければもちろんいいですけど如いて挙げるなら、第3番、第4番、第6番、第15番、第23番、第24番、第26番以降全部・・・とりわけ第29番、そして弾いてくれていながら聴くことができていない第31番・・・期待が高まります。
すでに聴いたことはありますがテンペスト、ワルトシュタインももちろん大歓迎だなぁ~。
宣言通りベートーヴェンを引っ提げて、また関でリサイタルをしてください。
しんがりはショパン。
私のためにバラ4を入れてくれてありがとうといいたくなるプログラムですが、解釈の基本はCDとも新宿の講習会ともまったく変わらず、本当に練り上げられ完成されたバージョンだということがわかります。
第二主題回帰前のパッセージの疾走感がやはり生演奏という迫力であること、そして第二主題回帰の「希望の光が見える」箇所への入り方がちょっと聴きCD演奏よりは控えめになったけれど実際には感動を昂める効果が高まっている・・・と感じとれます。
何度聞いても感動させられてしまう、ピアニスト自身が「曲が素晴らしすぎて」と感じてチャレンジし続けてくれているからこその魔法なのでしょう。
英雄ポロネーズもしかり・・・
すべての曲をとおして全体を通して演奏の構成がはっきりすっきりしていて、場面切替が自然でわかりやすいことが安心して聴ける秘訣だと感じます。
細かい工夫もほんとうにいろいろなさっていると聴いていてわかる気がするのですが、ディテールにこだわるあまり全体感が脆弱にならないことは、ドキっとさせる美音を武器とする点で共通しながら、かの歴史に名を成す大ピアニストよりもしかしたら高橋多佳子が優っている点かもしれません。
プログラムの最後も変イ長調なら・・・最初に惹いてくれたエオリアン・ハープも変イ長調。。。
これまたこまかなアルペジオの音色のブレンドが、いつにも増して表情豊かで感激。
りかりんさんとのデビューコンサートのソロで聴いたときは、単音の旋律の音色にビンビンきた覚えがありますが、それとは別種の全体としての潤いある演奏が堪能できました。
アンコールのリラックスした雰囲気・・・いや、お人柄がでた演奏だったんでしょう。
ラスト、もう一曲と断って演奏されたのは作品9-2のノクターン。
なにか特別の仕掛けがあるわけではないのに、曲の世界に惹きこまれ、あっという間に終わってしまう・・・
惜しいようだけれど、充足した気持ちでいっぱいになれる、今回もそんな素敵なコンサートでした。
「悲愴」のところでハ短調と対照した変ホ長調を紹介しておられたので、最後はこの調性で締めくくりたかったのかな?
オシャレなアイディアだと思いました。
多佳子さんと、調律師さん、そして関市でこのリサイタルを企画してくれた方に感謝です。