谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(28)(創元社、2018年02月10日発行)
「風景と音楽」は詩か、エッセイか。こういう文章がある。
私はこの「快さ」を体験したことがない。乗り物の中で音楽を聞くのは、たぶん乗り物の中で何もすることがないときだが、私は何もすることがないと寝てしまう。音楽を聞こうとは思わない。
風景と音楽で思い出すのは、映画である。映画ではいろんなシーンに音楽が流れる。自然には存在しない音が、映像につけくわえられている。私はあまり映画音楽にも興味がない。音楽がない方がおもしろいかも、と思ったりする。
風景には風景の音があり、それで十分である。
いまでもときどき思い出すのだが、フィヨルドクルーズの船を待っていたときのことである。どこかわからないが、滝の音がする。周り中に滝があり、どの滝の音か、私にはわからなかった。風があって、その風が旗を揺らしている。ロープがポールに当たり、カンカンと音がする。それは滝の音と非常によくあっていた。いつまで聞いていてもあきない透明感があった。そして、その滝の水だろうか、空気は雪解けの冷たい匂いがした。
自然の中に「ある」音は、あるとき別の「ある」音と響きあう。それが音楽かどうかはわからないが、私はその「ある」の交渉がおもしろいと感じる。
これが、私の体験。
で、谷川の書いていることを、私は一度も体験したことがないなあと思いながら、さらに読み進むと、こうしめくくられる。
うーん。
映画のシーンについて書いたが、まるで映画だなあ。
映画でなら、こういうシーンで感動するかもしれないが、実際の風景の中で私は感動できるかどうか、わからない。音楽を忘れて、風景の方に引き込まれていく。
私は風景と音楽を一緒に楽しむという習慣がない。
風景(自然)の中で歌を歌うというのは、なんとなく、わかる。「肉体」を「音」にして、自然と交わるという感じ。でも、自然の中で音楽を聞くというのは、気恥ずかしい感じがする。私には。たぶん、私の育った「山の中」では「音楽」というものが日常的ではなかったためだろう。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
「風景と音楽」は詩か、エッセイか。こういう文章がある。
乗り物の中で移動しながら音楽を聞くのが好きだ。窓外を流れる
風景と音楽がひとつになる快さ。
私はこの「快さ」を体験したことがない。乗り物の中で音楽を聞くのは、たぶん乗り物の中で何もすることがないときだが、私は何もすることがないと寝てしまう。音楽を聞こうとは思わない。
風景と音楽で思い出すのは、映画である。映画ではいろんなシーンに音楽が流れる。自然には存在しない音が、映像につけくわえられている。私はあまり映画音楽にも興味がない。音楽がない方がおもしろいかも、と思ったりする。
風景には風景の音があり、それで十分である。
いまでもときどき思い出すのだが、フィヨルドクルーズの船を待っていたときのことである。どこかわからないが、滝の音がする。周り中に滝があり、どの滝の音か、私にはわからなかった。風があって、その風が旗を揺らしている。ロープがポールに当たり、カンカンと音がする。それは滝の音と非常によくあっていた。いつまで聞いていてもあきない透明感があった。そして、その滝の水だろうか、空気は雪解けの冷たい匂いがした。
自然の中に「ある」音は、あるとき別の「ある」音と響きあう。それが音楽かどうかはわからないが、私はその「ある」の交渉がおもしろいと感じる。
これが、私の体験。
で、谷川の書いていることを、私は一度も体験したことがないなあと思いながら、さらに読み進むと、こうしめくくられる。
グランド・キャニオン観光のヘリコプターの中で、リヒャルト・
シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』を聞いたことも
ある。ヘリポートを飛び立ってしばらくは平地の林の上を飛ぶ、そ
の間は「炎のランナー」が流れている。突如深さ一・六キロの谷が
真下に口をあける、その瞬間音楽が『ツァラトゥストラ』に切り替
わる。気がついたら驚いたことに自分の目からボワーッと涙が溢れ
ていた。
うーん。
映画のシーンについて書いたが、まるで映画だなあ。
映画でなら、こういうシーンで感動するかもしれないが、実際の風景の中で私は感動できるかどうか、わからない。音楽を忘れて、風景の方に引き込まれていく。
私は風景と音楽を一緒に楽しむという習慣がない。
風景(自然)の中で歌を歌うというのは、なんとなく、わかる。「肉体」を「音」にして、自然と交わるという感じ。でも、自然の中で音楽を聞くというのは、気恥ずかしい感じがする。私には。たぶん、私の育った「山の中」では「音楽」というものが日常的ではなかったためだろう。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
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