わたしの好きな詩人

毎月原則として第4土曜日に歌人、俳人の「私の好きな詩人」を1作掲載します。

スカシカシパン草子 第11回 コスモプラネタリウム渋谷について

2013-07-05 23:30:47 | 詩客

 ハチ公前から東急の中を通って、西口へと出る。左手には最近出来た屋外分煙所の白い衝立。ちょっと、田舎のテーマパークなどにある、夏休みの子供向けに特設された迷路みたいにも見える。脇の立体歩道橋を上がって、まっすぐ進み、突き当たったら右側の階段を下りる。楽器屋KEYのある通り、ずっしりと重みのある色艶のギターやベースやサックスが、街路樹や高いビル陰で年中暗い道の片側に煌いている坂道の通りを、てっ辺までのぼり切ると、明るいピンクと青の二色刷り、ファミレス・ジョナサンの看板が現れる。そのすぐ右に、十二階建ての建物、屋上には輝く銀色のドーム。「コスモプラネタリウム渋谷」までは、このような道のりを経て辿り着く。 

 十二階に着いたら、券売機に千円札を入れる。あなたがもし大人なら、見たい回の大人用ボタンを押すと、百円玉が四枚つり銭口から出てくる。青っぽい、ドームが印刷されたチケットを手に入れたら、開演までの時間をチェックする。もし三十分以内ならば、待合室に備え付けられたベンチで、置かれている『月刊 天文ガイド』や『ニュートン』などを眺めつつ待つといい。十五分前になったら、入場列に並ぶ。もたもたしていると、あっという間に列は長くなって、休日の最終回ともなれば座席は満員、見やすい席には座れなくなる。

 いまや半数以上のプラネタリウムは、お決まりの星空解説のみならず、宇宙に関する映像を投影していると思う。「コスモプラネタリウム渋谷」も同じで、常時四作以上の番組が公開されている。だいたい二ヶ月で最古の番組と新番組が入れ代わるらしい。他のプラネタリウムと一線を画すのは、番組のセレクトだ。区営や市営のプラネタリウムの番組は子ども向けすぎるし、商業施設のカップル向けプラネタリウムも苦笑してしまうけれど、ここは映像美重視の上に、結構難しい話まで聞かせてくる。SF超大作のような出来にもかかわらず、宇宙の話であるため、基本的に話そのものはサイエンス・ノンフィクションであるのが魅力的。メガスターで映し出される星はアンドロメダ星雲の一粒一粒まで見えて、怖いくらい細かい。鑑賞環境もとてもいい。床は絨毯、シートは布張りのリクライニングで、正面向かって左右の座席は、ちゃんと見やすい方向まで回転する。

 良いプラネタリウムの効能は、まず自分がどうでもよくなることだ。他人がどうでもよくなることだ。生きている人間や社会がどうでもよくなって、人類の歴史もどうでもよくなって、それが途中で折り返して、なんでもない日常にささやかに愛を感じるようになる。軽く、臨死体験をしたような気持ちになれるのだ。めちゃくちゃ嫌なことがあった日には、決まってここにいくことにしている。

 そういえば、「日本未来科学館」のプラネタリウムも、以前一度だけ訪れて、なかなか良かった。当時「夜はやさしい Tender is the Night」という谷川俊太郎さん原作、麻生久美子さん朗読の番組が上演されていたのだが、残念ながら上演回が終わっていた。夏にはどのプラネタリウムでも、こぞって宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を様々なバージョンで投影する。「銀河鉄道の夜」もいいけど、たまには詩(たとえば「薤露青」、「北いっぱいの星ぞらに」)も、上演してくたらいいなあと思う。朗読は、草なぎ剛さんとか、どうだろう。


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