ターセム・シン監督「セルフレス 覚醒した記憶」(★)
監督 ターセム・シン 出演 ライアン・レイノルズ、ベン・キングズレー、マシュー・グード
荒唐無稽の映画は細部が大事である。ベン・キングズレーが登場していたシーンは、現実(?)のせいか、細部が丁寧に描かれていた。ように、思う。ように、思うというのは、あんな豪華な家を私は知らないからである。知らないけれど、ニューヨークの金持ちはこんなに豪華に暮らしていると、わかる。
家に帰って来て、鍵を、バスケットボールで背中越しにパスする容量で椅子の上に放り投げるシーン(これは、あとの伏線になっている)とか、レストランでピーナツのアレルギーの話をするところなんかも丁寧。最後のコーヒーを飲む前に、スプーンで一回すくってみるところなんかも、「心理描写」としておもしろい。
でも、それ以後がテキトー。「脳の転移(?)」後が、あまりにもストーリー中心的。
バスケットをするシーンだけ、あ、ベン・キングズレーだと思わせるのだけれど、ほかはライアン・レイノルズの「肉体」がベン・キングズレーを引っ張りまわしている。海兵隊員(?)の「肉体」がかってに動いてしまう。それなのに、思考はベン・キングズレーとライアン・レイノルズがきちんと分類されていて、混乱というものがいっさい起きない。ベン・キングズレーは、自分になぜ、そういう行動ができるか、ということを疑問に思わない。鍵を背中越しに投げるような、「癖」が「思考」として描かれない。
それなのに、ライアン・レイノルズの「思考」の癖を気にする。幻覚に出てきた幼い少女は誰? まあ、監督、脚本家は、「娘との時間」になんとか、そういうものを重ねているつもりなんだろうけれど、切実さがない。ストーリーの「説明」にすぎない。
ベン・キングズレー(の思考/頭脳?)が、助けを求めに行った友人(会社のパートナー)の家で、すべての鏡にカーテンがしてあるのに気づき、そこから「異変」を感じ取るというのは、よくできているようにみえるかもしれないが、それだってご都合主義。どこかの映画でもあったかもしれないなあ。
しかし、なんといっても問題なのは、「脳の転移」の「細部」。あんなMRTの簡易装置みたいなもので、「脳の転移」ができるとは思わないし、その「病院」の安全管理がずさん。セットがあまりにも安直。ビニールのカーテンの印象しか残らない。(これも、どこかの映画であったぞ。)こんなところで、こんなことができるはずがない。まあ、どうでもいいんだろうなあ。「脳の転移」手術の副作用を抑える「薬」の分析が簡単にできてしまっているというのも、まるで笑い話。(これは、どの映画にもないぞ。)
で。
一番のクライマックス。マジックミラー越しに火炎放射器(?)でライアン・レイノルズとマシュー・グードが向き合い、対決するシーン。ここだけが嘘の話の中で「リアル」。マシュー・グードが鏡のなかの自分の姿が歪むので、幻覚がはじまったと思い薬を飲む。だが、それは幻覚ではなく、火炎放射器で鏡が焼かれているために、鏡が歪んでいた、というのだが……。
これって、ロベール・アンリコ監督の「追想」(フィリップ・ノワレ主演)のラストシーンじゃないか。妻と娘を殺された男が自宅の迷路というか、熟知している自宅の構造を利用して戦うシーンと同じ。戦争(闘い)は、侵略者が負ける。その「場」を熟知しているものが、必ず勝つ。これはアメリカのベトナム戦争での「証明」した事実、アメリカが敗北することで「証明」された戦争の事実。
これが「応用」されているのだけれど。
もし、こういうシーンを「応用」するのなら、それはその病院のことを熟知しているマシュー・グードでなければいけない。ライアン・レイノルズが「応用」するのなら、それは彼が住んでいた家でなければならない。その家での銃撃戦のとき、ライアン・レイノルズは床下にもぐりこんで、風通しの格子越しに銃を撃った。ライアン・レイノルズがどこに隠れているか、家の構造を知らない男たちは、そのために負ける。
ほら、戦いを有利に奨めることができる(勝つことができる)のは、その「場」を熟知した人間である(侵略者は負ける)という「証明された事実」が、そこでくりかえされているでしょ?
