詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

嶋岡晨「空きカン・ブルース」

2019-01-17 10:39:59 | 詩(雑誌・同人誌)
嶋岡晨「空きカン・ブルース」( 「みらいらん」3、2019年01月15日発行)

 嶋岡晨「空きカン・ブルース」は前半が楽しい。

かんからかーん どんな授業もずらかって
蹴っ飛ばせ カンカラカーン
人生しょせんあっけらかーん

ラベルは剥がれ
大和煮だったかパイナップルだったか
旨そうに食ったやつの顔だけが
              残って

 缶蹴りはいまでも子供の遊びだろうか。ぜんぜん見かけない。いつごろまで缶蹴り遊びはできたのだろうか。
 さて。
 そういう子供のときの「人生」ってなんだろう。
 缶詰というのは、私の子供の頃は手頃ではなかった。特に私は田舎の貧乏農家だから、めったに缶詰は買わない。だから缶詰が「大和煮」か「パイナップル」かわからなくなっても、空き缶を持ってきた友達の顔は忘れない。旨かったんだろうなあ。
 でも、こういうことも蹴飛ばして、まさにあっけらかーん。いや、あっけらかーんのなかに、それが缶詰の底にこびりついた汁のように残ってはいるのだが。
 そういうことが、「肉体」の感覚として思い出されてくる。
 でも、このあとから、少しずつ微妙に変化する。

からころ転がる存在にたまる雨水
流れる雲 流れる星がうつる
あのいらただしいカン切りの音だけ
              よみがえり

 「カン切り」か。いまは、プルアップ方式に変わってしまった。カン切りをつかって缶詰を開けたのは、いつが最後かな。思い出せない。でも、コキコキコキと動かすときのあの音、たしかに「いらただしい」ものがあるね。切り口のぎざぎざにも。
 これも、はっきり思い出すことができる。

どぶ川で泥水すすり
蹴飛ばしたやつの靴音を反芻し

おれを満たすものは何か
手術皿のなかの 鉗子のきらめき?

生まれそこねた食欲を 遠く
             遠く蹴飛ばして

カンカラカーン
       すっからかーん……。

 おもしろくなくなってくる。「意味」はわかるんだけれどね。
 「手術皿のなかの 鉗子のきらめき」が「生まれそこねた」につながるのも、ある種の「論理的」な動きとしてはわかるんだけれどね。

 嫌いなのは、でも、そういう「論理的」な動き。

 その直前の「おれを満たすものは何か」の答えが、こういう形をとることが、私の「肉体」には納得ができない。「肉体」がいやがる。
 あれ、「旨そうに食ったやつの顔」が嶋岡を満たしたのではなかったのか、という疑問が生まれてくる。大和煮もパイナップルも関係ない。もちろん食べたいが、それよりも「食ったんだぜ」とことばに出さずに自慢するやつの顔に対する嫉妬でいっぱいになる。それは恥ずかしいけれど、なつかしい思い出であり、忘れてはいけない感覚なのだ。私の「肉体」は、そう抗議している。
 忘れてはいけないけれど、こだわってもいけない。思い出すたびに、振り切って、笑い飛ばす。
 そういうことが「すっからかーん」じゃないかなあ。






*

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