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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

新井啓子「うたかたうた」、長嶋南子「こんなこと」

2016-09-08 08:23:37 | 詩(雑誌・同人誌)
新井啓子「うたかたうた」、長嶋南子「こんなこと」(「Zero」5、2016年09月05日発行)

 新井啓子「うたかたうた」は「かた」という音がたくさん出てくる詩である。

一斉メールが来る
お盆には還暦の同窓会をしましょう
かたびらつけて厄落しのお祓いもしましょう
(喪中だから お祓いは ちょっと)
この前の やかたぶね船上同窓会にはいけなかったから
後ろ髪を引かれる
生まれた町で初盆のその暮れかた 何をしているか
洗い物かたづけながら家族にかたる

 冗談のようにして書かれていた「かたびらつけて厄落しのお祓いもしましょう」の「かたびら」の「かた」に刺戟されて思いついたのかもしれない。「やかたぶね」の、いきなりずらした「音」から始まり、いけな「かった」という乱れを越えて、「暮れかた」「かたづけ」「かたる」の「暮れかた」が美しく響く。「頭」ではなく「尻」にでてきて、あ、「かた」だと気づくせいかなあ。「くれ」という暗い音からはじまり、「かた」と明るくおわるところが、夏っぽいのかなあ。「……ながら家族にかたる」の「か(が)」の繰り返しも、特に変わっているわけではないが、「かたる」が妙に楽しい。
 二連目のはじまりは、こうなっている。

小学校では あのこに
かきかた鉛筆の持ちかたが違うと言われ
中指にタコができるまで練習したのよ
(かたこと かたこい かたやき煎餅)

 「かきかた」鉛筆がいいなあ。鉛筆でも「意味(注意されたこと)」は同じなのに「かきかた」と「かた」をつけくわえている。「持ちかた」に「かた」があるのだけれど、この「持ちかた」の「もち」は「かたやき煎餅」の「餅」になって反逆(?)してくる。こんなところもおもしろい。
 そのあとも「ゆかた」とか「あとかた」「かたぎ」「かたぼう」「かたたがえ」という具合に続くのだが、しつこくなる寸前で終わっている。「もの足りない」という人もいるかもしれないが、こういう作品は「もの足りない」くらいが気楽かなあ、と思う。



 長島南子「こんなこと」は「どんなこと」なのか、よくわからない。

こんなことになるとは
思ってもみませんでした
こんなことは
予告なしにやってきました
気づかないでまいにち
ノーテンキにお弁当を食べていたのです
占い師は転換期がきたというのです
こんなことになってから
お弁当は上の空
なにを食べているのやら

 わからないけれど、何かが突然起きる。そして、その何かによって、いままでのことが今までどおりでは行かなくなる。「ノーテンキにお弁当を食べていたのです」が「お弁当は上の空/なにを食べているのやら」に変わる。「こんなこと」になった長嶋には申し訳ないが、私はここで笑ってしまった。「ノーテンキ」に弁当を食べているときだって、「何を食べているか」なんて、そんなに意識しないだろう。だから「ノーテンキ」というのだと思うが、「意識しない」と「意識できない」は違っている。その「違い」を、かるく、かるーく書いている。その軽さに笑ってしまった。「こんなこと」になってしまって、それが重大問題なら弁当を食べるよりもすることがあるだろうに……。
 まあ、こんなことは、大したことではない。「批評」でも「感想」でもない。単なる私の「軽口」。

夢のなかにも
こんなことがあらわれて
わたしの脳をつつくのです
頭蓋骨に穴があいてしまいました
みっともないので
かつらをつけています
まいばんつつかれるで
穴は大きくなりました
空っぽ頭になったので
こんなこととはなんだったのか
わたしは本当はなにを恐れていたのか
わからなくなりました
穴は大きくなったので
かつらはもっと大きなものに
つくりかえなければなりません

 「こんなこと」が何かわからなくなっても、「かつらはもっと大きなものに/つくりかえなければなりません」ということは、わかる。この「わからない」と「わかる」の「ずれ」がおもしろい。
 何が起きるわけでもいないのだが。ここから何かを考え始めるというわけでもないのだが、こういう奇妙な「わかりかた」というのはあるなあ、と思うのである。






水椀―新井啓子詩集
クリエーター情報なし
詩学社

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