でも、その「戦争の本質」が無視されている。このあたりが、とてもずさん。
あっちこっちの映画をつまみ食いしながらつくった映画だからだね。私はロベール・アンリコ監督「追想」(★★★★★)が大好きなので、よけいに、そんなふうに感じるのかもしれないが。
(天神東宝ソラリアスクリーン9、2016年09月10日)
*
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映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
監督 ターセム・シン 出演 ライアン・レイノルズ、ベン・キングズレー、マシュー・グード
荒唐無稽の映画は細部が大事である。ベン・キングズレーが登場していたシーンは、現実(?)のせいか、細部が丁寧に描かれていた。ように、思う。ように、思うというのは、あんな豪華な家を私は知らないからである。知らないけれど、ニューヨークの金持ちはこんなに豪華に暮らしていると、わかる。
家に帰って来て、鍵を、バスケットボールで背中越しにパスする容量で椅子の上に放り投げるシーン(これは、あとの伏線になっている)とか、レストランでピーナツのアレルギーの話をするところなんかも丁寧。最後のコーヒーを飲む前に、スプーンで一回すくってみるところなんかも、「心理描写」としておもしろい。
でも、それ以後がテキトー。「脳の転移(?)」後が、あまりにもストーリー中心的。
バスケットをするシーンだけ、あ、ベン・キングズレーだと思わせるのだけれど、ほかはライアン・レイノルズの「肉体」がベン・キングズレーを引っ張りまわしている。海兵隊員(?)の「肉体」がかってに動いてしまう。それなのに、思考はベン・キングズレーとライアン・レイノルズがきちんと分類されていて、混乱というものがいっさい起きない。ベン・キングズレーは、自分になぜ、そういう行動ができるか、ということを疑問に思わない。鍵を背中越しに投げるような、「癖」が「思考」として描かれない。
それなのに、ライアン・レイノルズの「思考」の癖を気にする。幻覚に出てきた幼い少女は誰? まあ、監督、脚本家は、「娘との時間」になんとか、そういうものを重ねているつもりなんだろうけれど、切実さがない。ストーリーの「説明」にすぎない。
ベン・キングズレー(の思考/頭脳?)が、助けを求めに行った友人(会社のパートナー)の家で、すべての鏡にカーテンがしてあるのに気づき、そこから「異変」を感じ取るというのは、よくできているようにみえるかもしれないが、それだってご都合主義。どこかの映画でもあったかもしれないなあ。
しかし、なんといっても問題なのは、「脳の転移」の「細部」。あんなMRTの簡易装置みたいなもので、「脳の転移」ができるとは思わないし、その「病院」の安全管理がずさん。セットがあまりにも安直。ビニールのカーテンの印象しか残らない。(これも、どこかの映画であったぞ。)こんなところで、こんなことができるはずがない。まあ、どうでもいいんだろうなあ。「脳の転移」手術の副作用を抑える「薬」の分析が簡単にできてしまっているというのも、まるで笑い話。(これは、どの映画にもないぞ。)
で。
一番のクライマックス。マジックミラー越しに火炎放射器(?)でライアン・レイノルズとマシュー・グードが向き合い、対決するシーン。ここだけが嘘の話の中で「リアル」。マシュー・グードが鏡のなかの自分の姿が歪むので、幻覚がはじまったと思い薬を飲む。だが、それは幻覚ではなく、火炎放射器で鏡が焼かれているために、鏡が歪んでいた、というのだが……。
これって、ロベール・アンリコ監督の「追想」(フィリップ・ノワレ主演)のラストシーンじゃないか。妻と娘を殺された男が自宅の迷路というか、熟知している自宅の構造を利用して戦うシーンと同じ。戦争(闘い)は、侵略者が負ける。その「場」を熟知しているものが、必ず勝つ。これはアメリカのベトナム戦争での「証明」した事実、アメリカが敗北することで「証明」された戦争の事実。
これが「応用」されているのだけれど。
もし、こういうシーンを「応用」するのなら、それはその病院のことを熟知しているマシュー・グードでなければいけない。ライアン・レイノルズが「応用」するのなら、それは彼が住んでいた家でなければならない。その家での銃撃戦のとき、ライアン・レイノルズは床下にもぐりこんで、風通しの格子越しに銃を撃った。ライアン・レイノルズがどこに隠れているか、家の構造を知らない男たちは、そのために負ける。
ほら、戦いを有利に奨めることができる(勝つことができる)のは、その「場」を熟知した人間である(侵略者は負ける)という「証明された事実」が、そこでくりかえされているでしょ?
でも、その「戦争の本質」が無視されている。このあたりが、とてもずさん。
あっちこっちの映画をつまみ食いしながらつくった映画だからだね。私はロベール・アンリコ監督「追想」(★★★★★)が大好きなので、よけいに、そんなふうに感じるのかもしれないが。
(天神東宝ソラリアスクリーン9、2016年09月10日)
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