西脇順三郎の一行(59)
この1行は、夕陽が落ちたあとのコップを描写している。だんだん暗くなる。そのなかでコップがだんだん見えなくなる。最後に見えるコップの輪郭--それを「黒い」といっているところがとてもおもしろい。
私は実際を確かめずに、自分の記憶の中で世界を再現してみるのだが、暗くなる室内でコップを見るとき、その輪郭は「黒い」だろうか。むしろ、わずかに残る光を集めて光っているのではないだろうか。反射がどこかにあるのではないだろうか。「黒」を入れた光の輪郭が残るのではないだろうか。
でも、その輪郭のなかに「黒い」ものが見える。だから「黒いコップ」というのだ。
「コップの黒い輪郭」ではなく、「黒いコップ」がまずあって、それから「輪郭」がやってくる。そういう「認識(?)」の動きを、そのまま描いている。そこには「一瞬」のことだけれど「認識の時差」のようなものがある。それがおもしろい。
「えてるにたす Ⅰ」
黒いコップの輪郭が残る (71ページ)
この1行は、夕陽が落ちたあとのコップを描写している。だんだん暗くなる。そのなかでコップがだんだん見えなくなる。最後に見えるコップの輪郭--それを「黒い」といっているところがとてもおもしろい。
私は実際を確かめずに、自分の記憶の中で世界を再現してみるのだが、暗くなる室内でコップを見るとき、その輪郭は「黒い」だろうか。むしろ、わずかに残る光を集めて光っているのではないだろうか。反射がどこかにあるのではないだろうか。「黒」を入れた光の輪郭が残るのではないだろうか。
でも、その輪郭のなかに「黒い」ものが見える。だから「黒いコップ」というのだ。
「コップの黒い輪郭」ではなく、「黒いコップ」がまずあって、それから「輪郭」がやってくる。そういう「認識(?)」の動きを、そのまま描いている。そこには「一瞬」のことだけれど「認識の時差」のようなものがある。それがおもしろい。