「こころ(精神)は存在しない」という私の考える私が、こんなことを書くと矛盾していることになるのだが。「心」ということばが出てくる文章に感動したのである。
いま、日本語を勉強しているイタリアの青年と孟子を読んでいる。その「告子章句 上」(講談社学術文庫)の361ページに、「心」をふくむ次のことばがある。(私のワープロでは出てこない感じがあるので、一部は変更してある。)
人、鶏犬の放すること有れば、則ち之を求むるを知る。心を放すること有りて、求るを知らず。学問の道は他なし。其の放心を求むるのみ。
逆説的な言い方になるのかもしれないが。
「こころがない」という考えに達したから、その「ないこころ」(なくしたこころ)を取り戻すために、私は本を読むのかもしれない。孟子を読みながら、突然、そう思ったのである。そして、それが勘当の原因である。
私は、感動したとき、どうしても脱線してしまうのだが。
私の意識のどこかに、和辻哲郎が「古寺巡礼」に書き記した父の質問がいつも「つまずきの石」のようにして存在する。「お前のやっていることは、道のためにどれだけ役に立つのか」。
和辻はいざ知らず、私のやっていることが「道に役立つ」ことはないだろう。
だれにも影響を与えることはない。しかし。もし「自分自身の道」というものがあるとしたら、その「自分自身の道」の役には立つだろうなあ、と思う。これは、自己満足の世界だが、私はもうそんなに長生きするわけではない。せめて「自己満足」のために、自分のいのちをつかいたいと思う。
「学ぶ」というのは、現象を超えた法(理)に触れることだろう。それをことばにすることはできない。すでに多くの人がことばにしているが、そのことばを私は理解しているとも言えない。「法(理)が存在する」ということさえ、私の「誤読」かもしれない。
たぶん、私は孟子の書いた「こころ」を「法(理)」と「誤読」し、さらに「法(理)即学問」と「誤読」を重ねているのだろう。
法(理=学問)を放すること有りて、求るを知らず。学問の道は他なし。其の放法(理/学問)を求むるのみ。
「学問」を「問い、学ぶ」というふたつの動詞に「誤読」しながら、ことばを読む。
これは、なかなか、楽しい。何よりも、金がかからないから、年金生活者には最適。本は、すでに買い求めてあるから、新しいものはいらない。「古典」と呼ばれているものが、とても楽しい。
ところで、引用した文章に「則ち」ということばが出てくる。「即ち」ということばもある。「則ち」と「即ち」は、どう違うのか。「鶏犬の放すること有れば、則ち之を求むる」は「鶏や犬がいなくなった場合は」だろう。「その場」という意味で「即ち」をつかったことばに「即興」があるから、「即ち」もつかえそうだが、私の印象は少し違う。「即ち」の場合は、何か密接な、ぴったり重なった、あることがらの「表裏一体/一心同体」という感じがする。「法/理/学(問)」の「/」が「即」だなあ。「学問」ということばは「学則問」であり「問即学」が結晶して区別がつかなくなった状態だね、と自分勝手に「誤読」するのである。
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